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スイート・マニュフェスト  作者: 八つ足ケンタウロス


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第47章: 禁断の山

カイが「古き神々の眠る山」へ行くと決意したことを知ったリキは、彼の家に駆けつけた。

「馬鹿を言え! あの山には近づくなと、あれほど言ったはずだ! そこは我々の聖域であり、同時に墓場だ!」

リキの剣幕はいつになく荒々しかった。

「なぜそこまで止めるんだ!」カイも食い下がった。「あんたは何か知ってるんじゃないのか! この病のことも、山のことも!」

「知らん!」リキは吐き捨てるように言った。「知らんからこそ行くなと言っているんだ。得体の知れないものには触れるな。それがこの世界で生き延びるための鉄則だ」

その夜、カタリナがカイの元を訪れた。

「私も一緒に行く」

彼女は小さな革袋をカイに手渡した。中には干し肉と傷薬、そして彼女が夜なべして編んだ丈夫なお守りが入っていた。

「駄目だ。危険すぎる」

「あなた一人を行かせる方が危険よ」カタリナはカイの目をまっすぐに見つめた。「それに薬師として、この病の正体を突き止めなければならない。これは私の戦いでもあるの」

彼女のその揺るぎない瞳を見て、カイは何も言えなくなった。

翌朝、夜明け前の薄闇の中、二人は誰にも告げずに村を出発した。リキの制止を振り切って。

山の麓は鬱蒼とした森だった。道なき道を進む。カタリナは薬草を見つけてはその効能をカイに教え、カイは彼女が歩きやすいように鉈で枝を払い道を作った。困難な旅だったが、二人きりのその時間は不思議なほど穏やかで満ち足りていた。

数日間に及ぶ苦しい登山の末、彼らは道中でいくつかの奇妙な遺物を発見した。

地面に半分埋まった、完璧な球体をした黒い石。それはかすかに低く唸るような音を発しており、触れると静電気が走るように指先が痺れた。

「まるで巨大な機械の心臓みたい……」カタリナが呟いた。

そして土の中から覗いていた、虹色に輝く細い細い糸。それはどんな力でも断ち切ることができず、太陽の光を複雑に反射していた。カイはそれが、祖父の代から伝わる伝説の「竜の髭」ではないかと思った。

山の標高が上がるにつれて、周囲の植生が明らかに変化していった。木々は不自然なほど均等な間隔で並び、下草はまるで人の手で刈り取られたかのように生えていない。

そしてついに、彼らは山の頂上にたどり着いた。

そこには泉などなかった。

代わりにあったのは、巨大な金属の建造物だった。

それはまるで山そのものが機械であるかのように、大地と一体化していた。表面には無数の幾何学模様が刻まれ、その隙間から青白い光が漏れ出している。黒い石も虹色の糸も、全てがこの建造物へと繋がっているようだった。

二人は言葉を失い、ただその人知を超えた光景に立ち尽くした。

「……ここが、神々の眠る場所……」

カイは恐る恐る、その建造物の一角にある滑らかな壁に手を触れた。

その瞬間。

彼の頭の中に、直接、膨大な情報が流れ込んできた。

それは知識ではなかった。それは彼がこれまで生きてきた世界の、全ての設計図だった。

村の地形データ、村人一人一人の生体情報、そして彼らの行動を予測する無数のシミュレーション結果。

『シミュレーション・プログラム“故郷”へようこそ』

カイは理解した。

この穏やかな村も、優しい母も、厳しいリキも、愛しいカタリナも、そして自分自身さえも。

その全てが、この巨大な計算機の中で動いている精巧なプログラムに過ぎなかったのだと。

彼らは「大崩壊」の時代のキーパーソンたち――海斗、佳代、リキ、カタリナ――の人格データを基に創られた、「遺産相続型レガシー・コンストラクト」。

そして「静かなるstutter」とは、彼らの核心プログラムを蝕むデータ劣化ウイルスの名前だった。

この世界は、偽物だった。

彼の人生は、全て作り物だった。

そのあまりにも残酷な真実に、カイはその場に崩れ落ち、声にならない絶叫を上げた。


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