10.魔孔1
「お久しぶりです、公爵閣下」
公爵邸の玄関で俺は1人の男を迎えていた。
この国の魔法師団を示すローブには、彼1人が身につけることを許されている装飾がある。
彼の名前はルーカス・イズベルト。この国の魔法師団の団長である。
長い銀色の髪に青い瞳を持つ、宿主とは違うタイプの美人系イケメンである。
初対面では女と間違う者も多いらしい。
「この度は、魔孔を広げる術を試したいのだとか」
「場所を移そう」
「ええ、そうですね」
この世界で魔法を使うには体内にある魔力を使う必要がある。
丹田で練られた魔力は全身を巡り、全身に無数にある魔孔を通り外界へ放出され、呪文という鍵により魔法という形を取る。
魔孔の数は生まれた時から決まっている。
しかしその穴を広げることは出来るため、一度に使える魔力量を増やすことができる。
消費量は大きいので、魔力量を増やす鍛錬も並行して行わなければならないのだが。
そう言った説明を応接室で長々と聞いた。
団長は話すことが苦でない性格であるようで、寡黙キャラな俺はそれを黙って聞いていた。
「しかし閣下はなぜ今になってこの術を?今でも十分お強いかと存じますが」
「試したことがなかったからな」
「左様ですか」
来たるべき未来のために戦力の底上げと、様子を見て子供たちにも依頼したいと思ったのだ。
特に次男には追放に先んじて魔法面での強化も施すべきだろう。
魔法の教師をつけるのはダメだが、これぐらいなら大丈夫かと思い至ったのだ。
魔孔を広げられる人間はこの国にも数人いるが、国一番の技術を持つのはこの男であった。
相応の金は取られたが、それだけ効果は保証されている。
金は有り余っているのだから、この男一択だった。
忙しい人だが、公爵の指名を断ることは出来まい。
紅茶も最後の一口になってしまいかなり時間が過ぎたことを知る。
話し上手な人間の話は聞いていて飽きないからすごいよな。
「こちらで行いますか?」
「寝室のほうがいいか?」
「横になれるならどちらでも。しかし術後しばらくは歩くことが難しいかも知れません」
「ならば寝室で行おう」
立ち上がりキールと共に隣の寝室に向かおうとすると呼び止められた。
「閣下、キール殿は来られない方がよろしいかと」
「なぜだ?」
「見ている人が少ない方がリラックスして効果が出やすいのです」
「そうか?」
別に今更キールがいようが緊張なんてしないのだが。
まあ、彼が言うなら従うか。
「わかった、キールは席を外してくれ」
「かしこまりました」
そして俺は団長と共に寝室へ向かった。
「では閣下、楽な格好で横になってください」
「ああ」
ジャケットを脱ぎタイを外し椅子にかけながら、首元のボタンを外す。
すると視線を感じた。
「?どうした?」
「いえ、そのお姿が絵になるなと」
「そうか?」
服を脱いだだけだが。
団長の軽口を聞き流しながらベットに横になる。
「では始めましょうか。失礼しますね」
臍の下、丹田がある場所に団長の手が添えられる。
団長を中心とした魔力の対流を感じたと同時にーー
「ッッッ!?」
全身に電流が走った様な感覚を覚えた。
指先、脳まで痺れ視界がチカチカと点滅する。
「待ッ、んんんっ?!」
「おや?」
流石に様子がおかしいと感じたのか、団長は魔力を流すのを止めた。
やっと息が吸える様になり荒い息を繰り返す。
「団長殿、これは、話が違うのでは?」
「その様ですね」
「うっっ」
試しにもう一度と言わんばかりに流された魔力に思わず声が出る。
魔孔を広げる術は受ける人により感覚が異なる。
魔法を普段使わない人であれば激痛を、使い慣れた人であれば心地よさを覚えるらしい。
俺は魔法に慣れている側の人間だ。痛いわけもなく、心地いいものであろうと推測していたのだが、これは心地よさと言うよりも…
「んっ」
「なるほどなるほど?」
まるで実験する様に魔力を流す団長にこのまま続けられたら堪らないと、腹に乗る手を掴む。
が、最初の一撃でろくに力が入らない。
「おいやめ、ぐッッーー。貴様…」
わざとやってるだろ。
睨みながら団長の顔を見ると、その目には怪しい光が宿っていた。
体を観察していたその瞳がふいに俺の目を見る。
この男、いつの間にスイッチが入ったんだ?
男に一方的に攻められるとか、ジャンル違いなのでご退出いただきたいのだが。
「手を離せ」
「え〜??」
「ひッ、んんんっーー」
「ごく稀に魔力の相性によって全く別の反応が出る者がいると師匠に教わりました。どうやら閣下と私の魔力の相性はとても良い様ですね」
「最悪の、間違いだろう」
身体中の神経を撫でられる様な感覚に唇を強く噛む。
現状この男から逃れる術はない。
体に力は入らないし、体内の魔力も支配下にあるため魔法を放つ事もできない。
大声を出すと助けは入るだろうが、宿主の矜持がそれを許さない。このプライドでいつか死にそうだな。
止める気配のない魔力の流れに声を堪えながら、反射的に上体を丸める。
「あーこらこら閣下。快感から逃げないでください」
常時ではあり得ない物言いである。
元の体勢に戻され、そのまま跨るように両膝で肩を固定されてしまった。
「んッッ、クソっ」
そう毒付くと団長はニタリと笑った。
「ふふっ、こんな機会なかなかないので最後まで行かせていただきますよ。いやはや、現王より高貴な血統を持つあの公爵閣下を組み敷ける日が来るとは思いませんでした」
副作用はアレだが、今もきちんと魔孔が開いていく感覚はある。
この男を選んだのは俺だ。ここで止めて効果があやふやになるのは避けたい。
必要な犠牲かと諦め体の力を抜く。
「おや?」
「ッくぅぅ」
「抵抗はおやめになるので?あぁ、その目はそのままですね。いいですよ。どうせなら楽しみましょう?」
そう言って噛み締めていた唇を指でこじ開け指を突っ込んできた。
「しかし大事な御身体を傷付けるわけにはいきませんからね。噛むなら私の指にして下さい?」
そう言いながら上顎を触り出した。
いや、これは必要ないはずだ。
この男、どこまで楽しむつもりなんだ。
「ぐぅッ」
「クフフっ、存外感度がよろしい様で。奥方様はこのことを知らないのでは?情事の主導権も閣下にあるのでしょう?」
その様はまるで獲物を狙う白蛇で、舌舐めずりする表情さえも俺の背を撫でる感覚がする。
もうそろそろ息子を押さえつけるのが限界だ。
これが反応したらいよいよ終わりである。
「では出力をあげますね」
「!?あ゛ぐぅぅッ〜〜?!」
最悪のタイミングだ!!
「おや、ふふふっ。ようやく反応しましたか。さすが閣下、忍耐力が常人とは違いますね」
やばいやばいやばい。
耐えれば乗り切れたかも知れないが、完全に流れがそっち方向にいっている。
必要な犠牲と思うには少しハードルが高すぎるのだが。
俺の目に何を見たのか団長は柔らかく笑った。
「大丈夫大丈夫。この顔、女に見えなくもないでしょう?それにこれでも私は経験豊富なので。安心して身を任せて下さい」
骨まで食い尽くされそうだとそう思った時、部屋にノックの音が響いた。
その音に煩わしそうに顔を上げた団長。
「旦那様、入ってもよろしいでしょうか?」
その声にはっと我に帰る。
それを見ていた団長はニタリと口角を上げた。
そして顔を近づけ小声で耳打ちしてくる。
「お入れしましょうか?」
その言葉に首を振る。
絶対に入れるなと視線で語る。
それを見て団長は愉しそうに笑った。
「閣下は今、術によりお休みになっています。起きられましたらお呼びしますので、お引き取り願えますか?」
「左様ですか…」
そして足音が離れていく音を聞き、ほっと一息つく。
その隙を見逃す男ではない。
「くぅッッ」
「さて、そろそろ始めましょうか」
そう言って器用に俺の股の隙間に体を入れ、そのまま俺の腰を持ち上げた。
ずりずりと硬い何かを当ててくる感覚に反射的にゾワッと鳥肌が立ち体に力が入る。
やっぱり俺がこっち側か!
思わず自由になった手で腹に乗る手と口に入る手を握る。
「諦めて快楽に身を委ねて下さい。新しい扉にもう奥方様を抱くだけでは満足できなくなるかも知れませんが…」
「それは困りますわね」
「「!?」」
聞こえるはずのない声に揃って顔を向けると、いつの間にか室内に入っていた奥さんの姿があった。
音がしなかった。
それに…
「なぜここに?立ち去ったのではなかったのですか?」
「ふふっ、それはきっとキールの足音ね」
「あーなるほど……。これは一敗食わされましたね」
心底悔しそうな顔をする団長に、冷たい笑顔を向ける奥さん。
「同意の上ならしばらく観察して参考にさせて頂こうと思ったのですが、旦那様にどうやらそのつもりはない様なのでお声がけさせて頂きました」
「はぁ……これからがいいところだったのに……」
「旦那様から離れてくださる?」
「あー、少々お待ちくださいね」
「んぐッッぅ!?」
「団長様?」
「あーはいはい、そんな怖い顔しないで下さい、いま退きますから。頂いた金銭分の術ですよ。出力は最大でしたが」
やばい、完全に力が抜けた。
荒い息を繰り返していると体が離され、口から指が抜かれる。
唾液まみれになった指をいやらしく弄りながら団長は可笑しそうに笑った。
「結局一度も噛みませんでしたね。お優しいことで」
噛みちぎっておいた方が良かったか?
「その睨みも、もはや可愛らしく見えてきましたね。もし気が変わったらお声がけ下さい。いつでもお相手を務めさせて頂きますので」
「その様な事象は未来永劫参りませんのでご安心を。お帰りはあちらです」
「全く、これだから気の強い女は……」
その言葉に思わず氷の球が飛んだ。
「おっと。あははっ、存外お二人は仲がよろしい様で」
「早く行け」
身を起こしながら頭を掻く。
「そうですね、閣下の魔法に殺されては堪らない。では、ごきげんよう」
俺が回復しているのを見るや否やすたこらさっさと退散していった。
廊下で待つキールが見送ってくれるだろう。
アレでもこの国一の魔法の使い手だ。
気配の消えた部屋に思わずため息を吐く。
「旦那様」
「助かった。キールに言われて来たのか?」
「えぇ、イヤな予感がするから様子を見に行ってほしいと」
「そうか」
あれは、こと宿主に関しては過保護だからな。
赤ん坊の頃からよく面倒を見てくれていた。
ベット横に立つ奥さんは心配そうな顔をしている。
「旦那様お怪我はーー」
「ッ」
肩を触られただけで身が跳ねてしまった。
どうにか取り繕っているが、正直余韻が抜けないのだ。
「旦那様……」
「よい、怪我はしていない。それより少し1人にしてくれないか」
どう発散するか考えていると不意に体が押し倒された。
その俺にまたがる奥さん。
デジャブだな。
「おい」
「お嫌ですか?」
「うッ」
指先や首筋、下腹部など撫でる手に正直に反応してしまう体に、奥さんも興味津々の顔をしている。
「お辛そうですし、私であればお力になれますよ?」
何もダメなことはないのだ。
しかしこのまま続けると主導権を握ることは出来ないだろう。
そのことを悟りながら、欲のこもった目で見ると奥さんは興奮した表情を浮かべた。
……諦めも肝心だな。
既にみっともない姿は見られているし。
「……好きにするといい」
「はいっお任せください!」
そして互いに攻守交代という新しい扉を開いてしまい、再び夕食を食べ損ねてしまった。
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