87.生まれは貴族
「ままま待て!いい、いきなり訪ねたとて、会えるような身分ではないのだぞ!そう!親子といえども簡単には会えないものだ」
とルセーニョは首を横にブンブンと振る。焦ってる?
「面倒だね。あ、モルク殿下に連れてってもらえば直ぐ会える?」
「まぁ、待て。いきなり押しかけても先方に失礼だし、迷惑だろう」
ガンダロフからストップが掛かった!
「今日はひとまずルセーニョの処遇について話をしたい旨と後日訪問することを手紙で伝えるだけで良いと思うが」
「後日って、明日?」
メイ、4さい。みたいな受け答え。
「そうだな、手紙を届ける時に直近でいつが良いか、訊いてきてもらうか」
お宅訪問が本気だと理解したのかルセーニョは本気で焦り始めたようで
「は?いいや待て待て本当に待ってくれ!」
と鉄格子を掴んでガシャガシャと強く揺すった。
「さっきも言ったけど、貴方を丁寧に扱う義理は私には無い。譲歩するつもりも無い。『嫌だ』って駄々捏ねられても困るし放置、放逐して知らない人が迷惑被るのも申し訳なく思うから、じゃあ親御さんに引き取ってもらうしかないんじゃない?」
「親も迷惑だろうがな」
ガンダロフも同調する。
「大体ね、生まれは貴族だとしても、今は聖職者でしょ?成人前に神門を潜ったのであれば、貴族としての恩恵は受けていても義務はそんなに果たしていないのでしょ?なのに貴族意識を変えようとしないのは烏滸がまし」
「うるさい!私が貴族なのは生まれつきだ!今も変わらない!貴様ら平民と一緒にするな!」
ルセーニョは憤怒の表情でガシャン!とひと際大きく揺らして喚き散らす。んー?地雷踏んだ?でも、何に反応したかな?
「貴族として生を受けたのは、事実として。でも私にそれは関係無い。相手が物心ついたくらいのお子様ならともかく、貴方は自分が人間として生きているって自覚してから二十年以上経っているのでしょ?」
私が首を捻ると
「あ、当たり前だ!貴様等のような化け物と一緒にするな!」
ルセーニョは顔を真っ赤にして更に激昂する。『化け物』か。まぁ、私としては『女神様』とか『聖女様』とか言われるよりよっぽどしっくりくる。
「であれば、人間の貴方はこの社会の中でどのような役割を担っている?」
ルセーニョは自身について、どのように認識している?
「そ、それは……そう、聖騎士として…神殿の警護を担っているのだ!」
何だろう。無理矢理?こじつけ?ルセーニョのその態度はどうしても虚勢を張っているようにしか見えなくて。
「堂々巡りのような気もするが」
ガンダロフが少し呆れた風に冷めた目で口を挟む。
「まず、ルセーニョの『聖騎士』に対する認識が不十分だからこのようなことになっているのだろう?」
「このようなこと?」
「懲罰房で反省。だが、本人は全てにおいて認識が甘く、自覚も無い。今まで誰も指摘をしなかったか、しても本人が無視したか。だから精神的な成長に乏しくこの歳になっても幼いままなのだろう」
「ふーーーん…外見はガンダロフやレアンとそう変わらないのに、中身はお子様か」
とルセーニョを頭からつま先までちろーんと見下ろすと彼は
「誰がお子様だ!失礼だぞ!」
とまたエキサイトする。いちいち騒がしいな、話が進まない。隣でガンダロフが、それは君が煽るからだろう、と額に手をやって項垂れている。ん、私の所為か、そうか、ではなんとかしなきゃだな。
後ろにいるリコロさんとアバルードさんはおろおろしているけど、私達のやることに口を出す気は無いようだ。私はルセーニョを真正面に見据えると、静かに問う。
「ルセーニョに質問。貴方は貴方自身をどう思っているの?貴方はこの世界で、どう在りたいの?」
ルセーニョの少し澱んだ薄い緑の瞳を私は真っすぐに見つめる。と、彼の瞳の奥の澱みがぐらぐらと揺らいで、ヒュッ、と彼が息を吞む音が静かになった部屋に響いた。
「私は……私は…貴族として恥ずかしくないように、礼儀作法も勉強も頑張ったのだ。頑張ったらいつか父様や母様に会えると、そう思っていた」
♢♢♢♢♢
ルセーニョは両親に会った覚えは無い。乳母や家庭教師、衛兵やメイドに「父親の公爵様は素晴らしいお方だ」「良い子でいればそのうち会える」「公爵家の名に恥じない立派な人物になりなさい」と言われて育った。だがルセーニョが9歳になる年にたまにしか会ったことの無い執事に神殿に連れられてきた。「今日からここが貴方の住処です」との一方的な説明にすぐには理解が追い付かなかったが、そのうち『捨てられたのだ』と思った。長男に男児が生まれ、不出来なスペアは要らなくなったのだ、と頭では理解しても心が付いていかない。しかし新しい住処、神殿では皆優しく、きつくて汚い仕事はルセーニョが嫌な顔をすると他の者が代わりにやってくれたりと居心地は良かった。それはルセーニョが『公爵家子息』だったから。たとえ捨てられたとしても『公爵家』の名前が、父様が守ってくれている。だからそこまで悲観することは無かった。
言われたことはやる。ただそれだけの生活。陰口を叩かれていることは知っていたが、周囲がどう思っていたか等気にすることはあまり無かった。それは概ね事実だったから。ずっとその生活が続くと思っていたら、大神殿に転属になった。周囲は貴族階級の溢れ者の寄せ集めな様でそこでも『公爵家』の名前が影響したのか、同じ様な生活が続く。はずだった。
「生まれは貴族だとしても、今は聖職者、平民と同じ様なものだ。貴族の義務を果たしていないのに意識だけは立派なのだな」
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