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深夜二時のハングアウト  作者: 充電


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第15話 真夏の夜と屋台の狂気

夏祭り当日。

夕方の空はまだ明るい。ファミレスの屋台前では、雨露が黙々と作業していた。


フランクフルトを並べ、ペットボトル飲料を冷やし、缶のお酒を整頓する。手際は正確で、作業のリズムには一切の無駄がない。


一方、安藤は黙々とではなく、楽しげにフランクフルトをつまみ食いしながら作業している。


「おいしい!」


その元気さに、雨露は軽く目を細め、フランクフルトを焼く手を止めた。


「安藤さん、試食は程々にしてください」


「だって、匂いが美味しそうすぎるんです!しかも焼きたて!」


安藤さんはうっすらと笑いながら、もう一口。屋台作業は微妙に進捗が遅れる。


そんな中、文月が現れた。


魔法少女のお面を頭に載せ、キラリと目を光らせて屋台に接近する。


彼の目当てはただ一つ、フランクフルトと缶ビールだ。笹原の追跡から逃れつつ、屋台の端に回り込む。


「……これが今日の晩餐になるのか」


小声でつぶやきながら、魔法少女お面の下でニヤリと笑う文月。


「フランクフルト一本と、缶ビールを一つ」


雨露は鋭い観察眼で文月を見つめる。


「先生、また笹原さんから逃走してるんですか」


「……戦略だよ。哲学的戦略」


そう言って、文月は小銭を差し出す。

雨露は無言でフランクフルトを串に刺し、缶ビールを手渡す。


魔法少女姿で屋台に立つ文月は、周囲から見たら完全に怪しい客だ。


安藤は笑いをこらえながら、その様子を見守る。


魔法少女お面を軽く押さえ、文月はフランクフルトをかじり、ビールを一口飲む。


「至福の極み!!!」


「先生どこですか!!?」


笹原が文月を探す声が響く。


しかし文月先生は、魔法少女のポーズを決めると、軽やかに横をすり抜け、祭りの人混みの方へ逃げていく。


「先生、ちょっと待ってください!」


笹原は祭りの人混みへと消えていく文月を目で追いながら財布を出す。


「雨露くん、私も先生と同じものを!」


そう言って、笹原は小銭を差し出す。

雨露は無言でフランクフルトを串に刺し、缶ビールを手渡す。


笹原は左手に缶ビールを持ち、右手でフランクフルトを齧りながら、文月を探しに人混みへかけて行った。その後ろ姿は、しっかり祭りを満喫していた。




その隣では、モモコがすでにテラス席に座って出来上がっている。


用意された三席のひとつを占領し、楽しげに笑っている。


「ふふ、やっぱ夏祭りは最高ね!」


宮間は残業を抜け出してフラフラと屋台前に現れ、モモコに絡まれる。


「こっちに来なさい!ほら、飲んで楽しみなさい!」


宮間はオドオドしながらモモコに手を引かれ、フランクフルトを口に運ばれる。


「え、えっと、あ、あの……モモコさん、ここで飲んでもいいんですか……?」


「いいのよ!祭りだもの!」


その間も雨露は、屋台の売上とフランクフルトの残量を淡々と確認していた。


深夜のファミレスでの哲学実験や狂気の追跡劇を思えば、屋台の混乱など雑音にすぎない。


店内では、サモンと鳩山店長が落ち着いた顔で作業中。


サモンは料理の仕込みを進めながらも、祭り屋台の簡単メニューをチラ見し、少し残念そうに眉をひそめる。


店長は穏やかに二人の作業を見守るだけ。


オーナーの木ノ下は盆踊り会場の中央で太鼓を叩いていた。


派手な柄シャツに汗がにじみ、リズムを刻むたびに周囲から歓声が上がる。


ファミレス屋台の売上とオーナーの太鼓は、偶然にもお祭り全体のテンポを決めているようだった。




夜になり、花火が上がる。

テラス席にいるモモコ、宮間、安藤、文月が見上げる。


夜空に大輪の光が咲き乱れ、街全体が色と音の洪水に包まれる。


モモコは缶ビールを軽く掲げ、にやりと笑った。


「ねえねえ、宮間くん、怖い話してあげるわよ!」


「ひ、ひえ……モモコさん、怖いのは……」


宮間は背筋を震わせながらも、花火に目を奪われていた。


安藤も怖がりながらも「私も聞きます!」とフランクフルトを頬張る。


文月は、魔法少女のお面を夜空に反射させながら、楽しげに声を上げる。


「夏といえば、怪談。だが、夏祭りの夜には、怖い話も美味しいフランクフルトもビールも、すべて等価になる」


「え、なんですかその等価理論……」


雨露はフランクフルトを売りながら、その様子を観察していた。


宮間が震えながら話す。


「ぼ、僕、昔……深夜ファミレスで……幽霊を……見たんですけど……」


「あら、いいじゃない。怖いの大歓迎!」


「えっ、でもそれ怖いんじゃないですか……?」


「幽霊も、祭りの夜には味方だよ。ほら、私も魔法少女ですし」


シュールな光景だが、彼らの夏の夜は、確かに生きていた。


花火の最後の一発が夜空に咲くと、


モモコは缶ビールを掲げ、

文月はお面を外して満足げに笑い、

安藤はフランクフルトを最後の一口で食べ切った。

宮間は小さく息を吐き、ようやく肩の力を抜く。



深夜のファミレスのカオスとは違う、穏やかな混乱。


そこには、笑いも恐怖も、少しの驚きも、そしてちゃんとしたフランクフルトもあった。



雨露は屋台の売上金を確認してから、屋台の片付けに淡々と取りかかる。


モモコたちの笑い声と、遠くの太鼓の音、夜空に散る花火の光。シュールだが、なんだか心地よい夏の夜。



深夜のファミレスの騒々しさも悪くないが、祭りの夜も悪くない。



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