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第52話:告白の始まり、嵐の予感、解き放たれる真実

天下統一達成の報が天下を駆け巡り、京の都がお祝いムードに包まれる中、蜂須賀小六勢力の中心部では、静かに、しかし重い時間が流れ始めていた。それは、嵐の前の静けさだった。京の町に響く歓声も、この場所には届かないかのようだった。


小六は、京の屋敷の庭にある、故郷の川辺を模した小さな離れにいた。石の上には苔がむし、水路には水が穏やかに流れている。鳥の声が聞こえ、水の流れる音が耳に心地よい。ほんの一時だが、故郷にいるような安らぎを感じられる場所だった。そこで彼は、かつての川並衆の衆人たちが、戦功を挙げ、領地を得て、それぞれの新しい場所で生きようとしていることを思っていた。彼らが、この平和な世で幸せに暮らせることを願っていた。そこへ、木下藤吉郎と竹中半兵衛がやってきた。二人の顔には、いつもの朗らかさや冷静さとは異なる、張り詰めた緊張の色が浮かんでいた。彼らの足音は、普段よりも重く響き、二人の間に漂う空気は、触れれば切れそうなほど研ぎ澄まされていた。


小六は、二人の様子を見て、何か尋常でないことが起こる予感を感じた。彼らの間に流れる、重い空気。小六は二人に座るよう促した。三人は向かい合って座る。静寂が流れる。庭の水音が響くだけだった。遠く、京の町のざわめきが微かに聞こえる。


やがて、藤吉郎が口を開いた。彼の声は、いつもの甲高い声ではなく、低く、どこか震えているかのようだった。緊張と、そして深い感情が込められていた。それは、彼が最も恐れている瞬間だった。「小六のおっちゃん…いえ、蜂須賀様…」。藤吉郎は、慣れない「様」付けで小六を呼んだ。その言葉に、小六は違和感を覚えた。いつも自分を「おっちゃん」と呼ぶ藤吉郎が、敬称を使ったのだ。それは、彼らの関係性が、天下統一によって、そしてこれから告げられる真実によって、決定的に変わりつつあることを示唆していた。


「どうした、藤吉郎。半兵衛殿も。何か堅苦しいな。いつも通りで構わんぞ」。小六はそう言って、二人の緊張を和らげようとした。優しく、いつもの調子で。しかし、二人の緊張は解けなかった。彼らは、後戻りできない場所に来ていることを知っていた。


半兵衛が、病に侵された体を起こし、静かに、しかし強い意志を込めて言葉を続けた。彼の顔色は青白いが、その目に宿る真剣な光は、病をも凌駕する気迫を放っていた。「蜂須賀様…。我々、竹中半兵衛と木下藤吉郎は…貴方様にお話しなければならない真実がございます」。半兵衛の目が、小六を真っ直ぐに見つめた。その目に宿る真剣な光に、小六は息を呑んだ。彼の病弱な体から発せられる、尋常でない気迫。


藤吉郎が言葉を引き継いだ。彼の声は、絞り出すような、感情がこもった声だった。それは、長年胸に秘めてきた秘密を解き放つ声だった。「おっちゃん…いえ、蜂須賀様。私たちは…最初から…天下統一を、貴方様が成し遂げるように…道筋を立てておりました」。藤吉郎は、震える声でそう言った。彼の目から、かすかに涙がこぼれ落ちた。


その言葉を聞いた瞬間、小六の体に衝撃が走った。まるで、頭を殴られたかのような感覚。理解が追いつかない。何を言っているのだ、この二人は。天下統一を、自分が成し遂げるように?計画されていた?彼は、自分が天下人になることなど望んでいなかった。ただ、藤吉郎や半兵衛、そして川並衆や、集まってくれた多くの人々と共に、戦乱を終わらせ、皆が安心して暮らせる世を創りたかっただけだ。その中心に自分が立たされていることには戸惑いを感じていたが、それは自然な流れの中でそうなったのだと思っていた。


しかし、藤吉郎の言葉は違った。それは、全てが、自分という人間を中心に据えて、周到に計画され、仕組まれていたかのような響きだった。自分が、天下人となるように、誰かによって用意された道だったのか。自分が、この二人の、あるいは他の誰かの「駒」であったかのような感覚が、彼の心を占めた。裏切られたという思い。


告白の始まり。それは、嵐の予感だった。天下統一という偉業の陰に隠されていた、二人の壮大な、そして秘密の計画が、今、その核心を露わにし始めたのだ。静かな離れに、重い空気が満ちていく。水音だけが、変わらずに響いていた。真実という巨大な波が、小六の心の岸辺に押し寄せようとしていた。

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