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5.まろ助との再会



 奥さん用の寝室から立ち去り、宿主用の寝室に向かう。

 たどり着いた部屋の扉をくぐると、老年の男性がメイドと共に待ち構えていた。


「おはようございます、旦那様」


「あぁ」


 知らない人を見ても、考える間も無く誰だか分かるのはありがたい。

 変な間ができると疑われそうだからな。

 因みにこの男性はこの家の執事長、家令のキールである。

 朝早くから執事服をピシッと着こなしている。


 皆からされる挨拶に短く返しながら、バスローブの帯を解き、脱いだそれをメイドに渡しバスルームへ向かう。

 そして湯気の上がっている浴槽に足を踏み入れる。


 この宿主、朝と晩の2回湯船に浸かっているらしい。

 風呂好きの日本人でもなかなかないだろう。

 まぁ準備されるのであれば入るけれども。


 薬草の香りに包まれながらキールから今日の予定を聞き、数分で上がる。

 メイド達にせっせと世話をされながら、きっちりとした貴族服に着替え、キールのみを連れて部屋を後にし執務室に向かった。


 キールに開けてもらった部屋に足を踏み入れると、いつもとは違いすぐにキールが立ち止まったのでふと顔を上げる。


 格子窓から朝の太陽の光が差し込む巨大な部屋。

 奥にあるデスクのその上には、背後からの光を浴びる神聖な生き物が鎮座していた。


「「……」」


「あっ!主さま!」


 宿主並みに冷静沈着なキールが思わず立ち止まったのだ。

 その存在は彼にとって想定外が過ぎたのだろう。

 しかし、俺は意外とすんなりその生き物を受け入れることが出来た。


「あぁ、まろ助か」


「はいッ、このまろ助、今世も主さまのお側にお使えしたく参上いたしました!」


 にぱっと至極嬉しそうに笑うまろ助は、前世も今世も同じ顔、可愛らしい柴犬であるが、表情は異世界効果か何倍も豊かで、しかも喋れる様にまでなってる。

 そして何より、その背中には一対の神々しい翼が付いていた。


「神獣、か…」


 こういった生き物はこの世界では神獣と呼ばれている。

 神格を得ているので崇める対象である。

 我が家の忠犬まろ助は転生して、神様になったらしい。


 未だフリーズ中のキールを追い越しデスクに向かい、もふもふの毛並みをいつもの様に撫でる。


 しかし、彼女は天寿を全うしてから会わせてくれると言っていたが、地球とは時間の流れが違うらしい。

 まぁ、彼女なら時間軸をいじる事も出来るのかもしれないが。


「遺してすまなかった……。私の大事なものは守ってくれたか?」


「もちろん全力でお守りいたしました!私の天寿は驚異の25年ですよ!あの方も驚かれていました!」


「そうか」


 よぼよぼのお爺ちゃん犬になっても、俺の代わりに遺した家族を見守ってくれていたらしい。

 まろ助も誇らしい様で堂々と胸を張っている。

 俺が死んだのがまろ助が14の時だったから、11年もの間家族と共にいてくれたのだ。ありがたい。

 そして別れてからも、俺の事をずっと忘れずにいてくれた事に、ツンと鼻の奥が痛くなる。


「あ、そうでした!あの方からお手紙をお授かりしているのです!背中の羽の中にしまっているので、お取りください!」


「ああ」


 言われた通り真新しい羽を漁ると、手紙らしきものを発見した。

 キラキラと輝いているそれに目を細めていると、背後で放置していたキールが再起動した。


「旦那様……、そちらの神獣様は……」


「古い知り合いだ。これからこちらで預かるのだが……、まろ助、翼はしまえるか?」


「えぇ、お任せください!」


 俺の言葉にまろ助が頷くと翼がシュッと消えた。


「これなら屋敷にいても問題ないだろう」


「えぇ、そうですな……」


 神獣は一生に一度見れるか見れないか、と言うぐらい珍しい存在なので、キールは未だ受け入れ難いらしい。

 返事が上の空である。


 そんなキールを横目に手紙を開く。

 ふわりと天界の香りに包まれながらその内容を確認する。



『ごきげんよう。

無事転生を果たしたその後のご気分はいかがでしょうか。

あなたがそちらの世界に転生した事により少なからず影響が出る事は決定していますので、お誕生日プレゼントとして、お約束のまろ助をお贈りいたしました。

新しい人生、楽しんで下さいね。

また会える日を心待ちにしております。

PS.今朝のことは大目に見ましょう。余りお気になさらず。』


 穴があったら入りたいとはこの事だろうか。

 最後の追伸に思わず顔が歪む。


「旦那様、いかがいたしました?」


「いや……、何でもない。まろ助、すまないが預かっておいてくれ」


「かしこまりました!」


 読まれるとまずいが、しかし彼女からの手紙を燃やす訳にはいかない。


 確かこの世界の創造主はリュミエール神1柱だけだったはずだが、彼女がそうなのだろうか。

 教会にある石像を思い返してみるが、あの莫大な情報量を持つ美しさが上手く表現できていないからかいままでピンとこなかったな。



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