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深夜二時のハングアウト  作者: 充電


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第44話 常連は増えるし自己申告は重くなる

深夜二時。

雨は降っていない。

にもかかわらず、嫌な予感だけは正確だった。


ドアが開く。


「こんばんはーっ!」


声が元気すぎる。

姫川だった。


初来店から三日目。

すでに「また来た」という感覚がある時点で、何かがおかしい。


「いらっしゃいませ」


「雨露さん、今日もいると思ってました!」


「……そうですか」


いるかどうかは、運次第だ。


姫川は迷いなく、前回と同じ席に座った。

メニューも開かない。


「ドリンクバーですか?」


「はい!あとデザート!今日はチョコ系の気分です!」


常連の動きである。


カウンター席では、文月がペンを回していた。


「人は三回通うと、その場所を“自分の居場所”と認識し始めるらしいよ」


「まだ二回目です」


「十分だね」


宮間が小さく頷く。


「……僕も……二回目くらいから……安心しました……」


重い前例を出さないでほしい。


姫川はドリンクを持って戻る途中、こちらをちらちら見てくる。


「……あの」


「はい」


「雨露さんって、いつもこの時間なんですか?」


「シフト次第です」


「ふーん……」


スマホを取り出す。

嫌な予感が濃くなる。


「姫川さん」


「はいっ」


「写真撮影は禁止です」


「えっ!?撮ってないです!」


まだとは言っていない。


奥の席で、モモコが手を振る。


「あら、また来たのね」


「モモコさーん!会いたかったです!」


二人はすでに知り合いだ。

人間関係の構築が早すぎる。


モモコが、こちらをちらっと見てから姫川に言う。


「ねえ、姫川ちゃん」


「はい!」


「その子、やめときなさい」


指は、雨露を指している。


「なんでですか!?」


「要塞だからよ」


一瞬、意味が通らなかった。


「……要塞?」


「そう。外からは優しそうに見えるけど、中に入ったら規則だらけ。壁厚い。門重い。落とせない」


的確すぎる比喩はやめてほしい。


「最高じゃないですか!」


なぜそうなる。


「攻略しがいあります!」


「攻略前提なのがもうダメなのよ!」


モモコは腹を抱えて笑った。


姫川はデザートを食べながら、真剣な顔でこちらを見る。


「雨露さん」


「はい」


「私、気づいたんです」


「何にですか」


「常連って、愛ですよね」


「違います」


即答する。


「通い続けるって、好きじゃなきゃできないですもん!」


「お腹が空くという理由もあります」


「それも愛です!」


定義が広すぎる。


そのうち、姫川はノートを取り出した。


嫌な予感が確信に変わる。


「……それは何ですか」


「メモです!」


「何の」


「雨露くんのこと!」


空気が一瞬、止まった。


宮間がそっと息を吸い、文月が目を輝かせる。


「観察日記だね。素晴らしい」


「肯定しないでください」


「今日の雨露さん、ちょっと眠そう。でも声は優しめ。あと、氷多め!」


「……要塞の外壁観察ですか」


「はい!あ、これってストーカーですか?」


自分で言った。


「……どうでしょうか」


答えは濁す。


「じゃあ私、自称ストーカーで!」


軽い。


「自称ならセーフですよね!」


「セーフではありません」


「でも、自覚ある分、良くないですか!?」


論点が迷子だ。


モモコが言う。


「要塞に突撃するなら覚悟しなさいよ」


「はいっ!」


覚悟の方向が違う。


文月が真顔で言う。


「恋というのは、本人が名乗った瞬間に始まりますからね」


「先生、攻城兵器を渡さないでください」


「締切よりは軽いよ」


比較対象がおかしい。


姫川は満足そうにノートを閉じた。


「じゃあ、これからも来ますね」


「頻度は自由です」


「雨露さんのシフトに合わせて!」


「それはやめてください」


「冗談です! ……たぶん!」


信用はできない。


会計を済ませ、姫川は立ち上がる。


「今日はありがとうございました!」


「ありがとうございました」


ドアの前で立ち止まり、振り返る。


「……あ、あの」


「はい」


「嫌だったら、言ってくださいね」


その声だけは、少しだけ静かだった。


「……業務に支障がなければ」


そう答える。


姫川はぱっと笑った。


「じゃあ大丈夫ですね!」


解釈が強い。


ドアが閉まり、店内にいつもの空気が戻る。


宮間がぽつりと言う。


「……要塞……いいですね……安心感あります……」


「住民が疲れます」


文月がペンを回しながら言った。


「でも、攻め続ける人もいるからね」


「ええ」


すでに一人、いる。


深夜二時。

常連は増える。

要塞は今日も落ちない。


それでも、冷水は用意しておく。

万能ではないが、籠城戦には向いている。


今日も、店は静かに騒がしい。


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