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女神さまに実家のまろ助(柴犬)を犬質に取られたので、主人公を追放する父親に憑依転生することになりました。  作者: ルル・ルー


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9.兄弟




 公爵邸敷地内にある騎士団の詰め所には、ちょっとした競技場がある。

 普段は騎士達が絶えず切磋琢磨し喧騒に包まれている場所であるが、今はシンと静まり返っていた。


 多くの騎士が集まり、公爵家一同も揃う中、その不自然なまでの静寂の要因は競技場の中央にあった。

 金髪の少年と黒髪の少年。

 公爵家の長男と次男であるが、互いに剣を持つ中で土をつけたのは長男であった。


 この場にいる誰もが目を剥き驚いている故の静寂は、不愉快に体に纏い付く。




 俺が宿主に憑依してからおよそ1ヶ月。

 つまり、次男が剣を習い始めてまだ1ヶ月である。


 長男は決して弱くない。

 彼が剣を習い始めて2年ほど。騎士団の新入りを幾度となく負かしていると聞いている。

 そんな彼が剣を持って1ヶ月の少年に負けたのだ。


 しかし、俺はと言うと心底悔しそうにしている長男には悪いが、主人公がようやくスタートラインに立ったことに達成感を感じる。

 いずれこの光景を見ることになるだろうと思っていたから、今日の模擬試合を見に来たのだ。

 俺も次男の成長が思ったより早かったと言う点においては驚いているが、他の者に比べるとその衝撃は少ないだろう。


 そして長男はハッとした様に俺のいる場所を仰ぎ見た。

 俺のいつも通り無表情に何を見たのか、口をへの字に曲げ、うるうると涙を浮かべ走り去ってしまった。

 妹や母親に対してはしっかり者のお兄ちゃんキャラでいるが、まだまだ子供である。

 ちなみに長男と次男の仲はあまり良くない。そんな中で負けたのだから相当悔しかったのだろう。


 いまだにどうして勝てたのかよく分かっていない様子で、兄を呆然と見送った次男を横目に立ち上がる。


「旦那様……」


「仕事に戻る」


 模擬戦の結果に何か言葉を期待していたらしいが、この場で次男を褒めるわけにはいかない。

 次の春には、彼を切り捨てなければならないのだから。






 王都にある公爵邸の庭は広大だ。

 知らぬ者が足を踏みいれるとたちまち迷子になるだろう。騎士団新人の迷子は春の風物詩である。

 そんな庭の中、森が少し開けた場所に、子供が腰掛けるのにちょうど良い切り株がある。

 そこにうずくまる様に座っている金髪の少年。


「ラウル」


「!?」


 名を呼ばれた少年は弾かれた様に顔を上げた。


「父上…」


 怒られると思っているのだろう。

 しゅんとした顔で近づく俺を立ち上がり迎えた。


「申し訳ありません。不甲斐ないところをお見せして」


 そう口にする長男。

 俯くその姿に、思わず自分の手が頭に乗った。

 俺の予想外の行動に驚いて固まっている。


「お前は私に似てる」


「父上に…?しかし父上は剣術大会で3年連続優勝し殿堂入りを」


「私とて初めから強かったわけではない。それに似ていると言ったのは別のことだ」


 懐かしい光景を見渡し目当てのものを見つける。


「あれは何だと思う」


「地面が結氷の様にガラス化しています。ずっと不思議に思ってました」


「あれは13の頃の私がやったものだ」


「父上が?」


「思い通りにいかない時、ここに隠れて魔法を練っていたのだ」


「父上もこの場所に?」


「当時は姉の方が強かったからな。負ける度にこの場所に来ていた。建物から見えない上に、その切り株は座るのにちょうど良いだろう?」


「そうですね…」


 気を紛らわすために言ったのだがあまり効果がなさそうだな。


「…あれには剣の才がある。故に師範をつけた。お前も十分強いが敵わないだろう」


 剣もまともに振ったことがないのに、魔物が蔓延る外の世界に身ひとつで放り出され、最終的には魔王を倒すまで成長してしまう素質があるのだ。

 秀才と天才の間には雲泥の差がある。


「…」


「そう落ち込むな。お前にあるのは剣だけではないだろう」


 次男は魔法にもたける予定だし、長男には頭脳面で秀でて欲しいところだ。


「しかし僕は父上の様に」


「お前は私に似ていると言ったが、私ではない」


 ぽんぽんと再び頭を撫でる。


「あれが例え剣聖や勇者になったとしても、私はお前を次の当主にするつもりだ」


「本当ですか…?」


「ああ。故にお前はお前の武器を磨けば良い。まだまだ時間はあるのだ」


 宿主の場合、前当主の父親が体を壊したから17から当主をしているが、平時であれば下積みをして早くて20後半だ。


 2年ほど先の未来に起こるであろうクーデターの後に俺がどうなるかは分からんが、当主の座は一時的に奥さんに託すつもりだ。

 彼女は賢いから長男が育ち切るまでなら引き受けてくれるだろう。


「それと、兄弟仲良くな」


「…はい」


 もっと小さい頃は仲が良かったと記憶している。

 きっと長男としての責任を負い始めて、ふわふわしている弟が疎ましくなったのだろう。

 貴族の家ではあるあるである。 


 追い出さないといけない手前、俺と次男が仲良くなることは避けたい。

 だが長男と次男の仲が悪いのは頂けない。

 例え死に別れ、もう二度と会うことができなくとも、弟と言うものはいつまでも大切で可愛い存在なのだから。


 次期当主の確約もしたし、必要以上に毛嫌いする事もないだろう。


 もちろん打算もある。

 できれば娘ちゃんには次男の追放について行ってほしくないのだ。

 死亡ルートがあると分かっていて送り出すほど俺は薄情ではないつもりだ。

 下2人の兄妹の仲を分散させるために長男を介入させたい。


「ここで会ったことは誰にも言うな」


 そして最後の念押しを忘れてはならない。


「え…?」


「いいな?」


「…はい」


 絶対母親に言うつもりだったな。

 釘を刺しておいて良かった。

 こんなことするなんて宿主のキャラじゃない。

 家族内の雰囲気が次男の心境を変化させ、次男が魔王に負けるなんてことになっては、大事である。


 渋々頷いた長男の頭を撫でるのを最後に、俺はその場を後にした。




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(❁ᴗ͈ˬᴗ͈))))

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