ユノアルド大公国へ
クラウンベルツ領で1週間ほど過ごした後、魔術自走車で一旦王都に戻ってそれぞれの邸で一泊し、その次の日にユノアルド大公国へ向けて再び出発した。
ジュリアは王都より北へ行ったことがなく、道すがら見たことのない景色の移り変わりを夢中で眺めている。
「窓の外が楽しいか?」
アリアスが尋ねる。
「ええ、とても楽しいわ。雪が積もっているのがこんなに美しいなんて知らなかった。」
ユノアルド大公国に近づくにつれ、どんどん雪景色になっていく。
「ユノアルドで暮らせば雪なんてウンザリするほど見られるよ!」
イグニスが揶揄うように言う。
「そうなんだ。…でも私、寒いのは苦手なのよね。」
ジュリアがそう言うと、イグニスはガックリ肩を落とし、アリアスは苦笑いした。
「そういえば、俺達の家族の話をしておこうと思うのだが。」
アリアスが話を切り出す。
「うちの両親は何というか…。」
「自由人なんだよ!」
アリアスが口籠もると、イグニスが捕捉する。
「バルディスの貴族達とだいぶ雰囲気が違うから、ジュリアは戸惑うかもしれない。それと、末の妹なんだが…。」
「妹のマリエッタは12歳だよ。」
「家族から可愛がられて育ったから、だいぶ甘やかされてるんだ。…何かジュリアに迷惑をかけるようなら、遠慮なく言ってくれ。」
ーーー男2人に女1人。うちと同じね。
「分かったわ。」
仲良くなれるといいけれど、とジュリアは思った。
***************
ユノアルドの大公城に着くと、ジュリア達の到着を騎士団が出迎えた。
ユノアルド大公国の騎士団は通称「銀狼騎士団」とも呼ばれる、バルディスの騎士団にも対抗しうる強力な騎士団である。
城内へ続く道の脇を、胸に手を当て敬礼した騎士団員が整列している。
城の正面玄関前で自走車を降りると、何と出迎えたのは大公夫妻と妹のマリエッタであった。
「やあクラウンベルツのお嬢さん。よく来たね。」
大公殿下が両手を広げてニッコリ笑っている。
輝く銀髪に向日葵のように黄色い瞳。笑顔だがどこか涼しげな目元はアリアスによく似ている。
「まぁ、驚いた。聞いていた通り本当に綺麗なお嬢さんね。2人が虜になるはずだわ。」
大公妃が朗らかに笑う。
薄茶色の髪に茜色の瞳が優しげだ。
「この度はお招きいただきありがとうございます。ジュリア・クラウンベルツと申します。」
ジュリアは優雅なカテーシーで挨拶をする。
「ははは、そんなに畏まらずとも良い。気楽に過ごしてくれ。」
「こっちが末の妹のマリエッタだ。」
アリアスが紹介すると、おずおずとマリアンヌが進み出る。
「…マリエッタ・ユノアルドでございます。」
小さくカテーシーする。
「ご親切にどうも。よろしくお願いいたしますね。」
ジュリアは胸に手を当てて答える。
「ここで立ち話していては体が冷えてしまう。中に入ろう。」
アリアスがそう言うと、一家は踵を返し城内へと入る。
後ろを向く瞬間にマリエッタのジュリアを見る目線がキッと鋭くなったように感じたが、ジュリアは勘違いかもしれない、と思った。
***************
城内に入ると、まず宿泊する部屋に案内された。
広々とした客間で、調度品は落ち着きがあるがすべて質のいいもので揃えられている。
ーーーコンコン。
「どうぞ。」
「失礼します。」
入ってきたのは数人の侍女だった。
そのうちの1人が、ジュリアに挨拶をする。
「滞在中にお世話させていただきます、マルサでございます。早速ですが、こちらにドレスを用意しておりますのでお気に召したものにお着替えください。」
ーーードレスが用意してあるですって?
滞在中に着用するつもりのドレスは自分でも数着持ってきている。
「ドレスとは…。どなたの?」
「アリアス様のご指示でジュリア様のご滞在のために用意されたものにございます。」
「………。」
ジュリアは無言でドレスルームを開ける。
そこには2〜30着ほどのドレスが並んでいる。
「数日しか滞在しないのに…。これはやり過ぎだわ。」
ジュリアは小さく溜息をつく。
「私も数着ドレスを持参してますので、そちらはクローゼットに掛けておいてくださる?
それから、こんなにたくさんドレスがあって私では選びきれないので、あなた達に見立てていただけると嬉しいわ。」
ジュリアがそう言うと、侍女達は嬉しそうに「かしこまりました!」と言って支度を始める。
侍女が選んだドレスは、青と白のダブルカラーのドレスで、スカートの裾に向かってシルバーのビジューがあしらわれているものだった。
シンプルではあるが、普段のジュリアのドレスと比べると幾分豪奢なドレスである。
「ジュリア様はコルセットがいらないくらい腰が細くございますね!」
「お肌が透き通るほど白くて美しいです!薄いメイクでもよく映えますね!」
ここに1ヶ月も住めば自己肯定感が増し増しになるのでは?というほど、侍女達が褒めてくれる。
「このように美しい金髪は見たことがないです!」
ジュリアの髪を結い上げ、仕上げに生花で飾る。
メイクもいつもよりしっかりめに仕上がり、さながら「雪の女王」といった風体である。
ーーー普段の自分と違いすぎて、何だか仮面をつけている気分…。
気恥ずかしさを感じたが、侍女達は仕上がりに満足そうなので黙っていることにした。
ーーーコンコン。
「どうぞ。」
扉が開いた先にはアリアスが立っている。
アリアスはジュリアを見ると目を見開き言葉を失う。
「…………。驚いた。よく似合ってる。」
「ドレスありがとう、アリアス。選び切れなかったから、マルサ達に見立ててもらったのよ。」
ジュリアが言うと、侍女達は照れたように微笑む。
「そうか、みんな良い仕事をしたな。ダイニングで家族が待っているから、行こうか。」
そう言って左肘を差し出すと、ジュリアが右手を添える。
そのままアリアスのエスコートで、ダイニングルームへ向かう。
「ドレス、たくさんあって驚いたろ?いつもと違う雰囲気のジュリアが見たくて用意したんだ。
君はこういうのはあまり喜ばないと思うけど、俺の我儘だ。許してくれ。」
ジュリアはつい先程までドレスについてアリアスに文句を言わなきゃと思っていたが、先手を打って謝られたので、それはもう言わないことにした。
***************
ジュリアがダイニングに顔を出すと、食卓から溜息が漏れる。
「ほお、本当に美しいな。バルディスにこんな花が咲いているとは…なぜ今まで気がつかなかったんだ!」
大公が感嘆の声を上げる。
「ジュリアは社交場が苦手であまり顔を出さないからね。」
イグニスが答える。
「あら、こんな美しいお嬢さんなら『社交界の華』になれるでしょうに。」
大公妃が頬に手を当てながら溜息を漏らす。
『社交界の華』とは流行を牽引し人々に多大な影響を与える、社交場の中心人物のことである。
「ジュリアは正直者だから社交場の腹芸が苦手なんだよねぇ!」
イグニスがカラカラと笑う。
「…お恥ずかしながら。」
ジュリアはあまりの恥ずかしさに目を伏せて答える。
イグニスあとで覚えてなさいよ、と思う。
「まあ、そういうところがアリアスは気に入ったのだろうな!」
ハッハッハ、と大公が豪快に笑う。
「………そうですね。」
アリアスは短く答える。
ーーーアリアスは私のことを両親にどのように話しているのだろう?
予想外な歓迎の雰囲気に、ジュリアは一抹の不安を覚えるのだった。
ユノアルド大公国編、ちょっと長いです。
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