第3話
「ご飯、焚いておいてくれてありがとね、みーちゃん」
「うん。お疲れ様だったね、お母さん」
時刻は19時。今日の母は早めの帰宅。
普段は21時を回ることが多いので夕飯はあまり一緒に食べることができない。
昼は勿論、朝は母の出勤時間がワタシの登校時間よりも早いのでテーブルを囲った食事というのは中々珍しい。
「みーちゃんは偉いね。野球も勉強も頑張って、家の事もしてくれるんだから」
「お母さんが仕事、頑張ってるからだよ。少しはカバーしないと」
お母さん一人に家のことすべてを背負わせるわけにはいかない。
多少の事ならばワタシにもできるのでそれぐらいはしておかないと。
――――それに。
ストレスも凄い職場なのだろう、時々狂ったかのように声を上げることがある。
『なんでこんなことしなきゃいけないんだよ!』
『どいつもこいつも押し付けやがって!』
怒鳴り声はワタシに向けられたものではないけれど、やっぱり怖いものは怖い。
疲れて帰ってくるお母さんに言うわけにもいかず、ワタシは黙って部屋で過ごすか、母の話を聞くようにしている。
それもあってか、お母さんから反抗期はないのかと聞かれたことが何回かある。
実際、母との関係は良好だし特に言うことはない。
思うところがなくもないが、反抗することでもないので、ないよ、と聞かれるたびに返答する。
「ちょっと待っててね。すぐに夕ご飯の準備をするから」
手を洗ってうがいをした後、お母さんは段ボールでできた簡易式の祭壇の元へ向かう。
そこにあるのは、父の写真。
見た記憶のない、父の胸から上が映った小さな写真。
父はワタシが3歳の頃、亡くなったと聞かされている。
肝硬変のようだ。
元々仕事の先方との交流で何度も飲みに出かけるような人であったらしいし、家でもかなり飲みくれていたらしい。
アルコールの摂取のし過ぎで死ぬとか、そんなにも酒は魔性なるものなのか。
14歳のワタシには、まだわからない。
お母さんが祭壇に手を合わせてから10分程へと経ち、線香の香りがリビングに漂いながらも食欲をそそる香りが鼻腔へと入り込んでくる。
「お待たせ。ご希望通りの親子丼だよ」
「わあぁ・・・・・・ありがとう、お母さん!」
白く光る白米を土台として、半熟の橙黄の卵黄が空のように広がり、点々と雲のように鶏肉が散らばったそれこそ、母が作ってくれる親子丼。
仕事終わりでも手早く作れてタンパク質もちゃんと摂取できる栄養食。
つゆの風味と鶏肉のジューシーさ、ほかほかしたお米が口に入ると、母の味を感じて心がほんわかとする。
だから、好きだ。
親子丼という名称も好き。
お母さんと自分を繋いでくれているような名前をしているから。
「今日は少し多めに鶏肉買ったから、量は少ないけどもう一杯分作れるけど・・・・・・食べたい?」
「食べたい!作って欲しい!」
お変わりもできるとか今日は凄くいい日!
自分で作ると、この量でもいいかなと満足した気になってしまうので足りなくても中々追加のものが作れない。
テーブルに座っているだけで食べ物が出てくるなんて、どれだけ幸せな事だろうか。
・・・・・・今日はちょっぴり、生きててよかったと思えた日。
三が日が終わりましたね。
私は古傷の腰と肩が痛かったので寝正月でした。




