79.ドップラー効果を味わう
で、第一王子のお部屋の前に着きましたけど。
「ガンダロフと一緒じゃなきゃ、無理」
またもやガンダロフが入室不可!なので私は彼の逞しい腕にしがみついて訴える。そして第二王子のモルク殿下も入室拒否!
「お前達が私を敵対視して入室を拒むのは理解できる。不愉快だがな。しかしアスタロト殿とガンダロフ殿は今しがた父様、陛下を実際に目覚めさせてきたのだ。彼等だけでも入れさせて施術させてはもらえないのか?」
敵対視、ねぇ。リオス第一王子殿下の侍従?側近?が、ちろんと私とガンダロフを眺めて
「……そちらの長い黒髪の者だけであれば、事は足りるかと」
「無理」
「ガンダロフ殿と共にいなければ、アスタロト殿は力を発揮させることは出来ない。陛下を目覚めさせるところを私も見ていたが、確かにガンダロフ殿の精神的な手助けを受けているようだった」
モルク殿下が怒鳴りたいのを抑えたように説明する。うん、よくわかってるね。でも側近?は
「そう言われましても」
とガンダロフを頭の天辺から爪先までまるで値踏みするようにじとーんと眺めて厄介そうに眉をひそめる。自分達は絶対敵わない、とでも思ったかな?
「彼等が私達の何が不満だか不服だかわかりませんが」
私はガンダロフにしがみついたままモルク殿下に提案する。
「他に施術希望者がいなければ、もう行きますよ?陛下は起きましたし、私達、暇じゃありません」
「そうだな。この後は王都の神殿に寄って施術する予定だからな。あまり疲れなくて良いかも」
「お、お待ちください!まだ妹がおります!」
ガンダロフが私に同調して立ち去る発言をするのを遮り、モルク殿下は待ったを掛ける。
「では、妹さんも同じ対応をされたら、その場から神殿に直行します」
そう釘を刺して、第一王女のビアンカ殿下の寝所へと歩き出す。私とガンダロフは手を繋いでモルク殿下の後ろをついていく。モルク殿下の背中、哀愁漂ってるなぁ。何気に苦労人?こっそりと小さく吐いた溜息が重苦しい気持ちを隠しきれてない。息苦しい。空気が良くない。ふとガンダロフの方を向くと、目が合った瞬間に、ふ、と彼の頬が緩む。そして繋いだ手からは暖かさが伝わる。なんだろう、身体が暖かくなって、嬉しい。私は彼の手を指を絡ませて繋ぐ、いわゆる恋人繋ぎに変えて、ぎゅっと締めた。
♪お~てぇてぇ~ つ~ないで~ こ~みぃち~を~ゆ~けぇば~…
長閑なお散歩の定番曲をノリノリで歌っていたら、後方から誰かが走ってくる気配がする。ガンダロフもそれに気づいて振り向くと、ロジェ団長が全速力で走り迫ってくる。
「ぉ待ちくださいませぇーーー!」
そのまま走り去ってくれれば、もっとドップラー効果を味わうことが出来たのに。ロジェ団長は歩みを止めた私達の前で止まった。
「申し訳ございませんが、今一度リオス殿下の部屋に戻って、施術していただけないでしょうか?!」
何卒!よろしくお願い申し上げます!とロジェ団長は私達に頭を下げる。モルク殿下が
「しかし、俺はともかく、ガンダロフ殿が入室を拒まれてしまっては」
「いや、それは本当に失礼をしてしまった。本人達にもしっかりと謝罪させる。どうか今は怒りを抑えてはもらえないだろうか」
怒り?私とガンダロフは顔を合わせる。
「怒ってたら、あんな暢気に歌ってなんかいないと思うけど」
「怒り、ではないな、呆れてはいたが」
それぞれの言葉にホッとしたのか、ロジェ団長の頬の強張りが少し緩んだ。
リオス殿下の部屋の扉前に戻ると、さっきの側近?が嫌そうな悔しそうな、でも少し怯えた顔で私達を迎え入れてくれた。
「あの、先程は大変な失礼を」
「そんなの、後。まずはリオス殿下を診ます」
ロジェ団長に続いて部屋に入った私とガンダロフがそのまま立ち止まらずにリオス殿下が眠っているベッドに向かうと、ベッド傍にいた人達がズザザザザッと場所を開ける。ロジェ団長って、彼等にとっては恐怖の対象だったりする?
陛下の時と同じように、リオス殿下の額に手を当てて服、布団の上からお臍の辺りまでサァーっと撫でてを病状を探る。
「うん、この人も極度の疲労、神経の衰弱、それに加えて毒の影響で昏睡状態といったところ。なので、毒素排出しよう」
と、陛下の時と同じように毒素玉を吐き出させる。
「う、ぐ、ぐぼっ!げほっ!」
コロン、コロコロコロ……と毒素玉が転がっていくのを無視して
「お顔をお拭きしますね」
と熱すぎない蒸しタオルでリオス殿下のお顔を丁寧に拭いていく。気持ち良いのかな、表情が柔らかくなって拭き終わって蒸しタオルを離すと、ほぉぅっと息を吐いて瞼をゆっくりと開けた。髪の色は陛下と同じ金髪だけど瞳の色は翠色なんだぁって見てたら、パチッと目が合った。
「お目覚めになられて良かったです。お身体の調子は如何でしょうか?」
との問い掛けに、リオス殿下ははくはくと口を動かして私の顔に向けて手を伸ばす。ガンダロフが動く気配がしたけど、私は伸ばしてきた腕の手首を掴んで
「少し、脈が速いようですね。お水を飲んで落ち着きましょう。お身体は起こせそうですか?」
とリオス殿下の意識を私ではなく彼自身に向けさせる。リオス殿下がこくんと頷いたのを確認して背中に手を当ててゆっくりと身体を起こすと、周囲の人達が「おぉーー!」「殿下!」「お目覚めになられたぞ!」等々一斉に騒めき出すのを
「お静かに」
とガンダロフが低めの落ち着いた声で注意する。ロジェ団長も眼光で威圧しているようだ。周囲が口を閉じてリオス殿下を注視する中、殿下の背中を枕やらクッションやらで支えてから魔法で水入りのグラスを出す。
「ゆっくり飲んでくださいね」
手を添えながらゆっくりと自分のペースで飲ませていく。うん、陛下よりも体力の衰えは少ないようだ。若いって素晴らしい!
読了、ありがとうございます。
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