正しき継承者③
スタンリーが黒幕の存在を示唆した事で、謁見の間は大混乱に陥っている。
「陛下!そのような妄言はもう沢山ですっ!今すぐに沙汰を言い渡してこの場をお収めくださいっ!!」
エスティナは怒りを露わにして国王に詰め寄る。
「…まあまあ。妄言かどうかは最後まで聞いてみねば分からん。それにこれが最後になるかもしれないならば、余計に話は聞いてやるべきだろう?
それとも早くこれを打ち切りたい事情でもあるのか?エスティナよ。」
「…いえっ、私はただ…。このような茶番に他の方々を付き合わせるのは如何かと思っただけです!!」
国王の冷たい視線に些か動揺しながらも、エスティナは振り上げた拳を下ろさない。
「ふむ。エスティナの意見も一理あるな。…ではこうしよう。誰かエスティナの他に、このスタンリーの話が妄言だから止めるべきと思う者はいるか?」
国王が階下に問いかけると、先ほどまで口々に好きなことを喋って騒いでいた貴族達は、押し黙り他の人の顔色を窺っている。
「スタンリー殿下には悪いが、あまりに荒唐無稽すぎてその話を聞く意味があるかは甚だ疑問ですな!」
戸惑う貴族達の間を割き、キャンローズ侯爵が声を上げる。
「次期王太子を再考するというお話しでしたから参加したまで。我々も暇ではないのですし関係のない話が延々と続くのは、看過できません!」
マッケロイ侯爵も声を上げる。
「ほう。それでは、他にスタンリーの話を聞く必要がないと考える者は?」
国王が問いかけると、おずおずと数十人の貴族達が一歩前へ出て同意の意を示す。
「相分かった。それでは、今意志を示したもの達は今すぐこの場から去れ。」
国王の一言で、謁見の間がどよめく。
「な、何と横暴な!」
エスティナがワナワナと震えながら怒号を上げる。
「余が横暴とな?これ以上話を聞きたくない者を外に出してやると言っているのだ。これは温情措置だぞ?お前もスタンリーの話を聞く気がないなら早く出ていけ、エスティナ。」
「………っ!」
エスティナ、キャンローズ侯爵、マッケロイ侯爵、その他の意思表示をした貴族達は皆狼狽して言葉を失っている。
「…陛下。恐れながら、よろしいですか。」
アガード・ヴェルナーがこの状況を見かねたように声を上げる。
「よかろう。」
「この場も混乱しているようですし、今日はここまでとして。スタンリー殿下の主張は王宮で一旦確認して、後日また貴族達を招集し、沙汰を発表するのはいかがでしょうか?」
「ふむ。だがしかし、スタンリーの言うことがもし正しければ、その時間で黒幕が証拠隠滅を図るやもしれん。今ここで主張を聞くのが良かろう。」
国王がニッと笑うと、アガードは目を伏せ胸に手を当てて敬礼する。
「……仰せのままに。」
「さあ、この場を出ていく者はおらんのか?お主らは話を聞きたくないのではなかったか?エスティナよ。」
スタンリーにこれ以上話をさせたくはないが、自分がいないところで好き勝手言われても困る。
エスティナ達には外に出ていくという選択ができなかった。
「全員この場に残り、スタンリーの話を聞くと言うのだな。分かった。エスティナは早く席に戻れ。」
国王に言い放たれ、エスティナは憤怒や羞恥に塗れた表情で席に戻る。
戻る際に王妃マーガレットを鬼の形相で睨みつけるが、マーガレットはエスティナには一瞥もくれず穏やかな表情を浮かべており、それが余計にエスティナの羞恥心を掻き立てた。
「さあ、スタンリーよ。どこまで話したのだったか?」
国王がその場を収めて改めてスタンリーに向き直ると、スタンリーはコクリと頷く。
◇
「ララベル嬢の事件と今回私が陥れられている件の黒幕と思われる人物が同一人物だという話です。」
「ああ、そうだったな。それはつまり、どういうことだ?」
スタンリーは一旦間を置き、謁見の間を見渡す。
「…そうですね。私の話が妄言と思われるのは恐らく結論が見えないからでしょう。なので、結論から先に申し上げるとしましょうか。」
「それは…黒幕について説明する用意があるということか?」
国王の問いかけにスタンリーは首肯する。
どよめいていた謁見の間が瞬時に鎮まる。
「ララベル嬢の事件、これの目的はジュリア・クラウンベルツ侯爵令嬢を陥れることでした。誰かが裏でララベル嬢を操って事件を起こしたとしたら、ジュリア嬢を陥れる理由は何でしょうか?」
「…宰相はどう思うか?」
スタンリーの問いかけに対して、国王は宰相のマーリセント公爵に意見を求める。
「…単純に考えれば、貴族を陥れる理由は家門の没落を狙ったものが多いかと。だが、それが目的でジュリア嬢を狙ったとすれば些か遠回りですな。それ以外の理由となれば……ジュリア嬢を王太子妃にさせるのを阻止したかった、とか?」
ジュリアが王太子妃に最も近いと考えられていたのは、貴族達の共通認識だった。
スタンリーとジュリアが親しい間柄というのは広く知られていたし、何より王宮に通う者ならスタンリーがジュリアに懸想していることは誰もが知っている。
「ええ。恐らく黒幕は私がジュリア嬢に執心していることを知っていて、ジュリア嬢の排除を狙ったものと思われます。」
貴族達の視線がジュリアに注がれる。
先ほどのスタンリーの発言は、貴族達の前で公開告白したようなものだった。
ジュリアは居心地の悪さを感じたが、姿勢を正したままスタンリーを見据えた。
「…そうか。それでは年頃の娘がいる家門の者が黒幕か?」
国王が謁見の間を見渡すと、年頃の娘がいる家門の者は皆目を伏せる。
「その結論を出す前に、今私に降りかかっている事態を考えてみてください。ジュリア嬢を陥れようとした人物と、今私を陥れようとする人物が同一だということは、その目的も同じだということです。」
スタンリーが問うと、国王は首を捻る。
「うむ…余にはどういうことか分からぬな。」
「それでは、もっとはっきり申しましょう。先ほど、私の罪とそれに対する処罰の話をされた折、キャンローズ侯爵はこのように言いました。」
ーーー『王族から降下いただくだけでも民には十分説明可能でしょう。』
「議論を私を王族から出す方に向くよう仕向けました。それからその後、側妃様はこう仰いました。」
ーーー『スタンリーの行く先ですけど…。ヴェルナー侯爵のところに婿入りさせてはどうかしら?』
「私の婿入り先を進言したのです。」
「それはっ!貴方のためを思って…「エスティナ。」
興奮して大声を上げるエスティナを、国王が遮る。
「今はスタンリーの話を聞いておる。其方は黙れ。……して、スタンリー。ジュリア嬢の事件では王太子妃を狙い、今の状況では其方の婿入りを狙っている…そういう事が言いたいのか?」
「その通りです。黒幕の目的は…『私自身』なのです。」
スタンリーの言葉に、国王は目を見開く。
エスティナは怒りでワナワナと震え、キャンローズ侯爵もかなり顔色を悪くしている。
謁見の間の貴族達はいまだ先の見えない話に戸惑い、キョロキョロソワソワしている。
「…それで。其方は黒幕にも見当がついているのであろう?スタンリー。」
国王は小さく溜息をつき、スタンリーに核心の発言を求める。
謁見の間は水を打ったように静まり返った。
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