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深夜二時のハングアウト  作者: 充電


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第28話 紅葉狩りと妄想と哲学

深夜二時。

外の街路樹は、赤や黄に染まった葉を風に散らせていた。踏みしめるとサクサクと乾いた音が響く。


ファミレスの扉を開けると、鈍いベルの音とともに温かい灯りが迎えてくれる。


雨露はいつも通りカウンターで伝票を整理していた。淡々とした手つきで、紙が微かに擦れる音だけが店内に鳴る。


「雨露くん、こんばんは」


文月が、コートを肩に羽織りながら滑り込んでくる。


手には小説の原稿がぎっしり詰まったバインダー。秋風で散った落ち葉が髪にひっついている。


「こんばんは。落ち葉が服に張り付いてますが、哲学実験でしょうか」


「うーん……いや、これは単なる通り道の結果だね。落ち葉の存在論を観察していたんだ、偶然だよ」


雨露は目を細め、淡々とツッコミを入れる。

文月の「偶然の観察」はいつも謎の説得力を伴う。


「原稿はどうしました? 締切はまだ余裕がありますよね……」


「余裕?そんなものは幻想だよ。幻想!」


文月は大げさに叫び、店内をぐるりと一周してから、突然テーブルに伏せる。


椅子の背もたれに頭を押し付け、目だけで雨露を見上げる。


「だから今夜は、落ち葉を題材に短編を書く実験なんだ。読者が葉の音を感じられるように」


「……葉の音ですか」


雨露は無言で、伝票の整理を続ける。彼にとって、文月の実験はもはや日常茶飯事だ。


そこへ、安藤がやって来る。髪を軽く振り、にこやかに手を振る。


「こんばんは!今日は新作スイーツのアイデアを考えてたんです!紅葉をテーマにしたパフェとか……」


「……紅葉パフェですか」


雨露の声に微かに嘲笑が混じる。

文月は興奮して安藤に近づき、落ち葉の一枚を手に取る。


「これを飾るんだ、ね、安藤くん。葉のカリカリ感をパイで表現するのさ」


安藤は目を丸くする。


「……カリカリ感をパイで?」


「そう、読者が食感を想像できるようにね。文学と料理の融合だ!」


その時、宮間がそろそろと入店する。

いつものように小声で、しかし恐怖に震えるように独り言をつぶやきながら。


「……もし僕が今夜ここで倒れたら、誰が僕を見つけてくれるだろう……」


「宮間くん、また孤独死のシュミレーションですか」


雨露は眉一つ動かさず答える。

文月はそれに全く関心を示さず、落ち葉を数枚手に取り、宮間の頭上にそっと置いた。


「ほら、秋の天井装飾だ」


宮間は慌てて葉を払い、安藤は小さく笑う。


「まあ、確かにこの時期は落ち葉が舞ってますけど……店内まで来なくても」


文月はにんまりと笑い、落ち葉をテーブルの上に並べる。まるで紅葉狩りのジオラマのように。


「さあ、ここから短編の冒頭を描くんだ。雨露くん、君は葉の観察者役ね」


「巻き込まないでください」


「宮間くんは読者、安藤くんは味覚の象徴……」


「味覚……?」


「文学的比喩だよ」


文月は指をぱちんと鳴らす。店内には葉の音とともに、静かな笑いが漂う。


宮間は小さく咳払いしながら、自分の孤独妄想を封印し、安藤は紅葉パフェのアイデアをひたすらメモする。


雨露はそんな三人を見ながら、自分のカウンター越しの席に小さな落ち葉を置いた。


「……哲学実験も料理も孤独妄想も、結局、秋の演出ですかね」


「その通り!」


文月は歓声を上げ、落ち葉を空中にばらまく。

カサカサと舞う葉の音は、夜の静寂に微かに混ざり、シュールな秋の音楽のようだった。



三十分後、安藤の紅葉パフェ案は妄想だけで終わり、宮間は頭上の葉を数枚取り払い、ひと息つく。


文月はまだ興奮状態で、原稿用紙に「葉の哲学」と書き殴っていた。


雨露は静かに伝票を片付けながら、思う。


このシュールな光景も、あと数日で冬に変わる。


落ち葉は雪に変わり、哲学実験は雪の結晶の観察になるだろう。


サクサクと、足元の落ち葉を踏みしめながら、夜は静かに更けていった。


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