第12話 連想ゲームと夏祭り
真夏の深夜ファミレスは、冷蔵庫の中に近い。
外は熱帯夜で、アスファルトがまだ昼の名残を抱えているというのに、店内はクーラーが容赦なく稼働し、空気は薄く、冷たい。
「寒くないですか?」
安藤が腕をさすりながら言った。
「真夏なので」
雨露は備品を整理しながら答える。
「それ、理由になってます?」
「この店ではなります」
文月はソファに深く腰掛け、氷の溶けかけたアイスコーヒーを眺めていた。
「夏なのに、氷が主役だね」
「年中主役です」
「存在論的に?」
「在庫的にです」
宮間は膝掛け代わりにメニュー表を抱え、静かに震えていた。
「……ここで孤独死したら、死因は低体温症ですかね」
「その前に店長に怒られます」
雨露は淡々と言う。
「では、夏らしいことをしましょう」
唐突に、文月が言った。
「連想ゲーム」
「え、今からですか?」
安藤が目を輝かせる。
「仕事中なので、参加しません」
雨露は距離を取る。
「観察役だね」
「止め役です」
「…じゃあ、僕も参加します」
宮間が恐る恐る手を挙げた。
「死を連想しない方向で」
「努力はします」
文月が咳払いをした。
「テーマは――夏」
「きました!」
「じゃあ、安藤くんから」
「えっと……かき氷!」
「王道だね」
「じゃあ次、宮間くん」
「……盆休み」
「暗い」
「ブラック企業なので」
「では僕は……蝉」
「リアル」
「夏は、命が短い」
「もう哲学入ってます」
雨露が小声で指摘する。
そのとき、厨房からひょこっと顔が出た。
「夏は、辛いもの」
サモンだった。
「冷房で冷えた体、辛さでバランス取る」
「急に世界観変わりましたね」
「トムヤム、夏に最高」
「連想ゲームなので、一語でお願いします」
「……唐辛子」
「辛い」
「痛い」
「…つらい」
安藤は少し考えて、
「じゃあ、夏フェス!」
「人多い」
「暑い」
「トイレ混む」
「もう連想が愚痴です」
宮間は静かに言った。
「……夏祭り」
その言葉に、ふっと空気が変わった。
ちょうどそのタイミングで、入口のドアが開く。
「こんばんは」
低く穏やかな声。
鳩山店長だった。
「珍しいですね、こんな時間」
雨露が言う。
「商店街の理事会が長引いてね」
店長は涼しい顔で言った。
「そういえば」と、続ける。
「今年も夏祭りが近づいてきました」
「ですよね」
「それでね」
店長は少し楽しそうに微笑んだ。
「このファミレスも、出店を出そうと思って」
「えっ」
安藤が声を上げる。
「屋台、ですか?」
「はい」
「なに屋さんにするんです?」
「それを今、考えようかと」
文月が目を輝かせた。
「哲学屋台」
「却下です」
雨露が即答する。
「じゃあ、孤独死回避相談所」
「もっと却下です」
「ガパオライス」
サモンが言う。
「侵略が露骨です」
「冷やしガパオ」
「冷やす意味あります?」
「夏」
「万能すぎます」
安藤は真剣に考えて、
「ファミレスらしく……ハンバーグ?」
「屋台感がない」
「じゃあ、パスタ!」
「麺がのびます」
宮間は小さく手を挙げた。
「……普通のフランクフルトでいいんじゃ……」
「一番現実的です」
雨露は頷いた。
店長はみんなを見回して、穏やかに笑った。
「まあ、ゆっくり決めましょう」
「この店らしいものを」
クーラーの風が、また強くなる。
真夏の深夜ファミレスは、今日も少し寒くて、
少しだけ騒がしくて、
なぜか居心地がいい。
連想ゲームは、いつの間にか終わっていた。




