第41話 占いを信じすぎると混乱する
深夜二時。
街のネオンが窓ガラスにぼんやり映り、店内にはわずかな機械音とコーヒーの香りが漂っていた。
その時、安藤が入口から小走りで入ってきた。
「ふう…今日も安全第一で行かないと…!」
雨露が眉をひそめる。
「安藤さん、そんなに息を切らして何かあったんですか」
安藤は真剣な顔で答える。
「うん、昨日、マリエさんに占ってもらったんだよね。で、“足元に注意”って言われちゃって…だから今日一日、気を抜けないの!」
宮間が小さく身をすくめる。
「……あ、あの、足元……ですか?」
「そうそう!」
安藤はカウンターを見渡しながら、
床に小さな水滴や落ちた紙ナプキン、氷のかけらを指さす。
「ここも危ないし、あそこも危ない…あっ!ストローが転がってる!これは…!」
文月は紙ナプキンを手に取り、微笑んだ。
「なるほど、占いによると、この紙ナプキンの落下も宇宙の法則に関わる…と」
「え、紙ナプキンですか?」
安藤は目を丸くする。
「そう、これも足元注意のサインかも…!」
雨露は淡々と伝票をめくりながら呆れ顔。
「紙ナプキン一枚が運命を左右するとは、占いも随分と細かいですね」
宮間はこそこそと近づき、安藤の横で小声。
「安藤さん、僕も……その、足元には気をつけたほうが…」
「えっ!宮間さんもそう思う?」
安藤の目が輝く。
「うん、僕、孤独死しないためにも…注意しとかないと…」
安藤は床を凝視しながら、店内をそろりそろりと歩き始めた。
「ふむ…でもこのコーヒーカップの位置は…安全?いや、ちょっと傾いてるかも…」
「えーと、これは…運命の前兆ですかね…」
宮間も小声で真似して歩く。
文月は紙ナプキンを落としてみせる。
「おや、これも試しに落としてみる。さあ、宇宙の反応は…」
「わっ!これは…!」
安藤は紙ナプキンを避けて小さくジャンプ。
「コーヒーこぼれてない?危ない危ない!」
雨露はため息をつきながら小言を言う。
「…皆さん、夜の店内で紙ナプキンを避けながら歩くことが本当に必要ですか」
「だって占いで足元注意って言われたんだもん!」
安藤は譲らない。
「ほら、あそこの水滴も…踏んだら運命が変わっちゃうかも…!」
宮間もやや興奮気味。
「えっと…その…氷も…危ないですよね…?」
「うんうん、そうだよ!」
安藤が床を指さすと、氷のかけらを避けるために二人は小さくステップを踏む。
文月は紙ナプキンをさらに増やす。
「さて、占いが正しいかどうかを検証するために、ここにもう一枚落としてみよう」
「きゃっ!危ない!」
安藤は紙ナプキンを避けながら、思わず小さく跳ねる。
「ふむ…運命の法則は観察する対象が多いほど精度が上がるわけだね」
文月は楽しそうに分析。
雨露は、床に散らばっる紙ナプキンと水滴を片付ける。
安藤は少し疲れた顔をしつつも満足げ。
「でも…占いって信じると、ちょっと面白いよね!」
宮間も小さく頷く。
「うん…僕、孤独死を避けられた気がする…」
文月はナプキンを拾いながら微笑む。
「実験としては大成功。夜のファミレスで、運命の観察ができたね」
雨露はため息をつき、淡々と伝票整理を再開する。
「…備品の無駄遣いは程々にお願いします」
安藤は笑顔で床を見回す。
「うん!これからも足元には気をつけるよ!」
店内には、紙ナプキンを避けながら歩く安藤と宮間、哲学的に分析する文月、淡々と見守る雨露の、なんともシュールで落ち着かない空気が漂っていた。




