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深夜二時のハングアウト  作者: 充電


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第34話 当たるも八卦、接客も八卦

深夜二時。

街灯の光に照らされたファミレスは、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。


カウンター越しに濡れたグラスを拭く雨露の横で、

安藤はまかない用のスープを温めようと準備していた。


「今日は静かだね!」


「嵐の前の静けさ、というやつですかね」



その直後、

風もないのにドアが大きく揺れたような音がした。


「……あ」


入ってきたのは、六十代前半ほどの女性。

紫のスカーフに、首元にはキラリと光る水晶玉を下げている。


「……ふふふふ、運命の前兆がここに来たようね」


安藤は一瞬固まってから、ぱっと表情を明るくした。


「え、すご……水晶玉!」


「私はマリエ。占い師よ」


「占い師さんなんですね! 本物だ……」


思わず雨露のほうを見る。


「ねえ、雨露くん占い師さんですよ」


「見れば分かります」


文月はカウンター席の隅で、紙ナプキンに落書きをしていた手を止める。


「……占い師……?」


マリエは手をひらりと振り、店内を見渡した。


「あら、これは……お塩と胡椒の配置が不吉ね。誰か、心に隠した秘密を持っているわね」


「それ、紙ナプキンとカトラリーの位置関係ですけど……」


雨露が淡々と言う。


「いえ、それも運命の符号なのよ、坊や」


「坊や……」


安藤は一瞬きょとんとしてから、肩を震わせる。


「坊やって言われてますよ」


「接客してください」


安藤は慌てて姿勢を正し、メニューを差し出す。


「マリエさん、お飲み物はいかがなさいますか?」


「そうね……水晶占いをしながら、コーヒーを一杯お願いしようかしら」


「占いしながらコーヒー! かしこまりました!」


雨露は、黙ってカップを用意する。



文月は少し迷ってから、声をかけた。


「……あの、私に何か予言していただくことは?」


マリエはにっこり笑う。


「あなたの書く小説には、無駄に哲学的な登場人物が増える運命……」


文月は目を見開いた。


「……無駄に哲学的……」


「精度高いですね」


雨露が小声で呟く。


「占いって、そんなことまで分かるんだ……」


安藤は温めたスープを手に、きらきらした目で水晶玉を覗き込む。


「私、占いとかあんまり詳しくないんですけど、これって未来が見えるんですか?」


「ええ。スープがぬるくなる前くらいの未来なら」


「時間指定あるんですね」


マリエはスープの表面をじっと見つめる。


「……おお。今夜、この店では、何かシュールな事件が起こる兆し……」



その瞬間。


「うわあっ!?」


文月の声と同時に、紙ナプキンが一斉に舞い上がった。


「え、なにこれ!ほんとに起きた!」


安藤は慌ててスープを押さえ、雨露は床に落ちた紙ナプキンを拾いながら文月に一瞥を送る。


「……予言通りですね」


「当たっちゃいましたね……」


マリエは水晶玉を軽く叩き、満足げに頷く。


「ほらね。私の予言は外れないのよ、坊や」


雨露は無言で、残りの紙ナプキンを拾う。



その後、マリエは店内をゆっくり歩き、カウンターの塩と胡椒に指を伸ばした。


「……この組み合わせ、運命が絡んでいるわね」


「運命の塩胡椒……」


安藤は感心したように頷く。


「今日のまかない、ちょっと味変えたほうがいいですかね?」


「あなたの今日の運勢は、少し塩辛いでしょう」


「なるほど……」


雨露はコーヒーをマリエの前に置く。


「砂糖とミルクは……?」


「必要ないわ。運命はそのまま飲むのが美味しいの」


「占い師さん、ブラック派なんですね!」


マリエはコーヒーを一口飲み、目を細めた。


「ふふ、夜の静けさと共に、占いもまた、良きものね」




深夜三時。

ファミレスは再び静寂に包まれる。


文月は雨露が補充した紙ナプキンで哲学的な折り目を作り始め、安藤はスープをそっと温め直す。雨露は淡々と片付けを進めていた。


「……占い、ちょっと楽しかったですね」


安藤が小声で言う。


「業務外です」


「でも、当たってましたよ」


「偶然です」


静かでシュールな夜は、こうして過ぎていく。


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