王太子スタンリー・フォン・フリーウォーデン①
その日の昼休み。
美しい金髪に宝石のような金の瞳を持つ恐ろしく顔の整った青年は、部屋の窓から中庭を見下ろしている。
なぜならばこの時間に、彼女が中庭を通ることを知っているからだ。
しばらく眺めていると、滑らかな金糸のような金髪を靡かせながら美しい立ち姿で颯爽と歩く令嬢が視界に入る。
「ジュリア。今日も美しいな。」
青年は独り言を言う。
その直後、背後から走って彼女に近づく銀髪の青年を視界に捉える。
銀髪の青年は彼女に追いつき、彼女は振り返る。
銀髪の青年が何か声をかけたようであるが、この部屋は4階にあり、その窓から中庭を見下ろしているため、中庭での会話は一切聞こえない。
「あの銀髪は…ユノアルド?体躯からして、アリアス・ユノアルドか?ジュリアと知り合いだったのか?…いつ知り合ったんだろう。」
青年はまた独り言を言う。
ーーー確かアリアスの弟のイグニスはジュリアと同じクラスだったか。
それならば以前からの顔見知りの可能性もあるな、と思う。
金髪の令嬢と銀髪の青年のやり取りをじっと見つめる。
令嬢が青年にハンカチを差し出す。
会話の内容は聞こえないが、全くの初対面といった雰囲気ではない。
短い会話の後、銀髪の少年は右手を軽くあげ走り去る。
その姿をしばし眺めた後ーーー金髪の令嬢もまた歩き出す。
窓から離れ、すぐそばにある自分の椅子に深く腰掛けると、金髪の青年はふーっ、と長い息を吐いた。
「僕がジュリアを好きになったのはいつだったか?」
そう言って上を見上げると、瞼を閉じて瞼の裏に遠い日の思い出を映す。
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王城で自分の兄弟以外の令息令嬢と初めて対面したのは、7歳の時に開かれたお茶会でのことだった。
高位貴族の中でも僕と歳の近い令息令嬢が、要は僕の側近候補と婚約者候補として集められたわけである。
僕は7歳にして、自分の置かれた立場をよく理解していた。
一つ上に腹違いの兄がおり、僕が正妃腹だったために王太子に選ばれたが、将来のことを考えると1人でも2人でも多く貴族達の支持を集めておく必要がある。
でもただ誰でも側に置けば良いというわけではない。
本当に有能で、僕の役に立ってくれる人を選ばなければ。
先に開かれていたお茶会に顔を出すと、令嬢達から「キャーッ」という声が上がった。
僕はお母様譲りの美しい金髪に王族の証とも言える金色の瞳を持ち、どうやら大変に見目が整っているようである。
キャアキャアと騒ぐ令嬢達に貼り付けた笑顔で対応した後、そろそろ茶会に飽きて各々遊び出していた令息達と合流しようと、周囲を見回した。
王立騎士団長の息子であるエドワード・トリスタンは木の棒を振り回し、既に泥だらけになっていた。
国王補佐の息子であるアシュア・セルドライトは木陰で本を読んでいた。
更に周囲を見回すと、何やら大きな板を持ってどこかに走っている令息を見かけた。
ーーーどこに行くんだろう?
その令息について行ってみると、そこには2人の令息と1人の令嬢が芝生の上に座っていた。
「初めまして。第二王子のスタンリー・フォン・フリーウォーデンです。」
僕は座っている3人に声をかけた。
すると3人はこちらに向き直り、さっと立ち上がり各々の自己紹介を始めた。
「はじめまして、ローレンしゅ、じゃッカしゅでしゅ…。」
紫髪に薄紫の瞳の少年が辿々しい口調で話した。
ーーーローレンス・ザッカス。ザッカス侯爵家は魔術師の家系か。
「はじめましてー!オーランド・クラウンベルツです!」
薄茶色の髪に深い青色の瞳の少年が元気に声を上げた。
ーーークラウンベルツ外相の息子か。仲良くしておかねばな。
そして3人の中では一番背の高い美しい金髪の少女が優雅なカテーシーで挨拶をした。
「初めまして。ジュリア・クラウンベルツと申します。オーランドの姉でございます。」
そう言い終わって少女が顔を上げると、僕はハッ、と息を飲んだ。
サラリと流れる艶めく金髪に光の当たり具合によって色を変える深い青色の瞳。
あまりに整った顔立ちは、人形だと言われても信じられるほどだ。
「第二王子様?いかがなさいましたか?」
しばし言葉を忘れて見惚れていた僕に、ジュリアが心配そうに声をかけた。
「あ、ああ。君たちはここで何をしていたの?お茶会にはいなかったみたいだけれど。」
僕は先ほどの令嬢達に見せたように、他所行きの笑顔を貼り付けた。
3人は少しの間顔を見合わせて、おもむろにジュリアが答えた。
「私たちはダルクで遊んでおりました。」
ダルクとは、2〜4種類の駒を使って盤上の自分の陣地を広げていく陣取りゲームのことである。
最大4人で対戦できることと、ルールの難解さから、ある意味ではチェスよりも奥深いゲームだと言われている。
実は僕はダルクが大好きだ。
しかしルールがあまりにも難解なため同年代でダルクを遊べる人がおらず、いつも王宮に来る大人を捕まえては無理やり相手をさせていたのだった。
それなのにこの目の前の、僕より幼いであろう3人がダルクで遊んでいただと!?
多くの令息令嬢と交流するという目的も忘れ、僕の興味は目の前の3人に移ったのであった。







