表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深夜二時のハングアウト  作者: 充電


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/55

第11話 締切終わりと哲学

締切が終わった男は、別人である




深夜のファミレスのドアが開いた瞬間、

雨露は、ほんのわずかに違和感を覚えた。


歩き方が落ち着いている。

周囲を警戒していない。

観葉植物の陰に身を寄せる気配がない。


「こんばんは」


低く、穏やかな声。


「……」


雨露は一拍置いてから言った。


「普段から、それでいてください」


文月は微笑んだ。

きちんとした微笑みだった。

締切前には存在しなかった種類のものだ。


「締切、終わったんだ」


「それは見ればわかります」


宮間はコーヒーを飲みながら、首を傾げた。


「……すみません、どちら様ですか?」


「ひどいな」


「いえ、外見が。別人なので」


確かに文月は、見違えていた。


背筋は伸び、髪は整い、顔色もいい。

“美形”という言葉が、ようやく本来の意味で当てはまっている。


「締切って、人をここまで壊すんですね……」


宮間はしみじみ言った。



そこへ、勢いよくドアが開く。


「あら!」


モモコだった。


「なにこのイケメン!」


店内の空気が一瞬、華やぐ。


「新しいお客さん?」


「いえ、常連です」


雨露が即答する。


「嘘でしょ!」


モモコは文月の周りを一周した。


「こんな顔、初めて見たわよ!」


「締切明けです」


「魔法じゃない!」


安藤がカウンターから顔を出した。


「先生……なんか変なもの拾い食いしました?」


「してない」


「怪しいキノコとか」


「してない」


「エナジードリンクの飲みすぎとか」


「それは少し」


「やっぱり!」


「原因は締切終わりです」


雨露がまとめた。


文月は席に座り、コーヒーを一口飲んだ。


「余裕があると、世界が静かだね」


「普段が騒がしすぎるんです」


「哲学実験、今日はやらないの?」


モモコが聞く。


「今日は、人に絡まない哲学をする」


「つまんないわね」



その時、安藤が壁を見上げた。


「そういえば、この写真……」


壁には、色とりどりの祭りの写真が貼られている。


知らない土地、知らない神輿、知らない踊り。


「これ、オーナーですよね?」


「たぶん」


雨露は言った。


「たぶん?」


「確実な証拠がないので」


宮間が手を挙げた。


「僕、去年、青森で見ました」


「えっ」


「ねぶたの後ろで、柄シャツ着てました」


「あたしは、沖縄!」


モモコが言う。


「エイサー踊ってた!」


「私、長野です!」


安藤も続く。


「知らないお祭りで、知らない屋台やってました!」


「それ、全部同一人物ですか」


雨露が確認する。


「多分……」


文月は興味深そうに言った。


「つまり、オーナーは常に祭りの途中にいる」


「そう考えると辻褄が合います」


「この店の内装も、趣味よね」


モモコが店内を見回す。


観葉植物。

金魚鉢。

壁の祭り写真。

そして、なぜか許されているタイ料理の侵略。


「普通、止めません?」


「止めない人ですから」


雨露は淡々と答えた。


「自由で、楽天的で」


「……でも、嫌じゃない」


宮間が小さく言った。


「ここは、居場所ですから」


文月は、静かに頷いた。


「締切が終わるとね、こういう場所のありがたさがわかる」


「じゃあ、締切前は?」


「生存本能しかない」


「納得です」


モモコは肩をすくめた。


「まあ、イケメンが増えたから今日は許すわ」


「一時的です」


雨露が釘を刺す。


「締切が近づけば、元に戻ります」


文月は苦笑した。


「だから今夜は、静かにしておく」


深夜ファミレスは、今日も少しだけ賑やかで、少しだけ不思議だ。

 

そしてオーナーは、どこかの祭りで、きっと誰かに目撃されている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ