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深夜二時のハングアウト  作者: 充電


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第50話 同時多発恋愛相談事件

深夜二時。

ファミレスにおける「落ち着いている」の定義は、「まだ警察を呼んでいない」という意味になる。


カウンター席に文月。

奥のテーブル席に宮間。

そして入口寄りに、姫川とモモコ。


配置だけ見れば、まだ平和だった。


「雨露くん……」


最初に声をかけてきたのはモモコだった。

グラスの中身はすでに薄い。感情だけが濃い。


「アタシ、またダメだったのよ……」


「そうですか」


「聞いてよ!?あの人ね、優しいの!……でもね、優しいだけなのよ!」


その「だけ」が一番難しい。


話が本題に入る前に、姫川が勢いよく手を挙げた。


「ねえねえ雨露くん!恋って、努力でどうにかなりますよね!?」


ほぼ同時だった。


「……えっと」


返答を選んでいると、宮間が遠慮がちに口を開く。


「ぼ、僕も……その……聞いてほしいことが……」


嫌な予感がする。


文月が楽しそうに微笑んだ。


「これは興味深い。恋愛相談が同時多発的に発生した場合、人は誰の話を“聞いているつもり”になるのか」


「実験にしないでください」


そう言ったが、すでに手遅れだった。


「私から話しますね!」


「いや、アタシからでしょ!?」


「ぼ、僕、短いですから……」


三方向から視線が集まる。

逃げ場はない。


「順番にお願いします」


冷静な声を出す。

深夜帯は、声を荒げた方が負けだ。


「じゃあ……」


モモコが息を吸い込む。


「アタシね、惚れっぽいのは自覚してるの。でもね、ちゃんと見てるのよ?相手の優しさとか、弱さとか――」


「――でも、押したら引かれて、引いたら他行くんですよね!?」


姫川が被せた。


「ちょっとあんた!?」


「え、違いました!?」


違わないから困る。


「……姫川さん」


「はいっ」


「モモコさんの話が先です」


「はーい……」


不満そうだが、椅子に座り直す。

その動きで、リボンが一つ落ちた。


文月が即座に拾い、手で弄ぶ。


「恋とは、落ちるものなのかもしれないね」


「返してあげてください」


紙ナプキンと一緒に回収する。


「でね、雨露くん」


モモコは再び語り出す。


「アタシ、重いって言われるの。でもさ、好きになったら真剣になるの、悪いこと?」


「悪いとは言えません」


「でしょ!?なのに逃げるのよ!」


そのタイミングで、姫川が小さく頷いた。


「……わかる……」


共感が生まれると、ろくなことにならない。


「姫川さんは、後でです」


「えー……」


その後ろで、宮間が恐る恐る手を挙げる。


「あの……恋愛というより……将来の話なんですけど……」


「どうぞ」


「僕、このまま一人で……その……」


言葉が途切れる。


「孤独死とか……」


店内の空気が、一段冷える。


「縁起でもないですね」


即座に返す。


「す、すみません……でも、ここに来てると……その……誰かがいる気がして……」


文月が頷いた。


「場所に救われるというのは、あるよね」


「先生は締切に救われてません」


「それはまた別の話だね」


会話が逸れかけたところで、姫川が耐えきれず立ち上がる。


「じゃあ私の話していいですか!?」


「簡潔にお願いします」


「はい!私、雨露くんのことが好きなんです!」


即答だった。


「知っています」


「えっ!?」


全員がこちらを見る。


「……言動から察せます」


「え、じゃあ……」


姫川の目が輝く。


「結論を急がないでください」


輝きが曇る。


その様子を見て、モモコが腕を組む。


「若いわね……」


「モモコさんもです」


「そこは否定しなさいよ!」


文月は静かにメモを取っている。


「でも……恋愛相談って、答えを求めているようでいて、実は誰かに聞いてほしいだけなのかもしれないわね」


「今さら気づかないでください」


そのとき、ドアが開いた。


「……先生?」


笹原だ。


全員が一瞬で静まる。


「何をしているんですか」


「恋愛について考えていました」


「今は原稿について考えてください」


正論だった。


笹原は一度、店内を見回し、深く息を吐いた。


「……今日は逃げないでくださいね」


「はい」


即答。


そのやり取りを見て、宮間がぽつりと言う。


「……誰かに怒られるって……羨ましいですね……」


笹原が一瞬、視線を向ける。


「……生きていれば、そのうちあります」


「……はい」


不思議と、宮間は少し安心した顔をした。


やがて、それぞれが落ち着く。


モモコさんはデザートを頼み、姫川は取れたリボンを黙って握りしめ、文月は原稿を書き始めた。


恋愛相談は、解決していない。

だが、この店ではそれでいい。


冷水を配る。

万能ではないが、喉は潤う。


深夜二時。

恋は重く、答えは出ず、現実だけが静かに続いていく。


今日も、深夜のファミレスは平常運転だ。


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