第22話
「やっぱ理系科目ムズすぎ!未来ちゃんはようそんなできるね」
「計算のやり方とか覚えたら理系科目はそこまででもないかも。
だけど、国語は難しく感じる。筆者の強く主張したい部分とかの抜粋とか言い換えとか、物語とか随筆だったらより一層その色が強くなる」
「わっかる!マジで何を言いたいのかわからないことあるよね。
4択問題とか書いてあること同じような時あるじゃん。嫌がらせかって思う」
「うん・・・・・・ワタシも、わかる」
咲さんの自宅につき、再び話を交えながら勉強をする。
あまり話す機会がなかったが案外会話はスムーズにできるもので、勉強に対する文句なんか特に花が咲いたものだ。
「しっかしさ、最近全然ついていけなくなっちゃった。早すぎない、授業のテンポ」
「だね。ワタシもあんまりついていけてる自信がないかも」
学校ではスピード感に重きを置く授業ばかり。
予習しなければついていけないし、復習しなければすぐに忘れてしまうほど速度がある。
それ故に基礎が抜け落ちてしまったら、ほぼ取り返しのつかないことになる。
どうやら、塾に通っている子の噂だとそちらでもスピードばかり重視して生き残れている子だけが成績が上がっている状態のようで、それ以外に振り落とされた子にかまけている余裕はないようだ。
「みらい、ちゃん・・・・・・さい、きんさ」
「最近、が。どうかしたの?」
「・・・・・・えっとね、うん」
シャーペンを机の上のテキストに置き、咲さんはごもる。
なにか言いたげなような雰囲気があるが、珍しい。物事をはっきりと言う彼女らしくない行動パターンだ。
「な、なんでもない!
・・・・・・そういえばさぁ!未来ちゃんって受験するの?」
「うん、する予定。
咲さんはするの?しない子たちは就職活動に時間を割いてるみたいだけど」
「アタシは・・・・・・しないよ、受験」
「・・・・・・え?」
受験をしない。それなのに勉強をしているのだ。
就職活動をするならば、資格勉強などに時間を使うべきだ。
何故こんな受験生向けの勉強をしているのだろうか。
「不思議に思った?」
「うん、凄く」
「なんというかね・・・・・・受験しなくてもさ、勉強を誰かとするのって学生の時しかないじゃん?アタシも中学出たら働くからさ、こういう青春?みたいなの大事にしたいんよ」
「だったら、資格取得のための勉強でいいんじゃない?」
「あれは学校で教えてくれないでしょ?
自分で何がしたいのかを明確にして自主的にやっていかなきゃいけない。それが就職活動だけど、さ・・・・・・」
また、首の傷を見せた時のように顔に曇りが見え始める。彼女は案外、わかりやすい性分なのかもしれない。
だからこそ、知りたいと思う。彼女の事をもっと。
「――――アタシやりたいことがまだわからないの。誰かのためになりたいなぁとか色々考えたけど、ボランティアじゃお腹を満たすこともできないし。
・・・・・・今社会が求めているのは、如何にして価値を還元できるかだけど、それがわけわからなくて、沢山考えたけど気が滅入るばかりだからさ。
とりあえず、学生のうちにしておきたい事をしながら、自分にできることを考えたいんだ」
――――そうか。
改めて考えてみると受験をしない子たちは1年後には社会人だ。
こうやって誰かと勉強したり、話したりするのも社会にでるとあまりできなくなる。
ビジネスの話が絡んできたり、損得で動かなければいけないことも多くなることだろう。
彼女の言い分は最もだ。
ワタシも受験があるとはいえ、高校はもはや一人で学習するような場所だ。
自分で受講する科目を決めて、登校して。
クラスがない以上、友人を作るのも難しくなる。
まぁ、ただでさえ友人がいないので高校に進学できたとしてもどうしようもないのだが。
「未来ちゃんはどうして高校受験するの?」
「・・・・・・安定した就職先のため」
「お、良いじゃん!公務員とか向いてるんじゃない、堅実そうだし」
「そ、そう?ならいっそ頑張らないといけない」
「まぁそう肩肘張らずさ、リラックスしながら一緒にがんばろーぜ」
お茶入れてくる、と言って彼女は机から立ち、部屋を出て行った。
「・・・・・・ほんと、なんでだろう」
つい、口元が緩む。
母さんと話している時とも違う、この自然体でいられる感覚。
胸の中が熱くて、変に口走りそうになりながらも耐えるこのやるせなさに似たムズ痒さ。
そして感じた、身近さ。
――――咲さんも、苦悩しているのだ。
就職活動にあたって色々考えて、自分の価値とかやりたいこととか自分自身と向かい合って、何ができるかを考えている。
「・・・・・・すごいな、咲さん」
沢山考えて悪戦苦闘している咲さんも、凄く綺麗だ。
どうして自分自身にそんなに向き合うことができるのだろうか。
ワタシなんか、自分に何ができるかなんて考えたこともないのに。
ただ目の前の事をやって、夢に向かうので必死だったのに。
・・・・・・羨ましい。
そんな彼女の事を理解して、寄り添いたい。
そうしたら、咲さんと一緒にいることができれば、きっとワタシももっとマシな人に・・・・・・
「・・・・・・は?」
そう思って、気分が少し悪くなる。
自分がちゃんとした人間であると証明するために彼女の話を聞いて寄り添おうとしているのか、ワタシは?
烏滸がましい。なんて、最低なんだ。
ぶぶっ、と。
――――自虐の思考の世界は、バイブルの音が現実に引き戻された。
テーブルの一点、その音の発生源に目をやると、咲さんのスマホがあった。
スマホの上側がこちらに向いていたせいで文章をみることはできなかったが、
・・・・・・ワタシは。
その待ち受けの写真を見て、
何故か、理由もないはずなのに・・・・・・心の中が澱んでしまった――――
心というものはいつどこで痛くなったり、辛くなったりするがわかりにくいんですよね。
把握できれば対策できるのですが、それを誰かに言ったり相談したりすることができる相手がいることと、自分のことを吐き出す勇気の両方がなければ、心を救うことは難しいと私は考えております。




