表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深夜二時のハングアウト  作者: 充電


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/59

第2話 宝くじの祈りと観葉植物

深夜二時。

シャッター商店街が完全に眠りについたころ、観葉植物だけが妙に元気なファミレスは、今日も静かに営業していた。


カウンター席で、宮間は宝くじを両手に挟み、目を閉じていた。

 

祈りのポーズである。かなり本気の。


「……お願いします……本当に……今回だけは……」


その様子を、向かいの席から文月先生が面白そうに眺めている。

コーヒーは三杯目、締切は明後日。つまり、精神状態は最悪だ。


「ねえ宮間くん。祈りってさ、確率論にどう影響すると思う?」


「え、い、今それ聞きます……?」


「祈りは行為であり、行為は時間を消費する。時間を消費するということは、当選発表までの距離が縮まる。つまりーー」


「やめてください……」


宮間の声は震えていた。

その宝くじには、ブラック企業を辞めたいという切実な願いが、過剰なほど詰め込まれている。

退職届、引っ越し、静かな老後——まだ三十代だが、想像はもう孤独死の一歩手前だ。


文月先生は、テーブルの紙ナプキンを一枚引き寄せ、ペンを取り出した。


「ここに書くね〈人は希望を紙に印刷し、絶望を手に持つ〉」


「在庫減らさないでください」


淡々とした声が飛ぶ。雨露だ。伝票をまとめながら、ちらりとだけこちらを見る。


「紙ナプキンは拭くためのもので、哲学を書くためのものじゃないんで」


「細かいなあ、雨露くん。これは実験なんだよ」


「実験なら、私物でやってください」


文月先生は肩をすくめ、さらに紙ナプキンを1枚取った。


雨露は無言で在庫表にチェックを入れた。




その時だった。


入口のドアベルが鳴った。

——カラン。


店内の空気が、一段階だけ硬直する。


「……逃げなきゃ」


文月先生の顔色が変わった。


宮間は宝くじを胸に抱いたまま、何が起きたかわからず瞬きをする。


入ってきたのは、パンツスーツ姿の女性だった。

姿勢が良く、無駄な動きがない。元陸上部特有の、いつでも走れます、という脚の立ち方をしている。


笹原ささはらさんだ。


「先生?」


その声を聞いた瞬間、文月先生は立ち上がり、素早く横にあった観葉植物の陰に滑り込んだ。


擬態である。


葉の間から、ぎこちなく顔だけが見えている。


笹原さんは、店内を一望したあと、静かに言った。


「……雨露くん。先生、来てませんよね?」


「観葉植物が一鉢、増えた気はします」


「ですよね」


次の瞬間、笹原さんが植物に手を伸ばす。

文月先生は反射的に逃げ出し、雨露の足元へ滑り込んだ。


「ちょ、ちょっと雨露くん!ここは死角ーー」


「客席に潜るのやめてください」


首根っこを掴まれた文月先生は、ずるずると引き上げられた。


「明日の私がどうにかするから!」


「明日じゃ間に合いません!今日書いていただかないと、私の首が飛ぶんです!」


「首って比喩でしょ!?」


「比喩じゃなくなりかけてます!」


宮間はその光景を見ながら、宝くじをぎゅっと握りしめた。


(……当たりますように……)


 

数分後。

文月先生は観念したように、笹原さんに引き摺られて退店していった。


店内には、静けさが戻る。


テーブルには散らかった宝くじと、哲学が書きかけの紙ナプキン。


雨露はそれを見て、小さくため息をついた。


「……片付けますよ」


宮間は、そっと宝くじを拾い上げ、また祈りのポーズを取った。


深夜ファミレスは、今日も当選しない希望と、確実な現実を、静かに提供していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ