7.かぼちゃパンツをはいた桃色の
私は彼の目を見据えて言う。淡々と。
彼が何を恐れているのか何に怯えているのかは……私の中の何か、だよねぇ。今までの反応から推測されるのは、私が怪物になるとか?だから彼は私が意識を失うようなことを忌避しているのかもしれない。よし、此処を出て自由になったら、愉快痛快なことでもしてやるか!
「一緒に見に行こう。何故かわからないけど、魔法で何かやろうと思えば出来るし、私は出来るんだったら、やる」
私はガンダロフに手を差し出す。
「見張りは剣ちゃんに任せて大丈夫だし」
『任せて~』
彼は困惑気な表情。視線が揺れてる。
「それとも、お留守番してる?」
どっちでもいい、決めるまで待つよ。
「行く。一緒に見に行く」
あまり待たなかった。
彼は私の差し出した手をガシッと掴んで力強く言った。熱いなぁ、手も視線も。
「じゃあ、行きましょうか」
私はガシッと掴まれたガンダロフの手を自分の頭頂部に置いて
「私が感じているもの、景色とか風とか匂いとかを一緒に感じて」
彼の手の上に私の手を重ねる。彼にしっかりと伝わるように。
「……やってみる」
彼は緊張気味に頷く。まぁ、こんな突拍子も無いことをいきなりやろうとか言われて、平常心を保つのは難しいよね。
「では、出発!」
そのままの姿勢でくるりと回って、ドーーンっとそびえ立つ扉に向かい合う。掌を扉に当てて目を閉じる。意識を扉の向こう側へ、ゆっくりと探るように伸ばしていく。ちゃんと付いてきてね、ガンダロフ。
う~ん、これは火山性ガス?濃い六一○ハッ○の臭いが『よ~しっ、いってみよ~~』ってノリでどんどんと溜まってる。可視化は…今は止めておこう。床の端や壁、天井に湯の花っぽいのが見える。そこからガスが出てるのかな。
少しキツい上り坂を進んで行く。大きめの円周を回っているような緩いカーブで、幅5~6m高さ2.5~3mが高さはそのままで幅3m位に狭まってきた。道が平らになったら突き当たりに外開きの扉。この辺りの臭いはそこまでひどくないし、湯の花が大きく固まっているものも見当たらない。ここまでで服の小山は1つも無かったから、此処は元から毒ガス充満地点なのかも。
扉を抜ける。暗い。視覚だけではなく、聴覚や嗅覚等全感覚で情報を収集して先を見る。刺すような冷たい空気が動いている。寒い。先の方がほんのり明るい。少し下って行くと洞窟の出口だ!
外に出る。満天の星。冷たい空気が襲ってくる。かなり寒い。あぁでもやっと出られた!嬉しい!気分の高まりにあわせて空を飛ぶ。月は無い。雲も無い。下を見る。薄焦げ茶色で岩だらけの地面の所々が白っぽい?あ、雪が積もっているんだね。他に何がある?も少し高く飛んで『ロト!』
「呼んだ?」
振り返ろうとして背後から強く抱き締められているのに気付いた。身動き取れないのだけど、どしたの?
ガンダロフは小刻みに震えていて、剣ちゃんは変わらずぼんやり明るい。あ、まさかの高所恐怖症?うわぁ~、やっちまったなぁ。彼が落ち着くまで腕を優しく擦りながらじっと待つ。
もぞもぞと動き出したので声を掛ける。ちゃんと謝らなきゃ。
「ガンダロフ、ごめんなさい。無理させた」
「っ!いや、俺の方こそごめん。途中で呼び戻して…」
腕を解きながら謝ってくる。涙声で。あぁ~~、私ってば何泣かせてるのよ!いい年した大人の男性を精神的に追い詰めて泣かすとか!しかも2回も!
私は振り返ると、乾いたタオルを渡した。
「擦ると赤くなるから押さえて」
彼はタオルを顔全体に押し付けて、くぐもった声で
「何から何まで、済まない。俺は、足を引っ張るばかりで…情けない……」
うわぁ~、罪悪感、感じまくり。ふぅっと息を吐くと、ガンダロフをやんわりと抱き締めた。彼はビクッと震えて、沈黙する。
「ガンダロフは私が行き過ぎないように呼び戻してくれたんでしょ」
彼はそろそろとタオルを下ろして顔を覗かせる。びっくりした表情。ん?違ったかな?ま、いいや。私は何も気にしてないよって風でニコッと笑って
「ありがとう」
一呼吸置いて彼の元から赤らんでいた顔が更に真っ赤になった。
「落ち着いたら、これからどうするか一緒に考えよう」
彼の背に回していた手を下ろしてテーブルに向かう。お茶は相変わらず入れられないから、温かいお湯でも準備しよう。さっき出したコップ、耐熱仕様にして。
ん?甘い花の香りがする。強烈な硫黄臭の後だから鼻がおかしくなったのかと思ったけど、到着直後より空気が清々しい気がする。
「ロト」
お、復活した?
「もう、お話出来る?」
「あぁ、心配掛けた」
まだ顔赤いけどね。
「さて、外の満天の星を見てきましたが」
コップの温かさを両手の平で感じながら話をする。
「結論から先に言うと、私としては今夜はここで一泊して明日の朝、何とかして外に出るという案を推します」
「あぁ、その方が現実的だ。問題は扉の向こう側の毒ガスと、外に出た後の行動だな」
「毒ガスは、魔法で防御出来る」
うん、出来る。
「外に出た後は、上空から周囲の状況を把握してから具体的に決める」
「一人で飛ぶのか?」
「ううん、ガンダロフは怖かったら目を瞑ってしがみついてて。いきなり拘束されるより初めから抱き締められてた方が、ラク」
言い方、イジワル。ガンダロフは複雑な顔してる。でも彼が怖がるのも仕方がないよね。出会って2~3時間の怪しさしかない男に身の安全を委ねるのは、相当な精神的苦痛だもの。
はぁ~。気を取り直して、ここからが本題。
「んでね、あの、訊かなきゃいけないと思うから訊くんだけど。その、剣ちゃん出した後のこと、話してもらってもいいかな?」
魔神とかこんなに人がとか俺のかわいい人とか気になる言葉が多過ぎて、ゆっくりじっくり訊いても理解出来なかったりして。
「っていうか、私、何したの?」
ガンダロフの目が泳ぐ。顔は赤らんだまま。やがて、はあぁ~~~という長い溜息と共に目線が落ちて、項垂れた。自分で訊いておいてなんだけど、そういう反応されると胸が痛む。
「……言うのに勇気がいる位に酷いことやらかしたんだね、私」
「いや、君じゃない」
…は?
「君じゃないんだ。やらかしたのは俺だ。俺が、やった」
……何を?
「剣を出した後、君は姿はそのままで中身だけが変わった。ソレは、君のことを依り代だと、自分の中で一つになって魔神になる、と言っていた。
便宜上魔神と呼んではいるが、実情は世界の仕組みの中で吹き溜まりのような所に溜まった力を、自発的に拡散させるために自我を持たせたモノだとか」
…つまりは私が魔神になると?
頭の中ではかぼちゃパンツをはいた桃色の太っちょQPちゃんモドキが『食べッちゃおッ♪』と跳ね回ってる。それ、まじん違いだから。
「で、その力の制御を助けたり抑えたりするのが、聖者、で、それが俺だと」
「ガンダロフは格好良いから、それは納得」
「…ぇ……」
しまった!ガンダロフ、氷結!
「それで?魔神の私に嫌なことでもされた?」
「え?あ、いや、物騒だからと鞘と剣帯を作ってくれた」
なんか嬉しそう。嫉妬しちゃうわぁ、って自分自身だけどね。
「えぇ~っと、剣と一緒に君の手を握っていたんだ。離したら君が消えるんじゃないかと思ったら、とても離せなくて…。
そのうち周りの白い靄が晴れてきて周囲に人がたくさんいて、読経が聞こえてきて。君の中の魔神は『手を離せばあちらに行ける』と言ったが俺は君と一緒にいたいと言ったんだ。
そしたら魔神は『健闘を祈る』と言い残して…君は倒れ込んだ。人形みたいにピクリとも動かないし体温も感じられなくて。たぶんその時はもうあの魔法陣の中にいて、周りの人達もいろいろ騒いでたりはしていたけど俺は君しか見ていなくて」
苦しかったことを思い出したのか、ギュッと拳を握る。
「何度も呼び掛けてでも手応えが無くて、周りの人達が俺に呪いをかけようとしていたのかもの凄く苦しくて…。
その時に剣を見て、君が祈ってくれたことを思い出した。俺と俺が守りたいモノを守れるようにって。俺が守りたいのは君だから、ずっと一緒にいたい、ずっとそばで守るって強く思ったんだ。周りの人達の叫び声がうるさかったのが急に静かになってもまだ君は動かなくて……」
語るのが辛いのか、俯き気味の彼の顔が徐々に赤くなる。
読了、ありがとうございます。
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