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神託の翻訳者~僕だけ読める神託の石板は最強のアーティファクトでした~  作者: 猫柱


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11.学園生活に必要なもの


─登校日、初日。

校門前には緊張の面持ちの子供らが、(たむろ)していた。


重厚な鎧を纏う少年、ローブに身を包んだ少女。(いくさ)に向かうような装いは、ダンジョン攻略においての正装。


寧ろ、武装していない学生の方が、多くの生徒のなか、浮いた存在となっていた。


教室までの命懸けの道程。装備だろうがスキルだろうが、使えるものは使う精神。

それが、『ダンジョン学園』である。


校門前、メンバーを募集する少年の声が響く。急所のみ金属で守られた軽装備、背丈ほどの長槍。


ピカピカに耀く装備は、手入れが行き届いていると言うより未使用に近い、新入生の証。


短い茶髪の少年は、人懐っこそうな笑みで、勧誘を続ける。


しかし、朝方の通学路は既にパーティを組んだ生徒で溢れている。単独、ひとりで門を潜る者は見当たらず、難航していた。


「充実した学園生活に『友達』は必須。俺達と一緒に登校しませんか!」


そこへ、一人(ソロ)の少年が通り掛かる。

ラフな私服姿に盾のような石板を抱えた少年は、勇気を振り絞って声を掛けた。


「あの、学園生活に友達は必須なんですか?」


茶髪の少年はしまったと顔を顔を(しか)め、言葉を詰まらせた。謳い文句を真に受ける者がいるとは思っていなかったのだ。


石板の少年を値踏みするように眺める。

防具なし、武器なし、盾は石製。

脳内面接の結果、─不合格。


「もちろん! ただ、いまは戦力の高い友達を募集しているんだ。ごめんね」


そうですか、としょんぼり下を向いた少年は一人、校門を潜った。


単独(ソロ)、一人で通学する者は少数派。

余程の実力者かパーティすら組めない弱者の二択。


石板の少年は後者だろうと哀れみの表情で見送った。


「あれ? さっきの人は?」


パーティメンバー、魔法使いの少年が息絶え絶えに尋ねた。


「あぁ、ひ弱そうな盾役(シールダー)、しかも非武装だったから断ったよ」


「え? でも、あのひと『リク』に勝利した人だよね?」


「マジ? あの最強候補の?」


「そう、まじまじ。で、追い払ったってマジ?」


茶髪の少年は気まずそうに背後を振り返ると後悔の表情を浮かべる。まさか、前者の方だとは思いもしなかった。逃がした魚は大きい。


昨日の試合中、ぐっすり寝ていたことを改めて後悔した。


同じ勇者として、リクが負けるなど微塵も思ってもいなかったのだ。気が緩むのは当然といえば当然。


勇者召還直後、『模擬戦』の苦い思い出を昨日のことのように思い出す。


『勇者』。

今は亡き『魔王』討伐のために召還される存在意義を失った最強戦力。


だが、召還術の仕組みを聞いたとき、王族を恨む気にはなれなかった。


王城内で召還された彼らは、召還直前の記憶を代償にチート級のスキルが顕現する。


記憶を犠牲にした神の恩寵ギフト

それが通常より強力な勇者スキルの正体。


個体差があるスキルは実践形式のテストに則り、評価(らんくづけ)される。


数多の『勇者』がリクに挑み、破れた。

つまらなそうに他者を見下す、冷たい視線を今でも覚えている。


Sランクの少年は、名実共に最強だった。


それを一介のレグナリア人が一方的に打破するなど、予想な出来る筈はない。


ただひとつ、敗北を経験したリクがどんな表情だったのか、リアルタイムで見れなかったことを酷く残念に感じた。


Ж


「おはようマルス! やはり君が一番乗りか!」


開口一番、満開な笑顔(えみ)

ご機嫌な様子のリクにマルスも笑顔を投げ掛けた。


「おはようリク、なんか嬉しいことあった?」


「鼻をへし折られる感覚って、悪くないよな」


「鼻が折れたの? 大丈夫?」


「あぁ、問題ない。それに、疑問が解けてスッキリもした」


「疑問?」


「そう、勇者召還っておかしいだろ?」


「?」


「だってさ、もう魔王はいないんだぜ? 何でまだ勇者を召還するのか不思議に思わないか?」


「それは、そうだね」


「勇者は殆どが未成年、魔力はなく、知識はレベルは低い。メリットは強力なスキル」


「ふむふむ」


「スキルが活きるのは戦闘。つまり、レグナリアは戦力を求めている」


「ダンジョン攻略のためでしょ?」


「それは表向きの理由だろう? じゃなければ武器を召喚できる王女さまが王宮内で出来損ない扱いなんてされない筈さ」


「あれは王宮で聞いた悪口だったの?」


「あぁ、しかも王女さまは俺たちを強制送還するため...」


「強制ではありません。戻りたい者だけ戻します。あなた方にも大切な人はいるでしょう?」


「あれ、あなたは...」


青髪ポニーテールの少女。卒業した筈のトウカが教室の入口前に佇んでいた。


「あっ、見えませんよね。私はここに居ます」


ひょっこりと、トウカの後ろから顔を覗かせた王女さまは、笑みを浮かべ一歩前に出る。


「皆さん、ごきげんよう」


「ごきげんよう!」


「おはよう、お姫さまも、このクラスなのか?」


「そう聞いています。宜しくお願いしますね」


無礼か無礼講なのかラフな会話姿勢を崩さないリクは適当に「よろしく」と相槌を打ち、話を戻した。


「んで、戻すったって宛はあるのか?」


「あります。勇者召還が止められないのは次の魔王が必ず現れるという事情が大きく関わっているでしょう」


「復活する、のか?」


「いえ、顕現、違う魔王が急に現れるのです。これは、何かに似ていると思いませんか?」


「...勇者、召還?」


「素晴らしい! その通りです。では、魔王が復活するためは何かが必要だと推測されます。何でしょうか?」


「アーティファクト、もしくはダンジョン?」


「そう、断定は出来ませんが、後者だと言われています。」


「魔王は俺たちを利用しようって魂胆なのか?」


「分かりません。ですが、ダンジョンは魔物を排出します。これは、魔王の世界と通じている可能性があるということでしょう」


「じゃあ、ダンジョン攻略は止めた方がいいんじゃねぇか?」


「いけません。それでは、魔物が溢れ出すでしょう。それに、捜索するなら魔王のいない今が好機であることは事実なのです」


「つまり、魔王の世界に攻め混むのか?」


「それはあり得ません。目的は、魔王や魔物が送り出される仕組みを解明することです」


「それを利用して俺達を送り返すってことか」


「その通りです!」


「あの...これ、ダンジョン産アーティファクトなんですけど、持っていて大丈夫ですかね?」


「うぇ!? マジかよ」


「その石板、少しお借りしますね」


石板をじっと見詰め、表面を指でなぞった。


「逾樊酪」


「読めるの?」


「いえ、同じ文字で書かれた書物を見たことがあるだけです。読むことは出来ません。マルスは、これが読めますか?」


「もちろんです! 僕のスキルは『翻訳』ですから」


「まぁ、それは...」


「ダンジョン産アーティファクトは、その物自体が害をなすことは少ない。寧ろ、勇者装備が宝物として残されていた報告すらあるのだ」


「うげっ」


「ごきげんよう、副学園長」


「ヴァルドール・グレイヴンハルトさん!」


「どうやら、始業時間前に到着出来たのはお前たちだけのようだな」


相変わらずパンパンに膨らんだローブを着用したヴァルドールさんが、壇上に立った。


「待ってください!」


バンッ!と空け放たれた教室の入口には肩を揺らしたフルプレートアーマーが立ち尽くしていた。


「ふむ、まだ10秒前だ。ギリギリ間に合ったな」


入口扉を閉めに歩くヴァルドールさんを睨み付けるリクに、校門前の疑問を聞いてみた。


「ねぇ、学園生活に友達は必須って、本当?」


「ん? 俺ほど強いと必須じゃないが、殆んどが必要だろうな」


「ねぇ、僕と『友達』になってくれる?」


「...何いってんだ、お前?」


「駄目、かな?」


少しだけ恥ずかしそうに鼻頭を掻いたリクが小声で答えた。


「昨日戦った俺たちは、もう友達だろう?」


「うんっ! 友達だね!」


「バカ野郎! 声がでかいっ」

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