プロローグ
王国で最も歴史のあるリュミエール大神殿。
この世界の唯一神である女神リュミエールの精巧な石像が祭られるチャペルにて、ある1人の少年が打ちひしがれていた。
「こんな出来損ないの子なんて、産まなければ良かったわ」
しんと静まり返った空間に響いた声は、少年の心に深く深く突き刺さる。
母親からの呪いの言葉に、少年の胸の内には絶望という名の闇が広がっていく。
羽根のあしらわれた豪華な扇で口元を隠し、腹を痛めて産んだ我が子に軽蔑の視線を送るのは、この国唯一の公爵夫人である。
華やかな赤いドレスを身に纏い、カールした艶やかな黒髪から覗く金色の瞳は、絶対零度の冷たい色を宿していた。
「母上っ……」
「母と呼ばないでくれるかしら?あなたを産んだ覚えはなくてよ」
これ以上ない悲痛な色を乗せた声を発した少年だが、無情にも吐き捨てるようなセリフとともに、ふいと視線が逸らされてしまう。
それはまるで、そこに誰もいないかのようで。
夫人の様子からそれを悟った少年は、ふらふらとその場にへたり込み、そしてとうとう気力を失ったように瞳のハイライトを消した。
呆然としている少年は暫くして、虚ろな瞳をゆらゆらと揺らしながら、夫人の横に立つ男性に視線を移した。
夫人以上にこの展開に憤っているであろう父親、公爵家当主の判断を待つ。
そこに縋るような色はなく、裁きの時を待つ、咎人のような顔付きであった。
彼の人生において、仕事に追われる父親との接点は薄い。愛情を注いでくれていた母親でさえこの様子なのだから、望みを持つだけ突き落とされるだけだとでも思っているのだろう。
12歳の少年が受けるには酷すぎる扱いである。
哀れなほど虚ろな瞳を見た俺はーーー
「今日をもって、ゼオ・システィアを公爵家より追放する。お前は明日からただのゼオだ。荷物をまとめ次第、出て行きたまえ」
その言葉をはっきりと口にした。