護衛の少女の圧が凄い
護衛少女がやたらと前に出てくる。
物理的にも。
精神的にも。
「今日の晩ご飯、私が作りますね。いつかあなたの奥様になるんですから」
「初耳だぞ」
「細かいこと気にしないでください」
普通、護衛と言えばもっとこう――無口で、影に徹して、命令があれば命を投げ出す存在ではないだろうか。
少なくとも「私、エプロン似合うと思うんです」とか言わない。
彼女は剣より先に婚姻届を差し出してくるタイプだった。
圧が強い。
敵よりも強い。
神話に出てくる魔王でもこの圧はないんじゃないか?
彼女は基本的にやる気がない。
護衛という仕事も『この人はは絶妙に相手になれなさそう』という理由で選んだらしい。
だが、働きたくないという意思だけはアホほど高かった。
「正直に言いますね」
彼女は真顔で言った。
「私、出世も名誉も興味ありません。できれば一生、あなたの嫁として最低限の家事だけして生きたいです」
「最低限とは」
「そりゃ、毎日のご飯作るくらいです」
妥協点が低すぎる。
「なので! 私で妥協して!」
必死だった。
命を守る時より必死だ。
彼女はいつでも私の隣に立っていた。
剣を構え、抜け目なく当たりに目を光らせていた。
その頼もしい防御がそのまま私の逃げ道を塞いでいた事に気付くべきだった。
まぁ、 命を預ける相手としては悪くないのかもしれない。
そう思ってしまった時点で多分私はもう負けているのだろうな。
そう思いながらも。
「まだ妥協するつもりはない」
「ええー!?」
私は今日も彼女をあしらった。




