第16話 二次会と唐辛子
祭りの喧騒はすっかり消え、商店街は静まり返っていた。
屋台のフランクフルトや飲料の片付けも終わり、深夜のファミレスには、ほんの少しの疲労感と独特の静けさが漂う。
深夜二時過ぎ。
店内の照明の下で、二次会が始まった。
参加者は、屋台片づけを終えた雨露と安藤、そして 宮間とモモコ、さらに厨房での調理を終えたサモン、静かに見守っていた鳩山店長の六人。
文月と笹原は締切に追われ、オーナーの木ノ下は祭りの終わりとともに消えた。
「乾杯!」
安藤が明るく声を上げ、ペットボトルのジュースを掲げる。
モモコも缶チューハイを傾け、笑みを浮かべる。
「……あ、あの……僕、こういうの初めてで……」
宮間は震える手でジュースを持ち、声を小さくする。
雨露は、カウンター席に座り静かに観察する。彼の目には、誰もが微妙に狂気を帯びた瞬間が映っていた。
サモンは唐辛子の瓶を手に取り、にこやかに提案する。
「フランクフルトにちょっとだけ唐辛子を振る、というのはどうですか?」
「や、やめてください……」
宮間の声は微かに震える。
安藤も慌てて「サモンさん!」と止める。
しかし、サモンの笑顔は揺るがない。
「あ、店長もどうです?ピリッと旨味」
鳩山店長は椅子に腰かけ、にこりと笑う。
「ふむ……経験も大事ですね。でも、若者は安全に楽しむべきでしょう」
言葉は優しいが、微妙に説教臭さも漂う。
雨露は心の中で「この人、優しさと狂気の境界が曖昧だ」と淡々と分析した。
二次会は徐々に、フランクフルトのスパイス議論や、唐辛子の罰ゲーム案で盛り上がる。
モモコは缶を掲げながら笑う。
「やっぱり夏は刺激的じゃなくちゃ! 笑いとフランクフルトは人生のスパイスよ!」
宮間は小さくうなずくも、フランクフルトを慎重に口に運ぶ。汗をかきながらも、少しずつ笑顔が出る。
雨露はカウンター席にきた店長とコーヒーで一息付き、穏やかな時間を過ごす。
サモンは唐辛子の瓶をテーブル上で回し、悪戯っぽく笑い。
安藤は全力で止めるが、サモンは全然、聞かない。
モモコはふと、天井を見上げた。
「ねえ、二次会も、悪くないわね」
「そうですね……こういう時間も、悪くないです」
宮間も、やや震えながら小さく答える。
鳩山店長は、微笑みながらその会話を聞いていた。
店内の蛍光灯の下で、笑いと微妙な緊張感が共存する。
二次会は深夜の笑いとフランクフルトの余韻で、ゆっくりと静まっていく。
「さて……そろそろお開きにしましょうか」
「あら残念ね、まだ騒ぎたりないのに」
モモコが最後に缶を置き、文句を言う。
「は、はい……」
宮間はまだ少し緊張気味だが、安心した顔で頷く。
雨露は淡々と片付けを進め、安藤も手伝う。
サモンは厨房に戻り、鳩山店長は静かに席を立つ。
深夜のファミレスは、祭りの熱気も、唐辛子騒動も、魔法少女逃亡劇も、すべてが消えた後の静けさだけが残った。




