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深夜二時のハングアウト  作者: 充電


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第24話 深夜四時と電話に出ない客

深夜四時。


ファミレスというより、もはや休憩所に近い時間帯だ。


客はいない。

BGMは流れているが、誰のためでもない。


雨露はカウンター内で、意味もなく同じグラスを二度拭いていた。


ドアが開く音がした。


「いらっしゃいませ」


反射で言ってから、少しだけ眉を動かす。


この時間に来る客は、酔っているか、壊れているか、どちらかだ。


だが入ってきた男は、そのどちらでもなかった。


スーツ。

ネクタイは外しているが、皺はない。

香水の残り香が、店内の油と混ざって微妙な匂いを作っている。


アフター終わり。


雨露は、そう判断した。


男はカウンター席に腰を下ろす。

周囲を見回すこともなく、落ち着いた動きだった。


「お一人様ですね」


「はい」


声は低く、静かだ。

通るが、主張しない。


「お飲み物はいかがなさいますか」


男はメニューを開かない。


「コーヒーホットを」


「ミルクと砂糖は」


「不要です」


即答だった。


雨露はコーヒーを淹れる。

この時間にブラックを頼む人間は、だいたい二種類に分かれる。


眠れない人間か、眠りたくない人間だ。


カップを置く。


「ありがとうございます」


男は軽く会釈した。


それきり、会話は途切れる。


男はスマホを出さない。

時計も見ない。

ただ、ゆっくりとコーヒーを飲んでいる。


雨露は、グラスを拭きながら一度だけ観察した。


疲れている。

だが、崩れてはいない。


仕事の顔を脱ぐ場所を、探している顔だった。


沈黙が十分ほど続いた頃、男のスマホが震えた。


画面が光る。

着信。


男は一瞬だけ画面を見て、スマホを伏せた。


出ない。


雨露は淡々と口を開く。


「出なくてよろしいんですか」


男は少し考えてから答えた。


「この時間は、出ないと決めてます」


「そうですか」


「はい」


それ以上、説明はない。


しばらくして、またスマホが震える。

今度は少し長い。


男は気にしない。


雨露は、グラスを拭きながら言った。


「緊急ではなさそうですね」


「ええ」


「判断が早いですね」


「慣れてます」


その返答は、少しだけ疲れていた。


三度目の着信で、男はさすがに苦笑した。


「しつこいですね」


「人気者ですね」


「仕事なので」


雨露は頷く。


「大変ですね」


「大変ではないです」


間があって、


「……ただ、静かではないです」


なるほど、と雨露は内心で思う。


男はコーヒーを飲み干し、カップを置いた。


「長居はしません」


「ありがとうございます」


会計を済ませ、立ち上がる。


その時、またスマホが震えた。


男はそれを見て、少しだけため息をつく。


「……あと一分」


「何かありましたか」


「仕事に戻る猶予です」


「短いですね」


「いつもです」


男はカウンターを見て、ふっと笑った。


「ここ、何も起きないですね」


「この時間は、基本的に起きません」


「いいですね」


雨露は答える。


「退屈ですよ」


「今は、それが助かります」


男はスマホをポケットに入れ、ドアへ向かう。


「また来てもいいですか」


深夜四時にしては、少し遠慮がちだった。


「どうぞ」


男は一礼する。


「久世といいます」


「雨露です」


それで十分だった。


ドアが閉まる。


店内に、また音だけが戻る。


雨露は空になったカップを下げながら思う。


ーーー電話に出ないだけで、ここまで静かになる人もいる。


深夜四時。

ブラックコーヒーの客は、静かに居場所を確保していった。


新キャラ登場しました。

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