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みーちゃんは生きたい!  作者: トミー尾杉
23/32

第23話

文字数がちょっと多めなので、お読みになられる際はご注意ください。

 ――――茶色を多めの白で上塗りしたかのような不思議で柔らかな髪色。

 栗色と評するよりも、バニラアイスにチョコアイスをほんの少しだけかき混ぜたかのような甘ったるいミディアムの髪。

 輪郭もはっきりしているちいさな顔に、大きな目に二重のまぶた。

 10代前半にしては発育の良い胸部を画面の下側に、少し驚いたような表情をした少女の画像が、咲さんのスマホに移り込んだ。


「・・・・・・桜田さくらだ千世ちよ

 桜田中学校、というよりは桜田市ではちょっぴりの有名人。

 桜田千世は町の外れの小山にそびえる桜田神社の神主の娘。容姿端麗、人あたりもよく人気者であると聞く。

 男子からの人気は咲さんほどではないが、かなり高く何人もの男子が彼女に告白したが、噂だと『婚約者がいる』ということで断られているみたいだ。

 男の気配を学校では一切匂わせない彼女が発した言葉で崩れた男子は数知れず、『桜田中の撃墜王女』と呼ばれているとも聞いたことがある。


 ・・・・・・なんで、この子が?

 咲さんの待ち受け画面になっているんだ?


「おまたーせ、入れてきたよ」

「・・・・・・あ」

 下心があったわけではない。たまたま見えてしまったとはいえ、人のスマホ画面を凝視していては気持ち悪がられるだろう。


「どうしたの、きょどっちゃって?」

「う、ううん。なんでもない」

 視線を素早く外し、テーブルにお茶を置く彼女にお礼を言って勉強の姿勢に戻る。


 ・・・・・・ずずず、と少し口に入れる茶から音が出てしまう。

 先ほどの画像が気になりすぎて手が震え、上手に音を立てずにお茶が飲めないでいる。

 勉強にも先ほどから集中できずにいる状態だ。

 このままでは咲さんの集中を削いでしまうかもしれない。


「さき、さん」

「ん、どうしたの?わからないところでもあった?」

 何も知らない彼女はただただ不思議そうにこちらを見つめてくるだけ。

 ワタシは、本当にこれを聞いていいのだろうか。


 取り返しのつかないことを自分で踏んでしまうのかもしれないのか。


 いや、

 今後彼女と共に生きたいと思うなら、心のわだかまりは排除すべきだ。


 ――――聞いてしまおう。


「さっき、咲さんのスマホに通知が来てて。たまたま待ち受け画面が見えたんだけどさ」

「ああ、それでさっき挙動がおかしかったんだ」

「ごめんなさい、ちゃんと言えなくて」

「い、いやいや!謝るほどのことじゃないよ!」

 咲さんは頭を下げるワタシにどうどうと両手を出し止め、頭をあげたワタシを見るとスマホを片手にぽん、とワンタップ。


 1月13日と17時38分の白文字の表記。


 その裏に映る、彼女の画像。


「前にさ、アタシの頭に墨汁ぶっかけた子を引っ叩いた子がいたって話、覚えてる?」

「覚えてるよ」

「それ、この子なの」

「・・・・・・え?」

 ワタシの心は驚愕の一文字。

 ワタシの知っている桜田千世は容姿も発育も良くて、両性共に評判が良い婚約者持ちの憎たらしいほどかわいいらしい子。

 そんな、生きることが上手そうな子がわざわざ教室内の渦中に入り込んだというのか。


「ロクに喋ったことがないのに、おとなしかった子なのに。

 ――――涙を流しながら引っ叩いて、すぐに裾で拭いてアタシを学校から連れ出してその子の家に連れて行ってくれたの。それで、チヨの保護者たちが学校に来てって感じ」


「千世さんの家・・・・・・?それって桜田神社?」

「あれ、知らない?『4年前の大災害』で神社壊れちゃったの。その時にね」

「・・・・・・あ」

 ・・・・・・忘れていた。

 桜田神社は『4年前の大災害』で完全に倒壊し、彼女の両親は亡くなっているのだった。地域から愛されていた方々であり、かなり惜しまれていたと聞く。

 じゃあ、彼女の親族にでも引き取られたということか。

 どちらにせよ、あまり言及すべき話ではないだろう。


「それから何度か家族ぐるみでの交流もあったり・・・・・・まぁそんな感じ」

「そう、なんだ」

 ああ、

 あの目だ。

 あの顔だ。

 情景を見つめる熱籠る視線。様々な媒体でよく見るけれど、現実では初めて見るであろう――――恋の目。


 止まらなければ、いけない。

 これ以上進めば、自分の傷を抉るだけなのに。


 じゃあ――――ワタシと一緒にいるんだよ!

 この子と一緒にいればいいのに!


 ・・・・・・ダメ。

 おさえ。込めない。


「そういえ、ば。この子とは勉強しないの・・・・・・?」

「うーん・・・・・・する時もあるよ。

 だけど婚約者の人が教えているみたいだからさ。あの人かなり学力あるからね、もう・・・・・・出る幕なしって感じ」

「婚約者、か。保護者の人とはすでにご挨拶とか済ませたのかな?」

「いやー、婚約者保護者兼みたいな立ち位置だよ」

「保護者なのに婚約者!?どういうこと!?」

 気まぐれに挨拶したかどうか聞いてみたけど親族が婚約者なの!?

 それはそれで複雑すぎるのではないか!?


「あぁ・・・・・・一応言っておくけど、二人には血の繋がりはないからね?」

「あ、そうなんだ。じゃ、じゃあ・・・・・・桜田さんは同居してるってこと?」

「ハァ・・・・・・そう。だからほんっとうに出る幕なし!――――聞いたことある?『桜田中の毒蛇』の武勇伝」

 唐突に振られた話題に、ついたじろいでしまう。

『桜田中の毒蛇』・・・・・・噂程度だが聞いたことがある。


「えっと、確か。

 ――――桜田中学校史上最大の不良で、多くの教師陣に喧嘩を売って、何人もの学生の将来を失わせたっていう。おまけに桜田町内で起きた事件の多くに関係しているとか」

「う、うん。やっぱり噂が進行してるね。まぁ誤解されやすい人だから仕方ないと思うし言い方はあれだけど、あってることでもあるし。

 ・・・・・・『毒蛇』の名と彼の苗字を聞いた瞬間、小学校が悪影響を与えられないようにすぐさま教師どもが動くぐらい悪名が高かったからね」


 咲さんはゆっくりと息を吐く。

 呆れの中にわずかに感じる、心地よさが息一つで伝わってくる。


「・・・・・・でもね、あの人はまず誰かのために動く人なの。自分のことなんか顧みることなく動いてしまう命知らずな人らしいの。

 チヨはそれを憂いていたけれどね・・・・・・そのおかげでアタシも助けられた。チヨがアタシのために動いたのも、その人の影響が大きいって聞いたから」


 本当に、勝ち目ないと。

 少し歯を食いしばる彼女。


 ――――その顔が気に入らない。さっきの目も気に入らない。


 桜田千世が、羨ましい。

 家族以外の者から愛されているくせに、ワタシの好きなものの視線も独り占めにして。


 ――――わからせてやろう。

 そんな子より、貴方を想う人がいるということを。


 ――――襲い掛かってやろう。

 貴方を愛している人がここにいると刻み込んでやろう。


 沸々と湧き上がるどんよりとした沼の世界は、ワタシを底なしのどす黒い存在へと変貌させようとしている。


 その自覚が、今まで行ってきた俯瞰が自分の卑劣さに気づかせてくれたおかげで。

 ・・・・・・行動に、移さずに済んだ。


 だけど、沼は段々とワタシを呑み込んでいく。

 憎くて、汚らしくて、愚かで――――妬ましい


「・・・・・・あぁ」

 ワタシがずっと感じてきていたこの世界は、ワタシを呑み込もうとしている世界の名は

 ――――『嫉妬』だったんだ。


 みっともなさ過ぎる。

 こんなの、咲さんには不釣り合いだ。

 ワタシは、彼女といるべきではない。

 ワタシは咲さんを不幸にしていくだけだ。

 このまま居続ければ、確実に余計な事を口走って彼女の青春に余計なページを刻みつけてしまうかもしれない。


 スマホを見る。通知はない。

 だが、一番マシな現状の脱却方法。

「咲さん・・・・・・ごめん、お母さんが帰ってくるみたい。今日はここまでにして帰るね。おじゃましました」

「あっ、未来ちゃん・・・・・・ちょっとまっ――――」

 彼女が何か言っているがこれ以上の会話はできない。ワタシが保てなくなりそうだ。

 しかしせっかく入れてくれたお茶を残すのは悪い。一気に口に流し込んだせいで口の中を火傷してしまったが、どうでもいい。

 こんなの、痛くない。


 逸れ以上に――――もう、ワタシの中身はグジャグジャだ。

 大好きな人の心は遥か遠く、自身の根底は愚かで呑み込まれ――――


 コルセットの中の痛みも遠ざかるほど、中身はミンチみたいにごじゃごじゃで。

 視界もぼろぼろと。

 零れ落ちるものの正体を知りながら、その理由が判らないまま。

 ――――ただ走った。

 こんな都合の悪すぎる世界なんて、すぐに抜け出してヤル。





嫉妬というものは末恐ろしい物です。

自分という存在以外が存在する以上、『比較』がある以上、必ず発生する感情ですから。

こればかりは、死ぬまでこびりついてくる人間の負の感情でしょう。

いえ・・・・・・もしかしたら。

死んでも尚、人間で在る以上、切り離せないののかもしれません。 原罪恐ろしや。

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