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深夜二時のハングアウト  作者: 充電


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第39話 過去に触れる夜

深夜二時。

ファミレスの照明は、昼間より少しだけ優しい顔をしている。眠気と現実逃避の中間みたいな光だ。


雨露はカウンター裏で伝票を揃えながら、今日もいつも通り、何も起きないことを祈っていた。


だいたいこの時間帯に祈りは無意味だ。


「……あの、すみません」


震える声。

顔を上げると、宮間がテーブルに座っている。

両手でマグカップを包み込み、まるで人生そのものを温めているかのようだ。


「おかわりですか」


「いえ……その……」


宮間は一度、息を吸い、吐いた。


「もし、今ここで倒れたら……皆さん、救急車呼んでくれますかね」


「縁起でもないことを聞かないでください」


即答すると、宮間は「ですよね……」と肩を落とした。


「でも僕、最近思うんです。孤独死って、誰にも気づかれないのが一番怖いなって……」


「ここなら人いますから。倒れたら普通に呼びます」


「本当ですか」


「仕事なので」


少し救われたような、でもまだ不安が残っている顔。



そこへ、パンツスーツの女性が勢いよく入ってきた。


「すみません、ここに文月先生――」


笹原だ。

今日は息切れしていない。つまり、まだ捕まえていない。


「……いません」


「そうですか……」


笹原は深くため息をつき、宮間の向かいに腰を下ろした。


「逃げ足だけは本当に一流で……」


「それ、才能ですよね」


「納期を守らない才能はいりません」


即座に切り捨てるあたり、相当疲れている。


沈黙が落ちた。


深夜特有の、無音ではない静けさ。

それを破ったのは、宮間だった。


「雨露さんって……どうして、ここで働いてるんですか」


手が止まる。


「……理由が必要ですか」


「いえ、ただ……ここ、落ち着くなって思って」


笹原が小さくうなずいた。


「分かります。私も……ここに来ると、ちゃんと呼吸できる感じがして」


二人の視線が、自然とこちらに向く。

逃げ場はない。


「……前は、別の会社にいました」


雨露は、淡々と続ける。


「いわゆる、ブラック企業です。終電が定時で、休日は幻でした」


「……幻」


「都市伝説の類です」


宮間が思わず笑った。


「リストラされて、しばらく何も考えられなくなりました」


「それは……」


「でも、鳩山店長が声をかけてくれました。

ここで働かないか、と」


言葉にすると、案外あっさりしている。

けれど胸の奥が、少しだけ熱くなる。


「正社員でしたし」


「そこ重要ですね」


「生活は大事です」


笹原が、ふっと表情を緩めた。


「……分かります。私も、先生のせいで何度も心が折れましたけど」


「主語が強いですね」


「でも、辞めてないのは……多分、逃げ場があるからです」


宮間が、小さくマグカップを掲げた。


「……逃げ場、大事ですね」


「ここも、その一つです」


その瞬間、奥から穏やかな声がした。


「皆さん、深夜に珍しいですね」


鳩山店長だった。

たまたま寄っただけ、という顔で、そこに立っている。


「雨露くん」


「はい」


「無理は、しないでくださいね」


それだけ言って、厨房の方へ消えていった。


宮間が目を潤ませる。


「……優しい……」


「泣くほどではありません」


「でも、こういう一言で……人って、生き延びられる気がします」


笹原も、静かにうなずいた。


「明日も、土下座しますけど」


「それはそれです」


しんみりした空気が、数秒続いた。



「いやー、なんか良い話してますね!」


突然、菅原の声が割り込む。


「深夜って、人生語りたくなりますよね! 僕もこの前、バックパッカー時代の――」


「今はいいです」


「即否定!?」


空気が、一気に崩れた。


宮間が苦笑し、笹原が肩をすくめる。


雨露は、いつもの位置に戻りながら思う。


ここは、少しだけ変で、少しだけ優しい。

そして、今日もまた、何とか生き延びている。


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