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再びユノアルドへ③

 「もう一箇所、行きたい場所があるんだ。」


 アリアスはジュリアの手を握りしめて、路地裏へ入る。

 しばらく進むと、アリアスは一瞬チラリと後ろを気にして足を止める。

 すると、背後からゾロゾロと複数人が近づいてくる気配がする。

 2人が振り返ると、後ろには5人の男が道を塞ぐように立っている。


 「尾行()けていたのか?」


 アリアスが男達に問いかけると、男達はニヤニヤしながら「さあ、どうだかなぁ?」と答える。

 男達の片手には小型のナイフが握られており、男達はジュリアをじっとりと見て舌舐めずりしながらナイフをクルクルと回している。


 「上玉の女だけ渡してもらおうかと思ったが、よく見りゃお前も綺麗な顔してんな?2人とも俺らが可愛がったあと売り飛ばしてやるよ。」


 へっへっへ、と1人の男が笑うと、他の男達も一斉にくつくつと笑う。


 「…ふん。馬鹿な奴らだ。」


 そう一言呟いた瞬間、アリアスはジュリアの隣からスッと姿を消し、あっという間に男達と間合いを詰める。


 ーーードンッ!ガッ!ドガッッ!


 アリアスは風のように5人の男達の間を縫い、駆け抜ける。

 アリアスが通り過ぎると、男達は声を上げる間も無く膝から崩れ落ちていく。

 アリアスが動きを止めた時には、既に5人とも地面に転がっていた。

 男達は血を流しておらず、全て体術か峰打ちで一撃で昏倒させられているらしかった。


 全てが終わるのを見計らったように道の向こうから護衛が2人現れる。


 「縛り上げて騎士団に渡して来い。」


 アリアスが指示を出すと護衛は頷いて男達を縛り出す。

 アリアスはジュリアに向き直り「大丈夫か」と声をかけ、ジュリアがコクリと頷くと、いきなりアリアスはジュリアを横抱きにして持ち上げる。


 「えっ!」


 ジュリアが驚いて声を上げると、アリアスはフッと笑う。


 「…時間がないからな。ちょっと急ぐぞ。」


 そう言ってアリアスはジュリアを抱えたまま路地裏を走り抜ける。

 物凄いスピードで走るので、ジュリアはアリアスの首に腕を回し、目を瞑って胸にギュッと顔を押し付ける。


 路地裏を抜けると、小高い丘に続いていた。

 丘のてっぺんまで登ると、アリアスはゆっくりジュリアを下ろした。


 「着いたぞ。」


 そう言われてジュリアが辺りを見回すと、丘の下には日暮れを迎えたケールアンの街並みが見えた。

 丘の上の木の下に腰を下ろそうとして、アリアスは「あっ」と声を上げる。


 「…下に敷くものがないな。」


 それを聞いてジュリアはハンカチを取り出そうとするが、ハンカチを渡す前にアリアスはドカッと木の下に座る。


 「ここに座れ。」


 アリアスはそう言って胡座をかいて座っている自分の膝をパンパンと叩く。


 「は……え?私、ハンカチを持っているわ。」


 ジュリアが戸惑ってそれを固辞すると、アリアスはニヤッと笑ってジュリアの手を引き、バランスを崩したジュリアはアリアスの上に倒れ込む。


 「いいから。…おいで。」


 アリアスに抱きしめられるような格好になり、抗議をしようとジュリアが顔を上げた瞬間。


 ーーーヒュゥゥゥ…………………バァン!


 目の前の空に花火が上がる。

 割と近い場所から上がっているようで、色とりどりの花火の大輪が目の前いっぱいに広がる。


 「わあ………。」


 抗議の言葉も忘れて、ジュリアは花火に見入っている。

 アリアスは膝の上にジュリアを抱き、その深青色の瞳に大輪の花火が映るのをじっと見つめている。

 美しい金髪を耳にかけるとジュリアの耳に青真珠のピアスが揺れているのが目に入り、アリアスはフッ、と微笑む。


 アリアスはしばらく指でピアスを揺らしていたが、ジュリアの華奢な身体をギュッと抱き締めると蟀谷にキスを落として、そのまま耳にカプッと軽く噛み付く。

 ジュリアの体がビクッと揺れ、ガバッと振り向きアリアスを睨み抗議の目を向ける。

 アリアスは「ふはっ」と吹き出して破顔し、ジュリアの顔を片手で包み、アリアスを睨みつける瞼にチュッとキスを落とす。


 「そんな可愛い顔するな。」


 そう言ってゆっくり顔を近づけると、息がかかる距離でゆらゆらと揺らめく深青色の瞳をじっと見つめる。


 「………嫌か?」


 アリアスに問われて、ジュリアは目を逸らし、しばらく逡巡する。

 そして再び、アリアスの黄金色の瞳に視線を戻す。


 「嫌じゃ……ないわ。」


 その瞬間、黄金色の瞳はその奥に熱を宿し、アリアスはジュリアのうるうると弾けそうな唇に噛み付くように口付ける。

 そのまま2度、3度、ジュッ、と唇を舐め取るようなキスを落とし、不意に顔を上げた時、花火の光に照らされたアリアスの耳は真っ赤に染まっていた。


 「ごめん……理性が飛んだ。」


 申し訳なさそうに目を伏せるアリアスを見てジュリアはクスッと笑い、同時に胸の奥がギュッとなるのを感じていた。

 目の前でしおしおと落ち込むアリアスを抱き締めてあげたい、とジュリアは思った。

 ジュリアはそっと両手を伸ばし、アリアスのキラキラ輝く銀髪をサラリと撫でる。

 アリアスは視線を上げると、フッ、と微笑んでジュリアを抱き寄せる。

 ジュリアはそのままアリアスの首に腕を回し、2人はしばらく体を寄せ合った。

 花火はいつの間にか終わり、2人を照らすのは月明かりだけになっていた。



 城に戻り、湯浴みや寝る支度を終え、ジュリアはベッドの上でぐるぐると考えを巡らせている。

 先ほど花火が見える丘で、「嫌じゃない」と答えた自分。

 それはあのような状況を望んでいると言ったようなものではないか?

 そんな言葉を自分が口にしたと考えると、顔から火が出るほど恥ずかしい。

 そして落ち込むアリアスに自分から手を伸ばしたことも。

 あのような気持ちになったのは初めてだった。


 しかし恥ずかしくて悶々としていると同時に、そうしたことを後悔していない自分もいる。

 ベッドの上で微睡を迎えるまで、胸の奥でモヤモヤと疼く熱はなかなか収まらなかった。



 次の朝、アリアスの姿を見ると鼓動が早打つ気がしたが、ジュリアは普段通りに話をする。

 アリアスも、普段と変わらない態度だ。

 大公夫妻は何も言わずにニコニコしているが、マリエッタはソワソワしながらジュリアとアリアスの様子を伺っている。


 朝食が終わると2人は魔術自走車に乗って帰路につく。

 今度はアリアスは最初からジュリアの隣に座っている。

 ジュリアは行きと変わらず車窓を見ているが、アリアスはジュリアの腰を抱き寄せて、ずっとジュリアの髪を弄ったり顔を覗き込んだりしている。


 「…距離が近すぎない?」


 呆れ顔でジュリアが聞くと、アリアスがははっ、と笑う。


 「昨日許可を貰ったからな。」


 そう言ってアリアスはジュリアの額にキスを落とす。


 ーーー嫌ではないとは言ったけど、許可した覚えはないわ…。


 それでも嬉しそうに笑うアリアスを見て、まあいいか、とジュリアは考えることを止めた。




毎日更新頑張ってます(*'ω'*)


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