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怪盗令嬢トリッカー  作者: 石田空
怪盗の日常は続く

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13/15

 イヴリルがトラヴィスと決闘の約束を取り付けて家に帰ったところ、当然ながらアラスターは怒り心頭であった。


「なんて馬鹿なことを……! そもそもこの魔道具はアリンガム家の財産だというのに、それをわざわざ他人に回収を任せるだなんて! いくら遠縁だからとはいえど、我が家のように管理保存せずに、裏取引で売買されるとどうして思わないのか……!」

「で、ですが父上! 娘ひとりに任せるというのも問題がありますから、自分も娘の幸せを思ってですね……!」

「私だってイヴリルの幸せを願っているが、それとこれとは別問題だ! 馬鹿者!」


 アロイスがアラスターにこっぴどく叱られているのに、張本人のイヴリルがおろおろしつつ口を挟む。


「お、おじい様、その辺になさって! 私が先方の怪盗に決闘で勝ったら、向こうが婚約を取り止めてくださるそうですし……」

「イヴリル、お前もだよ。もっと自分を大事になさい」


 アラスターは溜息交じりで言う。


「王宮魔術師として遠縁とは言えど、我が家のように冴えない貴族になることなく、郊外に拠点を構えてやりくりしているということは、向こうは相当狡猾なんだろうさ。ましてや向こうは魔道具の価値をよくわかっている……裏取引で儲けているなんて勘繰るのも仕方がないことなんだよ。相手が卑劣な罠を使ってくることも考慮なさい」

「そうなのかしら……」


 でもよくよく考えれば、エルマーの助けがなければ、イヴリルのファーストキスは間違いなく怪盗コンスタントに扮したトラヴィスに奪われていたし、彼の言動に混乱した怪盗トリッカーは、エルマーが割って入ってくるまで、まともな思考ができなくなってしまっていた。

 アラスターほど悪くは思えないものの、トラヴィスがずる賢いと考えた上で行動しないと、大変なことになる。

 そうこう言い争っている間に、王都の地図の上に撒かれた魔力を吹き込んだ砂鉄がさらさらと動きはじめた。

 蠢きながら現した場所を見て、イヴリルは思わず「あぁーっっ!」と悲鳴を上げた。


「なんで!? そもそもこんなところに、魔道具が成り代われるようなものなんて、ある訳ないのに……」


 砂鉄が指し示した場所は……王立学園。イヴリルが普段通っている学校であった。

 それを見ながらアラスターが顎に手を当てる。


「これは……」


 アラスターは王立学園の見取り図を引っ張り出してくると、砂鉄をその上に流し込む。するとその砂鉄はするすると図書館に移動していった。

 王立学園の図書館は、王都民であったら誰でも本を読むことのできる場所であり、国内でも有数の古書を有する。特に今では禁書とされている本や、既に廃版になってしまった本の原本なども保持管理され、とても大事だからと銃騎士団の見回りも入れられていた場所だったはずだ。


「……まずいな。これはおそらく、禁書に成り代わられた」

「ええっ……! ええっと、それって大変そう、とは思うけれど、どう大変なのかまでは」


 イヴリルのへんてこな反応に、思わずアラスターもアロイスもずっこけるが、アロイスがやんわりと教える。


「禁書というのは、国は読むのを禁止している本のことだよ」

「それだったら、別になくなっても大して問題は……」

「あるよ。国もそのときの国の運用方針で禁止なことを増やしたり、逆に禁止なことを解除したりするからね」

「ええっと……」


 まだピンと来ていないイヴリルに、アロイスはなおも優しく教える。


「イヴリルだって王立学園に通っていたら校則を知っているし、その中には普段生活している上では考えられないことが入っていたり、逆に昔厳し過ぎたものが解除されていたりするだろう? そういうのを知らしめるためにも、そのときどうして禁書になってしまったのかを知ることは重要なんだよ」

「ああ、なるほど……大昔には制服がなかったけど、今は普通にあるみたいなことを記している訳ね」

「ちょっと違うけど、そういうことだね」


 親子のぽやぽやとした会話を耳に、アラスターがまとめる。


「とにかく……禁書となったら、護衛銃騎士団も普通に動くし、今回は怪盗コンスタントもいるとのことだからね……いつもよりも入念に準備せねば、本当に危ない。なによりも、王立学園なんていうと青少年の欲望が渦巻いている……なにがどう左右するかわからないのだから、気を付けないといけないよ」

「わかりました、おじい様」


 イヴリルはぎゅっと胸元を掴んだ。いつだって怪盗稼業で盗みが失敗したことはないものの、今回はいつにも増して、負ける訳にはいかない戦いだ。


   ****


 日頃通っている日の下の王立学園とは違い、夜になったら物々しく感じるのは、影が落ちていかつく見えてしまうからだろうか。

 それでもまばらに護衛銃騎士団が並んでいる。


「よりによって、うちの学校だなんて……」

「まあ、資産価値としては大したことはなくとも、歴史的価値の高い禁書なんて腐るほどあるからね、我が校は」


 エルマーはイライラとしながらも、銃をかまえていた。その中でもクリフォードは冷静そのものだ。


「君、今日はイヴリルが登校しなかったからって、苛立ち過ぎじゃないかい?」

「はあ? あいつがいないからって、どうして俺がイライラしないといけないんだよ」


 エルマーが口をひん曲げると、クリフォードはにこやかに言う。


「なにかと君たち一緒にいるからね、誰だって気になるものだよ。身分的には彼女と君だったら、少々釣り合わないようにも見えるけどね」

「あんなんでも、一応あっちのほうが爵位は上だしな。ただ、あいつ同年代の女子と折り合いが悪いんだよ」

「愛らしいように見えるけど?」

「見た目はな。ただガサツだし、いらないことでもすぐ口に出すし、手芸も詩の暗唱も下手だし……」

「そこまでわかってても、一緒にいるんだね?」

「悪いかよ。あいつ寂しがりなんだよ、あんなんでも……あいつ、寂しがりのせいで、人からなんか押し付けられたら、かまってくれたと勘違いして全然断らないから。あいつん家で余計な事情に巻き込まれてないといいんだけど……なんだよ?」


 エルマーはクリフォードを見ると、クリフォードはかなり意外そうな顔で目を瞬かせていた。


「……いや、すまないね。まさかエルマー。君がそこまでイヴリルのことを好きだったなんて、思ってもいなかったから……」

「だからー、なんでそうなるんだよ?」

「他人から誤解とか勘違いとかされても、好きでもなかったらどっちでもいいんだよ。どうせ表面上しか理解しないんだから、わかり合おうと言葉を尽くしたところで無駄骨に終わってしまうから。でも理解しようと考え尽くすっていうのは、もう愛がないと無理だよ」

「……探偵様がそこで、感情論で占めて大丈夫なのか?」

「そりゃね、感情を含まず推論を立てられたら、それが一番効率がいいんだけど。お腹が空いて機嫌が悪いときに傍に瓶があったから振りかぶったなんて、お腹が空いたから機嫌が悪いって理解できなかったら推論もできなくないかい?」


 クリフォードの理屈に、思わずエルマーは首を振った。


「俺は探偵じゃないから、そういうのはわかんないよ。ただ……今日ここが怪盗で荒らされるとなったら、あいつが嫌がるんじゃないかなと思っただけだよ」

「イヴリルが寂しがっていることと、学校が荒らされることの因果関係ってなんだい?」

「そこまで説明しないと駄目か……家に居場所があるのかないのかわかんない奴が、家以外の居場所を求めるのって普通だろ」


 そうエルマーが吐き出したところで、班長が声をかけてきた。


「それでは、図書館の北側出入り口及び、南側出入り口の警備に当たる! 今回の予告状は二枚なのだから、それぞれ気を抜かないように!」

「はい!」


 騎士見習いたちの雑談は終了。それぞれの班がふたりひと組になって警備に走りはじめた。

 それらを屋根の上からこっそりと聞いていた怪盗トリッカーは、エルマーに見つからないように、彼が班長に視線を移している間に跳んだ。


(エルマーの馬鹿……本当にいっつもそうなんだから)


 彼は絶対にイヴリル本人の前で、そういうことは言わないのだ。そのおかげでイヴリルは寂しい思いをしなくて済んだし、可哀想な子扱いしてこないエルマーといるのは楽だった。

 怪盗トリッカーはその言葉を飲み込んで、図書館へと踏み込んだ。

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