表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みーちゃんは生きたい!  作者: トミー尾杉
29/32

第29話

「・・・・・・関わらないでって、言ったじゃん」

振り返って河川を見るワタシの目に、もう彼女の姿は見えない。


「うん。言われた。だけどアタシは・・・・・・」


・・・・・・あぁ。

きっと、あんな顔をしているのだろうか。


・・・・・・そんな顔をしないでくれよ。

そっちに行きたくなるだろう。


こっちは貴方が来るべき場所じゃない。

こちらは、マイナスの世界。

幸も不幸もない。ただ不愉快で鬱陶しくて息苦しい世界。

もう、見ている世界が違うの。


「未来ちゃん・・・・・・一緒に帰らない?

ちゃんと、おうちに帰ろう?」


「・・・・・・そうだね。でも、帰ったところでなにがあるわけじゃないの。

――――将来のため未来のため。不安要素を取り除くためだけの生活に、なんの価値があると思う?」


「・・・・・・それは、これからを楽しく生きるためだと思う」


「そうね。その通りだと、ワタシも思う。

だけどね、ワタシたちが生きているのはまごうことなき『今』なの。

咲さん。将来や未来にいくら楽しいことがあろうとも、『今』がしんどすぎると、何も見えなくなるの」


「・・・・・・未来ちゃんは、沢山頑張ってるじゃん!怪我をしてまで野球を続けて、勉強も少しずつ成績上がってきてるじゃん!・・・・・・ダメだよ。諦めちゃ」


「諦めることの、何がダメだと思う?」


「終わらせ、ちゃったら。辛い事も、楽しいことも、何も味わえなくなる。

全部、終わっちゃうから。だからダメ・・・・・・これからだよ、未来ちゃん!」


「・・・・・・咲さんってずいぶんとワタシの事を買ってくれてるよね」


「そりゃそうだよ!

・・・・・・前に言ったこと、覚えてる?貴方はカッコいいんだよ。誰かのために動ける優しい人なんだよ」


「そう、見えていたんだね、ワタシ」


「そうだよ。だから、今が辛くて苦労だらけでも、絶対生きていれば・・・・・・」


「ねぇ咲さん。ワタシね、確かに咲さんの言う通り苦労はしているけれど、苦労ってそんな賞賛されるべき行為なのかな?」


「・・・・・・え?」


「苦労の果てに何があるのか、ふと考えてみたの。

苦労の果てにきっと楽しいことが待っている人がいることでしょうね。

人生の辛さも楽しさも知った・・・・・・人生の酸いも甘いも知っているような人間がいるからワタシたちは苦労を賞賛するの。

でもね・・・・・・酸いしか知らない人間はね、ただただ荒んでいくだけなの。

それは賞賛されるものじゃない骨折りの人生で儲けものの一つもなし、ただただ崩れていくだけなのよ」


「で、でも!もしかしたら、これからたらふくの、食べきれないほどの甘いものが来るかもしれない!」


「そうだね。・・・・・・けれど、そんな博打的な人生のどこが楽しいのかしら。期待だけして裏切られて、そんな人間が、本当に面白おかしい人生を過ごせると思う?

――――きっと幸せになってとしても、心のどこかでは幸せは壊れてしまう、いずれまた元に戻ってしまうと思い続けてしまう。

そんな奴はね、不幸の恐怖を味わった人は真に幸福になることはないと思うの」


「・・・・・・お願い!生きることにもっと期待して!アタシも一緒に――――」


・・・・・・それ以上はいけない。


貴方は、そっちに居続けるべきだ。


幸せで在り続けることに卑劣も何もない。

ただ甘んじて受け入れればいいのだ。


不幸であり続けることを憂いる必要もない。

それはすぐに、終わらせるように努めればいいのだ。


ワタシは貴方の言う通り、諦めた人。

でもね。頑張ったんだよ。

疲れちゃったの。


――――これから吐き出すのは、少しの本音とほとんどの嘘。

けじめはつけなきゃいけない。


ワタシを貴方から消し去るための、最期の儀式。

最期の最期で、よりにもよって貴方に傷をつけてしまった。


もう、嫌だ。嫌だ。


こんな思いをするぐらいなら、友達も恋も要らない。


要らなかったのに。貴方が入り込んでしまったから。


貴方のせい。

お互い傷だけを残すのだから。


貴方のおかげ。

楽しくて、わくわくした時間が過ごせた。


――――大好き。


――――疲れた。


最期に貴方に会えて。嬉しいけれど。

本当は、会いたくなかった。


堤防から降りて、太陽に近づく。

もう、二度と会うことがないからこそ。

言わなきゃいけない。


「――――ありがとね咲さん。ワタシなんかと一緒にいてくれて」

止めようとワタシに手を伸ばす咲さんの手を・・・・・・払った。


「だめ!いかないで!」


「じゃあね、咲さん。ワタシ、貴方のこと凄く・・・・・・きらいだった。

――――みがってでわがままで、じゆうきままで、たのしそうで、だれからも 好かれているあなたのことが、ずっと、ものすごく・・・・・・しゃくにさわってた。


「・・・・・・っ」


「せいぜい学生らしく、子どもらしく過ごせる時間を大事にするといいよ。じゃあね」


すれ違う燃える黄金から、数滴ばかりの水滴がワタシに向けて流れてくる。


――――今日は強風。

荒れ狂うような風とは正反対に、ワタシの心は思ったより穏やかだ。


これでもう。



未練はない。




とうとう、明日で終わりです。時の流れとは残酷なものです。

最近はより時間の流れる速度が上がっているような気がします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ