第24話
『・・・・・・えぇ。保護者の皆々様へのご報告として、私の担当している当クラスで事故により歩行に障害が出てしまうような子が出てきてしまいました。
どうか皆様方にはお子様から当該生徒にご協力を促していただけますよう、よろしくお願いします。
今後待ち受ける受験や就職に力を合わせて戦えるきっかけとなることを・・・・・・』
『ま、待ってください。まさか、それはうちの未来の事を言っているんですか?』
『え、ええ。そうですが。どうかなさいましたか、飛月さん?』
『怪我のことは再三お伝えしたはずです。決して歩行できなくなるものではないと』
『で・・・・・・ですが、痛みのせいで歩行がしにくいというのは事実なのではないですか』
『それはあくまで現在の話です。痛みがあるせいでコルセットをして歩きにくくなることはあると思いますが、歩行ができなくなることはございません。
こんな公の場で、誤解を作り出すようなことは言わないでいただきたいです』
『しかし、クラスの生徒たちがそう言っていたので・・・・・・』
『まさか・・・・・・ご自身で調べることなく生徒たちが言っているからという理由で根拠もないことを言っているんですか?』
『・・・・・・いちおう、調べましたよ』
『調べたのならば解るはずですよね。何故適当なことを言っているんですか?』
『・・・・・・申し訳、ございません』
訴えかけた母親に頭を下げ、謝罪をする女性が一人。
保護者会。そこに集まっているのは飛月未来と同じクラスの保護者たち。
父親母親どちらかが出席しているその場で行われた母親に頭を下げる教師の姿は事情の知らない保護者からすれば頭を下げさせられた可哀そうな教師。
教室で起きていることを知らない彼らは、ただ目の前の出来事だけに関心を寄せる。
元々片親で有名だった彼女の母親は再婚もできない人というレッテルを張られることが多かった。
もちろん、彼女の事情を考慮したり教師の発言の不可解さに疑問を抱く者も少なからずいたが、大多数は前評判と目の前で起きていることに関心を寄せた結果。
自分たちの子どもに伝えたのは、保護者会の場で教師の頭を下げさせたモンスターペアレントというものだった――――
◇
最近、ますます周りの視線が厳しくなっているような気がする。
前まであった気に入らないほどの同情の目は呆れるものを笑うような顔に変わり始め、鬱陶しい。
何故そんな目でワタシを見るのだろうか。
まぁ、もうどうでもいい。
後は覚悟が決まるまでの妥協の日々だ。
――――きっかけが欲しい。
まだ踏ん切りがついていないというか、背中を押してくれるものが欲しい。
終わらせるには、まだワタシは臆病だ。
「未来ちゃん」
彼女が、クラス内30人のうちその目を向けてこない僅かな人数に当然彼女は含まれていた。
そんな咲さんだけが、ワタシに話しかけてくる。
今日も、下校の時間。
廊下を歩き、階段を下りながらいつものように話していたが・・・・・・
今日の話題は、勉強の愚痴や楽しい出来事の話ではなかった。
「・・・・・・それ、本当なの?」
「うん。アタシもママから聞いたけど、そんなことがあったみたい」
「・・・・・・それで」
聞いたことは――――先週の土曜日に行われた保護者会のこと。
周囲の話を鵜呑みにした教師がないことを言って、それに対して母が反論を行い、教師が頭を下げて謝罪をしたということ。
問題はその後。
咲さんのお母様曰く――――保護者会終了後に立ち話をしていた際に保護者たちの話題が、母が教師の頭を下げさせたことに集中した、とのことらしい。
きっと、子どもたちにもそのことが話され、事実が伝わらずじまいになっているかもしれない。咲さんは教室の異様さに感づき、ワタシに教えてくれたのだ。
「関心を向けるべき場所が違う。大事なところはそこじゃないし、部分的な場所にだけ・・・・・・印象深い場所だけをピックアップして話してるんだ、保護者たちは」
「そうだ、ね」
呟きに咲さんが答えてくれる。
いよいよ、やばくなってきた。
いろんなものが、ワタシに行動へ移すように促しているみたいだ。
学校内での評判は最悪。元から成績は良くなく、容姿からちやほやされることもなく、教師陣との仲もそこまでいいわけではない。
恐らく贔屓が多いので内申もロクにもらえなくなる。体育に関しては見学が続いているので5段階中1は確定だろう。
これでは、高校進学は難しくなる。
社会が欲しているのは機能的な存在だ。価値を創り出し、多くの利益と主に活躍できる人材だ。
――――自分が、否定されているみたいだ。
お前はいなくていい。存在してようがしていまいが知ったことではないと。
「ねぇ未来ちゃん!今日も――――」
ダメだ。
もう、近い。
これ以上この子をワタシに関わらせたら、傷にしかならない。
――――咲さん。貴方は本当に、いい女だよ。
憧れだろうと、『あの子』みたいになりたいと恋する貴方であろうと。
ワタシが貴方に救われたのは本当の出来事。
でも、ワタシは沼の中へ沈んでいくだけ。
満月のような優しい光の貴方には、もう届かない。
足掻けば足掻くほど、藻掻けば藻掻くほど心が沈んでいくんだ。
貴方は、ここまで堕ちる必要はない。
光は明るさの程度はどうであれ、輝き続けた方がいいに決まっている。
光を知ってからの沼の世界は・・・・・・そうとうくるものがあるから。
闇を知ってから光となっても、また闇に戻ってしまえばきっと想像を絶する苦痛が待ち受けるものだから。
「咲さん。ありがとう。・・・・・・・悪いけど、しばらくワタシと関わらないでもらえる?」
「え、なんで?ちょっと、未来ちゃん!?」
靴を履いてすぐさま走り出すワタシを急いで追いかけてきたが、すぐに彼女の姿は見えなくなった。
体力もだいぶ落ちているみたいだ。
息切れをしながら、腰の痛みに耐えながら膝に手をつき、
「――――ほんっとう」
なにを、しているんだ。
好きな人を突き飛ばして、優しくしてもらったのに仇で返して、
優しい以上に聡明な彼女の事だ。きっと、もう関わってこない。
自分に不都合だと思ったら、きっと切り離してくれる。
優しくするのは、その優しさを認識して受け止めてくれる人だけでいい。
ワタシは認識しながら、それを拒絶した。
もう、あの人に優しくしてもらう資格は、ワタシにはない。
「・・・・・・なんで、生きてるんだっけ?」
物事一つ一つを深堀するのは時間がかかりますし、相当疲れてしまうと思います。
しかし表面的なものばかりに焦点を置くようになると、深く物事を見る能力が段々と欠如してしまうようにも考えられます。
物事を見て・・・・・・何に思案を巡らせるのか、その果てにどんな影響が在るのか。
思考は人類に与えられた最大級の自由ですが、その思考が自身と周囲に何を及ぼすのかを考える必要がありそうですね。




