ライバル登場?!
次の日ジュリアが学院に登校すると、クラスは昨日の茶会の話で賑やかなようだった。
「おはようジュリア。昨日はよく眠れた?」
「昨日はありがとう、イグニス。美味しいお料理をたくさんいただいたから、お腹いっぱいでぐっすり眠れたわ。」
ジュリアが隣の席のイグニスと一言二言交わしながら授業の準備をしていると、先ほどまで離れた場所で賑やかに喋っていた集団がこちらに近づいてくるように感じて手を止める。
「あらぁ〜??昨日の王宮茶会に招待されなかったクラウンベルツ侯爵令嬢ではございませんこと?」
ジュリアが声の方へ目を向けると、そこには赤茶色の巻き髪を指でクルクル弄りながら、ジュリアを見下ろすように立っている公爵令嬢スザンナ・マーリセントと、その取り巻きの3人の令嬢がいる。
「…昨日は先約がございましたので。茶会はお断りさせていただきました。」
ジュリアはさも興味なさげに事実のみを端的に答える。
「おほほほ。王宮の茶会より優先度の高い行事はございませんでしょう?先約が〜なんて強がりはおよしなさいな。」
スザンナは勝ち誇った笑みを浮かべ、さらにジュリアを見下ろすように顎を上に向ける。
「何としても王太子妃になりたいスザンナ様にとってはお茶会は優先度が高いのでしょうけど。私は行く必要がありませんので。」
もちろん、ジュリアは「(王太子妃になるつもりがないので)行く必要がない」と言ったのであるが。
ーーー(王太子とは十分親密なので)行く必要はない…ですって??!!
斜め上の勘違いをしたスザンナはみるみるうちに焦茶色の双眸を吊り上がらせ、顔をパンパンに紅潮させる。
「あ、あ、あ、あなたね!!調子に乗るのもいい加減になさったら!!?」
スザンナは持っていた扇を閉じてバシンッバシンッと掌に打ち付けながら、苛々した様子を隠しもしない。
「あなたはスタンリー様と親しいつもりかもしれないけれど、あちらはそう思っておられないわよ!!!
あなたが王太子妃と噂されて久しいのにいまだに婚約なされないのが良い証拠でなくって??!!」
興奮した上ずる声で叫ぶようにスザンナがそう言うと、取り巻きの令嬢達は「ですわよ!」「その通り!」など口々に同調の声を上げる。
ジュリアがイグニスをチラリと見やると、イグニスは「ご愁傷様」と言わんばかりに眉尻を下げてこちらを見ている。
ふっ、と小さく息を吐くと、ジュリアは再びスザンナへ目線を移す。
「私は王太子妃なんて願っておりませんし、王太子殿下と特に親しくしているわけでもありません。
スザンナ様のお邪魔はいたしませんので、どうか私のことは放っておいてくださいませ。」
ジュリアが抑揚のない声でそう言い終えると、すかさず前方から「スザンナ・マーリセント公爵令嬢!」と声が上がる。
声の方を確認すると、次の単元の女性教師が黒板の前に立ちこちらの様子を見ている。
「授業が始まる時間にそのように大声で騒ぐのは、はしたないのではなくて?王太子妃になりたいのであれば…教養の成績ももう少し頑張っていただかないと。」
女性教師に肩をすくめられ、スザンナは恥ずかしさのあまり扇で口元を隠し、すごすごと自分の席へ戻る。
それに続いて取り巻き令嬢たちも微妙な表情で自分の席へつく。
「…朝から災難だったね。」
イグニスが肘でジュリアの腕をつついて、小声で話しかける。
「ええ、…本当に。」
◇
マーリセント家は現宰相を務める公爵家で、現宰相の妹は現国王の側妃である。
スザンナ・マーリセントはマーリセント公爵が他所の貴族令嬢との間に作った私生児であるが、マーリセント家にはスザンナの他に女子がいなかったため、養子として引き取られた。
要するに、未来の王妃として王室入りするために引き取られたのである。
しかしスザンナがそのような家門の事情に配慮して王太子妃を望んでいるかと言うと、そういうわけではない。
スザンナはマーリセント家に引き取られて最初に参加した王宮のお茶会で、スタンリーに一目惚れをした。
マーリセント家は宰相を務めるほど優秀な家門ではあるが、私生児だからなのかスザンナはあまり賢くない。
恐らく王妃の役割など微塵も考えることなく、ただ単にスタンリーのお嫁さんになりたいがために王太子妃を狙っているのだ。
◇
そんな(お馬鹿な)スザンナではあるが、スタンリーのことだけを見つめているゆえに、スタンリーがジュリアを見る目が他の令嬢と明らかに違うことに気が付いていた。
それこそが、スザンナがジュリアにしつこく絡む理由である。
自己研鑽を積んで自分の魅力を上げるのではなく、ジュリアを追い落とすことにエネルギーを注ぐことが全く無駄だと気がつかないのが、スザンナ・マーリセントという令嬢なのである。







