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深夜二時のハングアウト  作者: 充電


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第69話 推しの行動ログ未公開

深夜二時を少し回ったファミレスは、正月の残骸をまだ引きずっていた。


鏡餅は撤去されたが、BGMだけが名残惜しそうに和風アレンジのポップスを流している。


姫川はカウンター席に陣取り、ストローを意味もなく回していた。


グラスの中身は三分の一ほど残っているが、飲む気配はない。


「ねえ、モモコさん」


「なぁに、姫ちゃん。今日は静かじゃない」


「私、正月から胸騒ぎが止まらなくて」


「それ年中行事よ」


モモコはパフェのグラスを優雅に持ち上げ、クリームを一口すくった。


その仕草は無駄に落ち着いている。


「正月ってさぁ」


モモコが何気なく続ける。


「人の本性、出るわよね」


姫川の眉がぴくりと動いた。


「……どういう意味ですか?」


「あら、そんなに構えなくてもいいじゃない」


モモコは笑いながら、スプーンを置いた。


「この前、神社で雨露くん見かけたのよ」


「……へえ」


まだ平常。

姫川はそう自分に言い聞かせた。


「初詣」


「……そうですか」


「文月先生と一緒だったわ」


空気が一段階、下がった。


「……え?」


「並んで歩いてた。静か〜に」


姫川の手から、ストローが落ちた。


「ちょっと待ってください」


「なぁに?」


「それ、いつの話ですか」


「三が日ちょっと過ぎた頃かしら」


姫川の脳内で、雨露の私服が勝手に生成される。


制服ではない。

業務ではない。

神社。


「……二人で?」


「二人で」


「偶然ですか?」


「らしいわよ」


「信じられない」


姫川は立ち上がった。


「偶然で、初詣行きます!?」


「行く人は行くわね」


「しかも、文月先生と!!」


声が大きくなり、店内の視線が集まる。


カウンター奥で伝票を整理していた雨露が、一瞬だけこちらを見た。


目が合いそうになり、姫川は反射的に背筋を伸ばす。


雨露は何も言わず、視線を戻した。


それが、余計に心をかき乱した。


「……で?」


姫川はモモコに詰め寄る。


「それだけじゃないでしょ」


「あら、鋭い」


モモコは楽しそうに笑った。


「そのあと、うどん屋入ってったわよ」


「は?」


「参道の」


「……」


「向かい合って座って」


「……」


「普通に食べてた」


姫川はその場に崩れ落ちるように椅子に座った。


「それ……」


声が震える。


「それ、デートじゃないですか……」


「違う違う」


モモコは即座に首を振った。


「色気ゼロ。二人とも“無”だったもの」


「“無”で初詣行くの、逆に怖いです!!」



姫川は天井を見上げた。


「じゃあ何なんですか……二人で神社行って、うどん食べて………」


「偶然らしいわよ」


「偶然でそんなコンボ成立します!?」


モモコは肩をすくめる。


「深夜ファミレスの人間関係なんて、だいたい偶然の積み重ねよ」


姫川はゆっくり座り直した。


「……私、初詣、行き直します」


「誰と?」


「一人で……うどん食べます」


「それはそれで地雷ね」


姫川はカウンターに突っ伏し、小さく呟いた。


「……神様、推しの行動ログ開示してください……」


その背後で、雨露は淡々とコーヒーを置いた。


「ご注文以上でしたら、お伺いしますが」


姫川は顔を上げ、にっこり笑った。


「……今日は情報だけでお腹いっぱいです」


雨露は一瞬だけ間を置き、


「それは何よりです」


とだけ返して、厨房に戻った。


モモコはその背中を見て、楽しそうに笑った。


「ほんと罪深いわねぇ」


姫川は何も言えなかった。


正月は、もう終わっている。

だが、余波だけが、深夜二時まで残っていた。

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