第19話
19時過ぎ――――
休日も働きに行っている母が帰宅してきた。
疲れながらもいつも心配させまいと振る舞うその姿に、今日は苛立ちを覚えた。
手を洗い終わった母の元へ、例の紙を手に持ち・・・・・・
「母さん・・・・・・聞きたいことがあるの」
「なぁ、に・・・・・・それは」
すぐにそれが何なのか分かったのだろう。母はワタシの目を見つめ、深く息を吐いた。
「夜ご飯、食べ終わったら少し話そうか」
夜ご飯は鍋だった。
気温が低くなり、温かいものが恋しくなってくるこの時期には最適なものであり、家族団らん、箸をつつき合いながら談笑できる優れた食事だ。
だが、今日は・・・・・・
温かい物を食べているはずなのに、食卓はどこか冷えていた。
食べ終わり、ひと段落。
母が温かい緑茶の入ったコップを両手に持ち、そのうちの片方を座るワタシの前に置いてくれた。
音もたてずに互いに一杯口に注ぎ、一点を見る。
見つめるのはテーブルに置かれた紙。例の数字が沢山書かれたものだ。
「――――お父さんはね、結婚後に企業して大失敗したの。
未来が生まれてからは、さらに荒れちゃって。お母さんに何も言わずにありとあらゆる場所から借金を重ねて、そのまま亡くなってしまったの」
「死亡保険とかは、どうなっているの?」
「入ってきても借金返済の一部として消えていった。
よくわからない場所から借りてたりした上に・・・・・・こんな早く死ぬと思っていなかったのでしょうね、遺書も残さず死んじゃって。
それから今ままで、そして今もいろんな場所からの連絡に追われているの」
「父さんの親族に手伝ってもらうとかは・・・・・・?」
「お父さんはね、親族と絶縁してるの。おばあちゃんとかおじいちゃんとか会ったことないでしょ?
お墓の場所も解らないし、共同墓地に埋葬するにせよ時間がなさ過ぎて、まだ遺骨がそこにあるのも・・・・・・」
母が視線を紙からずらし、ある場所を見つめる。
その線の先にあるのは――――父の祭壇。段ボール製の3段ほどあるコンパクトで簡易なもの。
父の遺影の後ろにある、四角い立方体。その中に、あまり記憶にない父の骨があるのだ。
目を瞑りながらため息を一つ零し、開き、母はワタシを見る。
「お母さん、お金について詳しくないから一から全部調べたりして税金とかも色々と対策したり、お父さんの会社を締めるかどうかも検討したりってね」
「税金・・・・・・?会社の人はやってくれないものなの?」
「お父さんは個人事業主だったし、税理士の方とは仲が良くなかったみたいでね。
全部何も言わずに残しちゃって」
でもね、と母は銀行通帳を開き、ワタシに見せてくる。
「――――まだ、これだけある。高校には、行かせてあげられる」
その数字は、この国で生活するにはギリギリのものであった。
年々税金が増加し、新たな種類の税金さえも出てきている始末。
このまま本当に行けるのだろうか。
「安心して!お母さん、まだまだ頑張れるからさ!
みーちゃんも、怪我と向き合いながらお勉強頑張って!」
「・・・・・・うん、ありがとう。頑張るよ」
――――それは、嬉しい。
ワタシの頑張り次第では、この生活もなんとかなるかもしれない。
高校に進学して、良い職種に就き金銭を得れば、お母さんおその苦労から脱却できるかもしれない。
だけど、さ。
本人には死んでも言えないけれどさ。
何故、父さんの負担をすべて母さんが背負っているんだ?
おかしいだろ。
それが愛の行き着く先なのか?
結婚というものは、支え合うことではないのか?
欠陥だらけだ。この社会は。
何もかも、補わなきゃいけないことに力を入れずに、余計な事ばかりに尽力して。
このままじゃ、いずれ崩壊してしまう。
社会も、お母さんも、ワタシも。
――――そこまでして、生きる意味ってある?
お金の問題は色々と大変ですよね。気を付けないと。




