64.もう二度と御免だ
「それで」
と私はロジェ団長をしっかり見据えて尋ねる。
「報酬は?」
大事だよね、タダより高いものは無いから。
「予め断っておくけど、領地とか爵位とか、私達を国や組織に縛り付けるものそれに類するものは要らない。囲い込む気配を感じたら逃げるし、害されたら報復する。私の中では当たり前のことだからはっきり忠告しておく」
何か言おうとしていたのか、ロジェ団長は開けてた口をそっと噤んだ。ガンダロフが続けて言う。
「内容そのものは施術後に協議して決めても良いだろう。折角用意されたものが俺達の望むものでなければ報酬とはならないからな」
そうだね。幾ら「これは凄く名誉なことなんだぞ」とか言って勲章とかもらっても、食べられないし。
「わかった。報酬については後程協議にて決定、としよう」
とロジェ団長は肯く。
「では我が国へ直ぐにでも向かって欲しいのだが、先程の話では馬よりも速い移動手段があるのか?」
そちらの方がより興味があるようで、身体を乗り出して訊いてくる。
「うん。今のところ手っ取り早く貴方方を蓑虫状態で固定して」
とそこまで言ったらガンダロフの大きな手で口を塞がれた。彼の目がそれは言わないでって頼んでる。怖がらせちゃ駄目ってこと?ロジェ団長達を見ると彼等は怪訝な眼差しを向けてた。
「移動については、俺達に限って言えば馬より速い。ここからジョウガ王国まで一時間程で行くことができる」
ガンダロフが失礼の無いように説明をする。
「厚かましいとは思うが、同乗はさせてもらえないのだろうか」
お、シャンテ隊長が粘りを見せる。けどガンダロフは頭を振って断るっぽい。
「俺としては彼等に無理強いはしたくないのでな、同乗は難しいだろう。どうしてもというのなら個人で交渉するのは構わないがっ?!」
ガンダロフの手の平はちょっぴり塩味。その手を優しく引き剝がして指先にチュッと口づけてから解放する。彼の黒い瞳が気持ち潤んでて、困った感じで眉が下がってる。頬もほんのりと赤みが差してて、今お話し中なのはわかっているのだけど、なんかもったいない。
で、私はロジェ団長達に淡々と言い放つ。
「彼等に交渉するのも騎乗させてもらうのも、自己責任でお願い。私達は干渉しないので、命に係わる事態になったとしても責任は負わない。まぁ、今の時点で私達がどうやってかの国へ赴くのかなんて貴方方にははっきりとはわかっていないのでしょうけど」
ちょっと八つ当たりっぽい?でも蓑虫は駄目なんだよね?すると、両手で顔を覆って撃沈していたガンダロフが俄かに復活した。
「俺達は魔法で空を飛んで行く。だから速く到着出来るのだが、同行は難しいだろう。貴方方が空を飛ぶことが出来るというのであれば別だが」
「空を…飛ぶ。それは何かに乗って、なのか?」
ロジェ団長はどんな想像してるんだろ?ガンダロフが説明する。
「俺達が『聖樹』の元に行った時は単体で飛行した」
手は繋いでたけど、それぞれ自分の力で飛んでたね。
「大神殿から『聖都』へ行った時には麒麟というアスタロトの眷属に乗せてもらった」
「眷属、とは?」
「部下とも言う」
そういうことを聞きたいんじゃないって言われそう。
「気になるんだったらそのうち見掛けた時にでも紹介するよ。そういえばオルジオさんとレアンも空飛んだよね、低い所だけど。その時の感想は?」
とオルジオさんとレアンに話を振ると、ロジェ団長達が二人に注目する。
「貴重な体験でしたね、私達の街を空から見るなど、まるで鳥になったかのような気分でした。眼下に広がる街並みの美しさに、この町を守っていきたいと改めて思いました」
オルジオさんがうっとりと語るのを横目に、レアンは顔を思いきり顰めて
「もう二度と御免だ」
とぼそっと呟いた。何この温度差。あぁ、そうだ。
「レアンにあの時の再現してもらえば、ロジェ団長達も想像し易いんじゃない?」
うん、いい考えだ、とソファを回り込むと
「冗談じゃないです!二度と御免ですって!」
と立ち上がって逃げる。私はそれを追いかけて
「大丈夫、今回はそんなに高く飛ばないから」
「いや、飛ぶのかよ」
「高さよりもどのような状態でというのが重要だからね」
「だからもう嫌ですって」
「痛くは無かったでしょ?怖くてキラキラさせちゃったのは私が綺麗にしたし」
「なんですかそのキラキラって!そういう問題じゃありません!」
「今回は逆さにはしないから」
「今回も何ももうやりませんて」
ソファセットの周りを二人でぐるぐる回って、そのうちバターにならないよね?よし、先にロープを巻き付けて動きを止めるか。なんて思ったら
「俺以外の者を嬉々として追いかけるのを見るのは少し妬けるのだが」
とガンダロフの太い腕で抱き留められてそのままソファに座らされた。…妬けるって。うわぁ、なんか嬉しいのと恥ずかしいのとで顔が火照ってくるのだけど。着席した後もガンダロフは私の腰に手を廻したまま、もう離さないって意思がひしひしと伝わってくる。…落ち着きのない子ども扱い?
移動についてはジョウガ王国側が再度確認を取ってから決めるということになった。そういえば。
「連絡手段ってどんなものがあるの?」
と聞くと通常は伝書鳩や人を、急ぎの時は鷹を使うのだとか。道具か何かあるのかと思ってたからちょっとがっかり。『聖都』もイルシャ教も同じだって。いや、ラクーシルは絶対何か道具を持ってたはず。ただ、本人と一緒に消滅した可能性が高いからたぶん見つからないよねぇ、残念!オルジオさんが言うには、『聖都』での異変やその後の状況を他の国等に伝えたくても鳩が全滅してしまってて出来なかったんだとか。暫くは人で行うしかないっていうし、ポッポ便の再構築も大変そうだなぁ。
ジョウガ王国の調査部隊は一部を『聖都』の治安維持に残して後は明日撤収することになった。で、
「残るのは貴方方の自由で良いとは思うのだが、今残っている者達、特にレアンとマーリオと問題を起こされるのは困る。彼等はこの苦難の中、大神殿の運営を立て直すのに尽力しているのだ。それを否定される謂れは無いからな。大体、貴方方は此処で何をするつもりなのだ?具体的に詳細に教えて欲しい」
聖騎士ルセーニョが他二人の聖騎士と共に『聖都』の神殿及び大神殿に常駐するという言葉を受けてのガンダロフの質問なのだけど。
「我々は『聖都』の神殿そして大神殿の混乱を収めるべく参ったのです。神官職、聖騎士がいなくなったというのであれば我々がその務めを負うのが筋であろう」
……だから具体的に詳細に教えてプリーズ。
「……つまり、朝早く起き身を清め清掃をし場を清め世の平和の為に祈りを捧げる、と」
「いやそれは司教の務めだろう?我々は聖騎士だ」
ついさっき言ったことと違うような。
「聖騎士は何をするのだ?」
とガンダロフが訊くと
「神殿の警備、だ。今のところはな」
「それだけか?」
「他に何をする?私は聖騎士だ、守ることが務めだ」
この人、自分のやりたいことしかやらないタイプだ。面倒なことややこしいことは他の人がやるのが当然で手伝う助けるなんて考えたことも無いんじゃない?それで苦情や文句はしょっちゅう言ってそう。注意とか指導とかって。
読了、ありがとうございます。
<(_ _)>
続きが気になる、面白い、と思われた方は是非スクロールバーを下げていった先にある広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★に、ブックマーク、いいね、感想等をお願いします。




