84.ラクーシルが魔改造
不定期更新です。
私の発言の意図に皆、理解が追い付かないのか暫し沈黙が支配する。
「ぷろぐら?でんち?はわからないのだが、先程の陛下をはじめとする王族の方々とは状態が違うということか?」
最初に口を開いたのはガンダロフ。簡潔に状況整理してくれた。するとベッド脇にいたこちらは見たまんましわくちゃお爺さんが喚き出す。
「に、人形だと?!おもちゃだと?!一体何を言い出すのだ貴様!」
「っ!アバルード様!お、抑えてくださいませ!」
リコロさんが暴れ出しそうなお爺さんこと司祭アバルードを宥める。あぁそうか、彼等にしてみればこの横たわっている司祭様は大事な人だ。
「ごめんなさい、失言でした。あまりにも綺麗な方だったから」
そう言って頭を下げると、エキサイトしてた司祭アバルードはピタッと動きを止めた。『綺麗』というのが免罪符になり得たのかどうかはともかく、落ち着いてもらえて良かった。そのリコロさん達に
「倒れてから一度も意識が戻っていない?水はどのくらい飲ませてたの?」
と訊くと、意識は一度も戻らず、水も綿に含ませたもので口内を湿らせるのが精いっぱいだとのこと。それでこの麗しさを保っているとか
「奇跡だね」
私の発言でまた室内が沈黙に覆われる。
それにしても、見れば見るほど生きてる感じがしないんだけど。いや、息はしているのだけれどね。許可を得て胸に直接触れる。冷たくはないけど私の熱がそのまま返ってくる感じで静かな規則正しい息遣いが機械的というか、身体は生きてるけど
「魂が抜けてる感じ」
脳死状態の人を見たことは無いけれども、もしかしたらこういう状態なんじゃないかな?周囲の人達は「あぁっ!」「なんてこと…」「司祭様…」と俄かに騒がしくなるのを
「お静かに」
とガンダロフが注意する。
『剣ちゃん、司祭様のこの状態、どう思う?』
ガンダロフの腰で経緯を見守っていた剣ちゃんに訊いてみる。
『さっき、ますたーが電池が残っているのに中身が飛んじゃって動かない状態って言ったの、正解だと思う』
『それって元は人間だったのを、ラクーシルが魔改造した感じ?』
『…うん、そうだね、元が人間だったから今も消えることなく辛うじて残っているのかも』
『元人間。それは、今は人間じゃないっていうこと。じゃあ、彼は、何?』
『ラクーシルの眷属。の残り滓』
うん、そうなるよね、そうだよね、それじゃあこの司祭様も誰かの感情を活力にして動いていたってことだよね。…誰の感情を搾取していたのかな。
「ロト」
ガンダロフに声を掛けられると同時に私の目からホロリと雫が落ちたことにびっくりする。周囲の人達が息を呑んだのが、気配で感じ取れた。私と剣ちゃんは念話での会話だったから、考えに耽って司祭様を診ているように思われていたのかも。シーンと沈黙が支配する室内で皆私に注目してた中での落涙は、そりゃびっくりさせちゃうよね。
「ガンダロフ」
私の涙をハンカチで優しく拭っていたガンダロフは、手を下ろして私の言葉を待つ。
「どうしたらいいのか、わからない」
『あ、違う。どうしたいのかがわからない』
自分で、こういう状態に持っていきたい!って思えるのであれば、やりようは幾らでも考えられるのに。私の戸惑いが周囲の人達に伝播していくけど
「では、状態がこれ以上悪化しないように、ひとまず処置を施すことは可能か?」
とガンダロフがいつもの落ち着いた声で訊いてきた。そっか、現状維持か。
「うん、やってみる」
ガンダロフに背後からぎゅっと抱き締めてもらって、いや、力量的にはそうする必要は無いのだけど、涙が止まらないのと、気を抜くと私の周囲が冷えそうな気がするからと我が儘言った。そうして、死なないようにと祈りながら熱を送る。ルゥさんが潜んでいたペンダントに力を送ったときと似た感じだな。乾いた土に水が染み込むように力がすぅっと入っていく。余分に分け与えないように気を付けて……でも、目覚める兆しは全く感じられない。
「今は、これが精一杯です。三日程は小康状態のままでいられると思います」
「はい…ありがとうございました」
司祭アバルードをはじめ皆沈痛な面持ちをしていたが、私が涙をぽろぽろと溢しながら施術した所為か非難めいたことは何も無く、潤んだ瞳で感謝の言葉を述べた。
「まだどこか痛いか?」
お茶休憩がてらお話ししましょってことで応接室に向かう途次、ガンダロフが心配して顔を覗き込む。彼の静かな夜の海のような黒い瞳が不安げに揺れる。
「大丈夫、ただ涙が止まらないってだけだから」
余計な心配を掛けたくなくて、私はニコッと笑って答えるけど、彼の口角は下がったまま。んーー、彼の頬を緩ませるにはどうしたら良い?って考えてたら、彼に引き寄せられて目尻に溜まった涙をちゅっ、ちゅっと吸われた。なんか、ガンダロフばっかり狡い。いや何が?って自分でも思うけど。彼の顔が離れていくのを彼の後頭部に手を回して止めて、ちゅっと軽く啄むように口づけた。何気に注目されたようだけど、でも今一番元気が出る方法はこれだよね。
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