初デート①
「再来週の日曜日に例の予約が取れたんだ。昼に王都でランチしてからその場所に向かおう。帰りはちょっと遅くなるからそのつもりで。馬車で迎えに行くから。」
学院でアリアスにそう声をかけられたのは先々週のこと。
今日は約束の日だ。
朝から着ていく服を選んでいたのだが、『予約の場所』の見当がつかない。
考えに考えたあげく、ジュリアは「比較的動きやすく」かつ「フォーマルな場所でも浮かない」菫色のシンプルなワンピースを選んだ。
侍女達が手際よく支度を整え終え、姿見の前で仕上がりを確認していた時、部屋のドアがノックされる。
「失礼します。ジュリアお嬢様、ユノアルド大公令息がお見えです。」
執事がアリアスの来訪を告げる。
「分かったわ。すぐ向かいます。」
ジュリアはそう言って部屋を後にする。
大階段から玄関ホールを見やると、アリアスはケネスと何やら話をしているようだ。
アリアスは白いシャツとクラバットに濃紫色のベストとグレーのパンツというシンプルな出立ち。
ーーーこのワンピースでも十分釣り合うわね。
服装の釣り合いを確認してから、ジュリアはアリアスに声をかける。
「お待たせ、アリアス。」
「おはようジュリア。…シンプルなワンピースでも、君は輝くほど美しいな。」
アリアスは軽く麗句を述べて、スッと胸元へ左手を差し出す。
「では参りましょうか、お嬢様。」
ジュリアは差し出された掌の上に右手を重ねる。
「お兄様、行ってまいります。」
「妹君は安全に送り届けますので、ご心配なく。」
ジュリアとアリアスがそれぞれにケネスへ挨拶をすると、「ああ。楽しんでおいで。」とケネスが答える。
そのままジュリアはアリアスのエスコートで馬車に乗り込んだ。
王都の有名レストランに着いたとき、時刻はちょうどお昼時であった。
「ジュリアが好きなものが分からなかったから。とりあえず一番人気と聞いたレストランを予約してみたんだ。」
アリアスはその黄金眼を細めてジュリアを見つめる。
ジュリアにはその眼差しが、前回ユノアルド邸で向けられたものよりも随分和らいでいるように感じられる。
「ここ予約が取れにくいと評判なのに。一度来てみたかったの、ありがとうアリアス。
私は好き嫌いがないの。何でもよく食べるのよ。」
ジュリアがニッコリと笑顔で返答すると、アリアスも満足気に口角を上げる。
「それは良かった。…君はそんなにスレンダーなのによく食べるのか?本当に見かけによらないな、ジュリア。」
「隠れているところはそんなにスレンダーでもないわよ。」
ジュリアが何の気無しに謙遜のつもりでそう言うと、アリアスはいつもは切れ長の黄金眼をまん丸にしたあと、口元に手を当てジュリアから目を背ける。
その様子を見て、ジュリアは「しまった」と思う。
ーーーさっきの言葉、聞きようによっては卑猥に聞こえたかもしれないわ。
ジュリアは恥ずかしさで若干顔を赤らめたが、すぐに気を取りなおす。
こういう時は話題を切り替えるに限るのだ。
「そういえばずっと気になっていたのだけど。」
ジュリアが話しかけると、アリアスは背けていた視線をジュリアに戻す。
「アリアスの瞳は金色の宝石眼よね?王家の。」
「ああ、」
と言ってアリアスは自分の目の横を細長い指でなぞる。
「そうだよ。ユノアルド大公は3代遡れば王族だからな。だいぶ血が薄まって来たとはいえ、たまに俺みたいなのが生まれるんだ。」
ーーーなるほど。
とジュリアは思う。
「かといってこの瞳に特別な恩恵は何もないんだけど。ベアトリスに会うといつも酷く睨まれてるよ。」
「彼女にとっては自分の緑の瞳が一番のコンプレックスだから。…まあ、その瞳を持っていなくても私は彼女にいつも睨まれているけれど。」
「ふぅん。ベアトリスはジュリアの美しさに嫉妬しているんだな。」
「どうだろう?嫉妬というより…私が王太子殿下と親交があるのが気に食わないのかも。」
王太子、という言葉に反応してアリアスの眉毛がピクッと動く。
「…ベアトリスとスタンリーは仲が悪いんだったな。
ベアトリスにしてもリンドルフにしても、側妃の子供は何であんなに苛烈な性格なんだ?」
ジュリアは酷く驚いて目を丸くする。
「アリアスは随分と王族に対して遠慮がないのね。
誰かに聞かれたら、不敬罪で引っ張られるわよ。」
「ユノアルドは独立国だからな。そんなことされたら騎士団で応戦するよ。」
アリアスはニッと笑う。
話しているうちにいつの間にかデザートも終わり、「さて」とアリアスが席を立つ。
「次の目的地へ参りましょうか、お嬢様。」







