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深夜二時のハングアウト  作者: 充電


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第59話 足元は誰のものか

深夜二時。

ファミレスは静かで、コーヒーは苦く、そして――不毛な主張が生まれやすい時間帯だった。


文月は、いつもよりソワソワしていた。

いや、正確には、既に半分逃走態勢に入っていた。


「……来ると思う?」


「来る前提で話している時点で、来ます」


「理不尽だね」


「締切ですので」


雨露は伝票を整えながら、淡々と答える。


その瞬間。


ドアベルが鳴った。


「文月先生!!」


笹原の声だった。

迷いのない、一直線の声。


「原稿、今日ですよね!?」


「“今日”という概念について、少し語らない?」


「語りません!」


次の瞬間、文月は――


しゃがんだ。


そして、迷いなく、勢いよく。


雨露の足元にしがみついた。


「……」


「ここ」


「何がでしょうか」


「ここが安全地帯」


「違います」


床に座り込み、雨露の足首を抱える成人男性。


その光景を見て、姫川が叫んだ。


「ちょっと待って!?」


「姫川さん、静かに。敵に気づかれる」


「敵じゃないし!何してるんですか!?」


文月は顔を上げ、真剣な目をした。


「宣言する」


「不要です」


「雨露くんの足元は、私の陣地」


「……は?」


空気が止まる。


宮間がストローを噛んだまま固まる。


「……じ、陣地……?」


モモコさんが呻いた。


「ヤダ、怖い」


姫川は一拍遅れて爆発した。


「はぁ!?何言ってるんですか!?」


「事実」


「事実じゃない!」


「これまで何度も、私はここに避難してきた」


「それ先生が勝手に!」


「実績はある」


「それを実績って言わない!」


笹原が腕を組む。


「………文月先生」


「なに?」


「その姿勢で原稿の話をするつもりですか?」


「ここ、精神的に安定する」


「知りません!」


文月は、ぎゅっと足元にしがみつく。


「ここは要塞の基礎部分」


「基礎ではありません」


「雨露くんが動かない限り、私は捕まらない」


「店員を利用しないでください」


姫川は、完全にキレていた。


「先生!」


「なに」


「そこ、私の場所なんですけど!!」


「え?」


「私が立つ予定だった距離感!」


「距離感に予定あるんだ」


「あります!」


「初耳」


姫川は雨露の前に割り込もうとするが、文月が離れない。


「どいてください!」


「嫌」


「なんで!?」


「ここ、私の陣地だから」


「意味わかんない!」


宮間が震える声で言う。


「……戦争……?」


サモンが首を傾げる。


「日本、足元、こわい文化?」


モモコさんが腕を組んだ。


「アンタ、みっともないわよ!」


「命がかかってる」


「原稿でしょ!」


笹原は深くため息をついた。


「……文月先生」


「なに」


「離れないなら」


一歩、近づく。


「このまま引きずります」


「暴力編集者」


「合法です」


文月は、ぎゅっと目を閉じた。


「雨露くん」


「何でしょうか」


「動かないで」


「業務上、動きます」


「裏切りだ」


「知りません」


ついに、笹原が腕を掴む。


「さあ!」


「あっ!」


ずるずると引き剥がされながら、文月は叫んだ。


「この陣地、不滅なんだけど!!」


「不滅じゃないです!」


「精神的には!」


「知りません!」


連行されていく文月。


姫川は、荒い息で雨露を見る。


「……ねえ」


「はい」


「先生、頭おかしくないですか?」


「今更です」


姫川は、少し間を置いて言った。


「……でも」


「?」


「勝手に陣地って言われるの、ムカつきます」


「同意します」


「ここは……」


一瞬だけ視線を逸らす。


「……共有地です」


「否定します」


笹原が振り返った。


「雨露くん」


「はい」


「お疲れさまです」


「いえ」


深夜二時。

雨露の足元は、今日も主張が激しい。


だが一つだけ確かなのは――

そこは誰の陣地でもなく、ただの床である。


要塞は、静かに営業を続けていた。


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