第21話
【後書き、足元→足】 学校も相変わらずうるさいものだ。
咲さんのおかげでワタシに関する問題はほぼゼロになったが、それ以上に同情の目が多い。
――――だから歩けなくならねぇって!
教師陣もロクに調べず事を大きくしていく始末、なんで事実を知ろうとしないのだろうか。
事実というものは、当人の認識したもので構成されているようだ。
全く、今後使いにくい言葉になってしまったものだ。
席替えも行われ、ワタシは教卓を正面として右側の前から4番目。
咲さんは相変わらず窓の近く、左側の前から2番目。
絶妙に遠い位置のおかげで彼女と必要と以上に話さずに済んでいることが幸いである。
話してしまえば、きっとちゃんとした会話ができない。
不愉快な言葉を連発して、咲さんを失望させたり疲れさせてしまうだろうから。
それぐらいなら、楽しかった思い出と共に消えてほしい。
彼女に対する想いも・・・・・・もういいや。
どうせ近いうちに消える身、これ以上関わると躊躇してしまう。
生きることに無駄な希望を抱いてしまう。
希望や期待なんて、ワタシの心を必要以上に傷つけるものだ。
どうか、無になって消えておくれ。
帰りの会という名のホームルームが終わり、耳にタコができるほど聞いた3年生0学期の心構えを耳から耳に流し、鐘が鳴ると共にさっさと教室を出る。
咲さんがこちらを見ているような気がする。平日毎回感じるこの視線を、ワタシは裏切り素早く下駄箱へ歩き行く。
とはいえ、コルセットを身に着けている以上やはり昔よりも速度は出ないもので、
「――――未来ちゃん!」
とうとう、捉えられてしまった。
声と共に耳に入り込む廊下を走る足音に、階段を下る身体が停止する。
後ろを振り向けば傷を包み隠す黄金の波をなびかせ、少々息を切らした少女。
階段を下ってくるその足が、ワタシにはゆっくりに見える。
きっと、走れば逃げ切れる。怪我をしているとはいえ今までの鍛え方は伊達ではない。
咲さんの走り程度ならば、この身体でも余裕で振り切れるはず。
なのに・・・・・・なのに。
待ってしまっている。彼女がワタシの近くにくることを。
こうなることは判っていたんだ。
だからさっさと教室から出て行っていたのに。
どうして来てしまうんだ。
一歩、また一歩と近づいてくる琥珀色の瞳。
引き寄せられる。貴方のことで頭がいっぱいになる。
――――やめてくれよ。
貴方は、ワタシなんかと住んでいる世界が違うんだ。
貴方は苦悩と苦痛の果てに這い上がることができた人だ。器用に立ち回って楽しく生きることができる努力の人。
ワタシは、貴方みたいになれない。ワタシには無理。
もう、生きる意義を失って妥協で生きているだけなのだから。
同じ段に、彼女が舞い降りるかのように立った。ワタシの左肩にぽんと手を置いて、目を合わせて笑顔で、
「――――今日、空いてる?家で勉強しようぜ?」
・・・・・・そんな顔で、いつも通りの明るい笑顔で、眩しすぎるそれは。
ワタシの好きな、力強く引っ張ってくれるそんな貴方なんかには・・・・・・
「・・・・・・うん」
首を縦に振ることしかできない。
・・・・・・できるわけないじゃん。
――――ずるいよ。
誰かが声をかけてくれる。誰かが勇気をもって歩み寄ってくれる。それだけで心が救われることなんてよくあることだと思います。
問題なのは、歩み寄られた側が本当に救われたいのかどうか。救われたいと思ってないのに救おうとすると何故か様々な事に巻き込まれて足元を掬われたような現実が襲い掛かってくることがあります。
折角時間や勇気をもって助けるのであれば、助けたい相手は見極めましょう。




