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崩壊の序章③

地下牢に通されたスタンリーとアシュアは、鉄格子の向こうに身なりの汚い男が3人座っているのを見遣る。


「…こちらはこの国の王子様だ。お前達に話があると仰っている。」


牢の前でアガードが男達に声をかける。

声をかけられた男達は伏せていた顔を上げ、スタンリーとアシュアを交互に見る。


「へぇ。それで、何の用ですかい。」


男達のうち、灰色の髪の男が尋ね返す。


「君達が計画していた暴動の内容について教えてくれる?」


スタンリーが笑顔とも真顔とも取れる表情で訥々と尋ねる。


「ここ数ヶ月俺らが作った作物は全部召し上げられて、手元に何も残らねえ。それに耐えかねて仲間を集めて、領主様に直談判に来たんだよ。」


「なぜ武器を持ってきた?」


「武器…?「お前達が持ってきた、あれの事だろう!」


灰色髪の男が首を傾げると、アガードがすかさず声を荒げる。


「ああ。あれは、俺らの強い意志を示すために持ってきたのです。」


「…それではここの娘を攫おうとしたのは何故だ?」


「殿下。それは…。」


再び口を挟もうとしたアガードを、アシュアが目線で制する。


「ここの娘ですか。俺らが館に押し入ったら何やらワーワー泣き始めたから口を押さえただけです。」


「最初から攫うつもりではなかったと。」


「へぇ。ここに娘がいるのも知らねえですから。」


証言を聞くとスタンリーはニッと笑い、「もういいよ」とアガードに合図をする。

地下牢から上がると、時刻はもう夕刻を過ぎていた。


「これはこれは。熱心に説明するあまり、時間をかけ過ぎてしまいましたな。これから王都へ帰ると翌朝になってしまうでしょう。今日はこちらで一泊されてはいかがです?」


アガードにそう提案され、アシュアはスタンリーを見遣る。

スタンリーはニッコリと笑顔を浮かべる。


「……そうだね、そうしようかな。お世話になるけど構わない?」


アガードは笑みを浮かべて「もちろんです」と返す。

スタンリーとアシュアは、その後アガードとジャクリーヌと夕食を共にし、完璧に整えられた部屋で夜を明かした。




***************




「調査の結果、先の食糧危機をきっかけとする不安感で領主が政策を変更した結果、民衆から不満が出たということです。」


「それは、どういうことか?」


国王は眉を顰めて詳細説明を促す。


王太子スタンリーと第一王子リンドルフは今、複数領地で民衆の暴動が起きている件について、会議室に主要な役職者を集めて国王の御前で調査結果を報告している。


「アズーリ領に関しては領主が保存用のために穀物を例年より多く徴収し自領内の穀物の流通が減少。キャンローズ領とヴォルモート領は他領への作物の販売を禁止した結果、農家の生活が困窮。マッケロイ領は農産物の価格高騰により領民が困窮。これらが暴動に繋がったと考えられます。」


リンドルフの調査報告の仔細をオスカーがスラスラと説明する。


「…なるほど。して、そちらはどうか?」


国王がスタンリーに報告を促すと、スタンリーは首肯する。


「こちらの調査区分も似たようなものでした。暴動の規模や方法は違いますが、食糧危機に伴う生活の困窮が主な原因です。」


スタンリーが報告内容を簡潔に述べる。


「食糧危機は実際には起こらなかったのだが、不安感を煽ってしまったということか。」


報告を聞いた国王がフゥ、と短い息を吐く。


「して、当面どう対策していくのだ?」


「陛下。私に考えがあります。」


国王の問いかけに手を挙げたのは、第一王子リンドルフであった。


「当面、農作物に限り免税してはいかがでしょう。」


その言葉に、会議室がざわつく。


「減税ではなく免税とは。それでは必要な国庫も賄えなくなるが。」


「…その分は、ホリジウム皇国に負担させましょう。」


ーーー「そんなことが可能なのか?」


ーーー「いくら何でも金を払わせるのは無理だろう。」


会議室内が俄かに騒がしくなる。

国王はゴホンッ、と咳払いをし、喧騒を静める。


「どうやって払わせるのだ?」


国王の問いかけに、リンドルフは片方の口角を上げ、ニヤリと笑う。


「通商条約の条文に『互いの利益に干渉しない限り』という文言があります。先の食糧の買い占めはここに抵触するおそれがあります。そこを突きましょう。」


会議室内は再びざわめく。


「そんなに都合良くいくのか?」


国王はリンドルフに懐疑的な目を向ける。


「こちらはあちらが望んで止まない婚姻を受けたんだ。難癖つけて取り消されるよりは、金を支払う方を選ぶでしょう。それに…可愛い妹を嫁に渡すのだから、結納金ぐらいは貰わないと割に合いませんよねぇ。」


クックックッとリンドルフが笑うと、国王は俯き眉間を指で摘む。


「……上手くいくかはともかくとして、良い案であることは確かだ。」


黙って議論を聞いていたキャンローズ侯爵が口を挟む。


「うちは既に暴動の被害が出ているし、立て直すのにも予算が必要だ。国庫を減らす事なく免税できるならそれ以上に有難いことはない。」


「まあ、うちも。同じ立場ですな。」


マッケロイ侯爵も同意する。

会議室内のざわめきが段々と落ち着きを取り戻していく。


「それでは再び、其方が交渉へ向かうのか?」


国王がリンドルフに問いかけると、リンドルフは首肯する。


「ええ。皆様がお望みの成果を上げてご覧にいれますよ…。」


リンドルフはスタンリーを一瞥するが、スタンリーは前を見据えたまま微動だにしない。


「ほお!頼もしいですな…。何やら最近、リンドルフ殿下のご活躍が目覚ましいですが。ここは一つ、私からご提案があります。」


キャンローズ侯爵が国王に発言を求めると、国王は頷いて発言を許す。


「無事にリンドルフ殿下が皇国との交渉を成し遂げた暁には、()()()()()()()()するというのは…いかがでしょう。」


その発言をきっかけに、会議室は紛糾する。


「私は賛成ですな。そもそもこの問題の元を辿ればスタンリー殿下がホリジウム皇国と安易に通商条約を結ぼうとしたことにある。」


マッケロイ侯爵も頷く。


「しかし、スタンリー殿下のこれまでの実績は無視できません!」


アガード・ヴェルナーが声を荒げる。


「スタンリー殿下の優秀さは誰もが知るところです。」


国王補佐のセルドライト公爵が冷静に述べる。


「……ふむ。宰相はどう思うか?」


国王に話を振られたマーリセント公爵は、少し逡巡した後、ゆっくり発言する。


「…とりあえず、再考ということでよろしいのではないですか。すぐに廃太子ということになりますとスタンリー殿下の名誉に傷がつきます。これは十分に議論をすべきだと思います。」


国王は会議室をぐるりと見回した後、フゥ、と小さく息を吐く。


「…分かった。それならばリンドルフの成果を見て、王太子については再考することにしよう。結果が出るまでは今まで通りスタンリーを王太子とする。以上。」


そう言って国王は立ち上がり、会議室を後にする。

それに続いて、リンドルフとスタンリーも外に出る。


「はははっ。きちんとお前の尻拭いはしてやるよ。その結果その地位を失っても恨むなよ。」


外に出るなり、リンドルフはニヤニヤした表情でスタンリーに挑発的な言葉を投げかける。

スタンリーはリンドルフに目を向け、ニッコリと微笑む。


「そんなに王太子の地位が欲しいなら…いつでも差し上げますよ。まあ精々頑張ってください。」


リンドルフは一瞬憤慨したように眉毛を吊り上げるが、すぐに落ち着きを取り戻してニヤニヤとした表情を浮かべる。


「…お前でもそんな負け惜しみを言うんだなぁ。ははっ。いい気味だな。」


そう言ってリンドルフは踵を返して廊下を歩いていく。

その後ろ姿をしばらく眺めた後、スタンリーはリンドルフとは反対方向に歩き出した。




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