3.女神様からのお願い2
主軸は恋愛シミュレーションゲームという彼女の言葉通り、主人公が数名のヒロインに出会って成長していく物語だった。
まず初めのオープニングで、能力値を測る儀式において無能の烙印を押された主人公は実家から追放される。
そして、家を出た主人公がRPG要素で強くなり、のちに勇者となり、仲間達と共に魔王に挑む、と言うのが大体の流れである。
ありがちなストーリーだが、ヒロインたちが総じて可憐な子たちなのだから確かにギャルゲーである。
そしてハーレムルートまであるのだから、ファンタジー世界はやはり健全じゃないな。
一見、女性陣の仲は良さそうだが、会話の節々に牽制とも思えるセリフがあるのを見る限り裏ではドロドロなのだろう。
その中に血の繋がった実の妹がいるのだから、常識的に考えてどうかと思う。禁断の愛に興味はない。
「やっぱりこの手のゲームは俺に向いてない事が分かった」
「そうですか。それは良かったです」
やらせておいて肯定されてしまった。
全ルートクリアした俺は、ゲーム機を彼女に返却する。
スチルのアルバムは綺麗に全部埋まったし、項目も全てクリア済みの表示が出ているので終わったはずである。
隠しルートとして、正規ルートを外れた選択肢を選ぶこともしたが、正規ルートと共にアルバムに表示されたのでこれ以上のルートはないと判断している。
やり慣れないジャンルのゲームでかなり時間がかかっただろうが、退屈ではなかった。
多分この場所の性質、もしくは今が肉体ではなく精神体だからか、時間の流れを感じなかったのだろう。
「お疲れ様でした。ではこのゲームをクリアしていただいた上でお願いを聞き届けて頂きましょう」
断るとははなから考えていないらしい。
まぁこの存在からのお願いなんて、俺なんかに断る事は出来ないのだが。
「邪神により、難易度が格段に上がっているこの世界の行く末を変えてください」
邪神なんてゲームに出てこなかったんだが、しかし、彼女の言う通りなら敵のレベルはグッと上がるだろう。
「あなたに転生して頂くのは主人公の父親、エルディ・セスティアです」
「……」
全ルートをクリアさせられたのだから、当たり前の様に主人公だと思い込んでいた。
これは、難題である……。
レベルの上がった世界で果たして、主人公は生き残れるだろうか……。
そして童貞であるにも関わらず、血の繋がった子供ができる事になる。それも3人。
「向いていないあなたに主人公は無理でしょう」
「おっしゃる通りで」
確かに無理があったな、俺が勇者の主人公なんて。
改めて記憶を確認する。
主人公でないなら主人公の言動以外の所が重要になってくる。
歴史上の出来事だったり、主人公に影響を受けた世界の流れだったり。
「あれ、父親って……、え、中盤で死ぬじゃん……」
思い返してみれば主人公の父親は物語中盤、クーデター中にあっけなく命を落としていた。
しかも詳細は不明。
「えぇそうですね。その辺りの判断はあなたに任せます」
なるほど、父親が生きていようが死んでいようが、世界の結果が良ければ彼女はそれで良いらしい。
「では説明も済んだ事ですし、転生して頂きましょうか。赤子からのスタートですと世界への影響が大き過ぎますので、憑依の様な形となります。よろしいですね?」
「はい」
はい以外の選択肢なんてないだろうよ。
「お願いを聞き届けて頂けた暁には、まろ助と再会させて差し上げます」
「それはどうも」
頷くしかないにせよ、賞品があるのなら自然とやる気も上がる。
上手いことアメを与えられてしまったな。
「ではご武運をお祈りいたします」
彼女が誰に祈るのかは定かではないが、形式美であってもそう言われると素直に嬉しい。
次は妻子持ちだし、その次ぐらいはこんな綺麗な女の子と縁のある人生を歩みたいものだ。
薄くなる意識の中、最後に彼女に視線を向けると、見た目の年相応の笑顔でひらひらと手を振っていた。
本当に、惜しいな……。
そう最後に思った時、彼女の笑みが一層深くなった。
「因みに、あなたの心の内は初めから全て聞こえていますよ。今度会った時には勇気を出して頂けると、私も嬉しいです」
それを聞いた俺は、果たしてどの様な顔をしてたのだろう。
ただ、首から上に一気に熱が集まったのだけは自分でも分かった。