第65話 自称女子力の定義が一致しない夜
深夜二時のファミレスは、女子会向きではない。
そう断言してもいいはずなのに、なぜかこの時間帯には、女子会が発生する。
安藤、モモコ、姫川の三人は、ドリンクバーの前で一度集結し、「とりあえず座ろう」という誰の指示でもない合意のもと、奥の席に落ち着いた。
「女子会ですよね、これ」
安藤が確認するように言った。
「女子会よ」
モモコは即答した。
「女子会です……!」
姫川も、少し力を込めて頷いた。
開始の合図はなかった。
ただ、ポテトが置かれ、パフェが来て、唐揚げが追加されただけだった。
「で、女子会って何するんでしたっけ?」
安藤がポテトを一本つまみながら言う。
「そりゃあ、女子力の確認よ」
モモコは当然のように答えた。
「女子力……」
姫川はその言葉を胸の前で噛みしめるように復唱した。
「私、自信あります!」
安藤が手を挙げた。
「料理できますし、まかないも工夫しますし、量も多めに作れます!」
「量が多いのは、女子力っていうより体力じゃない?」
「え、でも喜ばれますよ?」
「誰に?」
「みんなに!」
安藤は迷いがなかった。
「私の女子力はね」
モモコが唐揚げを割りながら言った。
「場を回せること」
「回す……」
「空気、話題、感情。誰かが沈んだら拾うし、調子に乗ったら止める。それが女子力」
安藤は感心したように頷いた。
「すごい……私、回される側です!」
「自覚あるなら伸びしろよ」
姫川は、二人の会話を聞きながら、少し考えていた。
「私の女子力は……」
二人が同時に姫川を見る。
「好きな人を、ちゃんと好きでいられることです」
一瞬、間が空いた。
「……重くない?」
モモコが言った。
「重いですけど、本気です!」
姫川は即答した。
「好きって、続けるの大変なんです。嫌なところ見ても、距離あっても、それでも好きでいるのって、根性いるじゃないですか」
安藤は、ゆっくりと頷いた。
「確かに……」
モモコはパフェを一口食べてから言った。
「それ、女子力っていうか、執念よ」
「でも褒め言葉ですよね!?」
「まあ……否定はしないわ」
三人の女子力は、まったく交わらなかった。
だが、誰も間違っているとは言わなかった。
「じゃあ」
安藤が提案した。
「三人とも女子力高いってことで良くないですか?」
「雑じゃない?」
「深夜ですし!」
その一言で、すべてが流された。
姫川はストローを回しながら言った。
「女子力って、人に見せるものじゃないですよね…」
「急に哲学入るわね」
「自分で信じてればいいものですよね!」
「それ言い出すと、もう何でもアリよ」
「じゃあ、私たち最強じゃないですか?」
安藤が笑った。
「だって自分の女子力、疑ったことないです!」
モモコは吹き出した。
「その自信は、確かに強いわ」
姫川は、少し羨ましそうに安藤を見た。
「…私、たまに不安になります」
「恋?」
「はい」
「じゃあ女子力足りてないんじゃない?」
姫川は一瞬考えてから、首を振った。
「不安になるくらいが、ちょうどいいと思います」
「面倒な強さね」
「でも、やめる気ないです」
モモコは、ゆっくりと頷いた。
「それもまた、女子力ね」
安藤は三人分の伝票を見て言った。
「女子会って、結論出さなくていいんですね!」
「むしろ出しちゃダメよ」
「じゃあ成功です!」
深夜三時。
ポテトは冷め、パフェは溶け、話題だけが残った。
「またやりましょう、女子会」
姫川が言った。
「次は何確認する?」
モモコが聞く。
「自称でいいやつ!」
安藤が即答した。
誰も否定しなかった。
このファミレスでは、自称はだいたい許される。
女子力の定義が一致しないまま、
女子会は、静かに成功していた。
少し離れた席で、雨露は三人の女子会を眺めていた。
声は大きいが、空気は不思議と安定している。
文月が、ストローを指で止めて言う。
「楽しそうだね」
雨露は何も返さず、ただ一度だけ頷いた。
姫川の笑い声と、モモコの低い相槌、安藤の明るい返事が重なる。
深夜のファミレスは、今日も賑やかだった。




