第11話
文章量が長くなってまいりました。読みづらいかもしれませんが、是非読んでいってください!
朝の教室の騒がしさは鬱鬱とした日々の始まりの合図。
登校時間はまだ考え事とかで頭をいっぱいにできるけれど、夜の都会のように喧しい直径十数メートルの隔離空間は、ワタシを自分の世界に閉じ込めることさえ許さない。
「でさでさ~、アソコのクレープ本当においしいんよ。がっこ終わった食べいこうぜ」
「いいじゃんいいじゃん。ありあり~」
「てか5限目の体育マジうざいんだけど。飯食った後に運動とかエグすぎ」
きゃはは、と一際うるさく笑う女子集団が真正面で楽し気な雰囲気に包まれている。
教卓を前方として見ると、ワタシの席があるのは左の一番後ろ。
教師から見て意外にも目立つと言われる窓側の席で、できる限り自分の世界に籠ろうと両腕を畳んで額をつけて寝たふりのような姿勢を取る。
8時15分から始まる朝読書までこの姿勢を平日は維持する。
なんと味気ない。
「・・・・・・はぁ」
あまりにも騒がしくて、少し額を上げる。
声の方は先ほどの少女3人。そのうちのクレープについて言及していた、一際目立つ金髪ロングの小柄な少女に目をやる。
――――園田咲。
人形のような端正な顔立ち、幼そうな顔の中にあるどこかシンとした大人っぽさ。ギャルのように見えて案外勉強ができたり、友達と仲がよさそうだったりと。
外見も中身も全部持っているような女が、ワタシの目の前の席にいる。
・・・・・・目ざわりで仕方ない。早く席替えをしてほしいものだ。
「ちょ、や、やめてよ!」
その弱弱しい女子の声は、右となりから。
他の女子たちに読んでいたのであろう本を取り上げられてあたふたとしていた。
「なにこれやっば。中身の絵、卑猥すぎなんだけど」
「どれどれ~。うっわ、キモ。こんなん学校に持ち込んでいるってまじ?」
「あ、でも小説?ラノベってやつか。こんな絵しかないのに読んでるの?
明らかに男子向けのやつじゃん、アンタ本当に女?」
ほらほらと周りの男子たちに取り上げた本を見せる女子たち。
男たちはバカのひとつ覚えのようにやばいやばいと連呼するだけだし、取り上げられた本人は軽く涙目だ。
「や、やめてよ。返してよ」
「え、やだよ。だって面白いじゃん」
面白い、とはこれ如何に。
人様の本を取り上げて中身を晒して、それで本当に面白いものなのだろうか。
「おもしろい、の?」
「それに、就職のやつでいわれたじゃん?価値の提供とかさ。
よくわっかんないけど、つまりそれって人生を便利に面白くしていく系でしょ?
アタシらは面白さを求めてアンタはそれを提供してくれる材料を持ってる。あるものは使わなきゃ持ってないねーだろ?」
本をもつ少女の声にぎゃははと教室が笑いを上げる。
いみが判らんが面白い、楽しいとほとんどの生徒が笑っている。
・・・・・・言っていることはよくわからない。
だが確かに以前行われた就職のためのガイダンスみたいなもので、社会が求めるものは社会や人々に価値提供できる人だというのが特に言われていた。
どのように価値を作り上げるか、提供するかはきっと人それぞれだろう。
しかし、今目の前で行われているのは明らかな搾取だ。
人の楽しみを奪い、けなして自分たちの人生の娯楽にしている。
「・・・・・・あ」
自分も、いずれこうなってしまうのか。
容姿も特に優れているわけでなし、頭脳も明晰でなし。
こうやって、人の攻撃的な娯楽を受けることでしか人々に価値を与えられない人だと思われてしまうのか。
――――認めたくない。
自分がこんな人からバカにされながら生きていかなければならないこと。
不愉快な気持ちになりながら人の為に動いて生きなければいけないことが。
目の前で泣いてる、この子みたいな生き方をしたくない。
絶対に、なりたくない!
ばさり、と。
少女の本が無機質な音をたてて床へ落ちた。
本を持ち笑っていた少女の手を、ワタシの手が払っていたのだ。
「・・・・・・は?」
静かに、だが確かに怒りのこもった声が・・・・・・ワタシに届いた。
教室中からこんなにも視線を向けられるのは初めてのことだ。授業の発表で教卓の方に行く時だってこんなにも人から目を向けられることはない。
――――身体は自然に動いていた。
目の前で泣きそうになる少女に同情したのか、それともこんな惨めな生き方をしたくないと思ったのか。
まず思ったのは、『やってしまった』だった。
本を取り上げられた子は以前から苛めっぽい事をされていた子である。その子に助け船を出したということは、恐らく次はワタシ。
それに、だいだいこういうのは。
助けた子は、ターゲットが動いたことに安堵して自分もそのぬるま湯につかりたがることだろう。
教室の床に落ちたせいで、変にクセがついてしまったページを軽くもとに戻して、持ち主に差しのばす。
「はいこれ。『ハイスクール・アーカイブ』でしょ?ワタシも好きだよ、これ」
「・・・・・・どうも」
早口におどおどと返事をしながら小さく手を伸ばし、本を受け取った彼女はすぐに本をバッグに仕舞い込み、苦し紛れに数学のテキストを机に広げた。
・・・・・・もっとちゃんとした礼をいうものではないのか。
それともそれを求めてしまうワタシがおかしいのか。
やはりコイツは、これからワタシに起きる物事からワタシを庇ったりする器量はないだろう。
・・・・・・まあ、いいや。
どのみち近いうちに死のうと思っているんだ。
いやだったら学校に来なきゃいいし。
そのぐらい、お母さん許してくれるよね。
せっかく教室で角が立たないようにおとなしくしていたのに、台無しになってしまった。
勇気というのはどうやら、自分の立ち位置を陥れるためにあるようだ。
だって、ワタシが今まで振り絞ってきた勇気は、ロクな事になっていない。
彼女が読んでいたラノベの主人公のような、葛藤しながらも力を振るい、人を助けるようなものは現実にはないのだ。
黙ってみるか、多数に染まり生きるか。それが生きやすさなのだろう。
「・・・・・・サイアク」
座り、いつもの姿勢になってできる限り黙って時間を過ごす。
どうか、早く学校から去れますように。
「――――おもしろ」
前のほうから、あの少女の声が聞こえてくる。
ワタシがこの教室で一番気にいらない、光のような笑顔が特徴的で幸せそうな雰囲気を醸し出すあの少女の声。
「・・・・・・ウルセ」
小さく、聞こえないように恨み言を呟く。
幸せそうなものを幸せそうだと思うのが、もういやだ。
――――ワタシ以外、みんな不幸になってしまえばいいのに。
ようやく明日初詣に行けます!平穏無事を祈って参ります!




