6.豆絞り手拭いの鉢巻きに
数多ある作品の中から選んでいただきありがとうございます。
<(_ _)>
本日は3話投稿します。
これは3/3話です。
彼は甲冑?の小山を見て、はぁっ、と息を吐く。いろいろ訊きたいけど、まずは脱出だ。
扉は観音開きで左右同時に動かして開けるようになっている。さっきは押して開けたからか簡単に開いたけど、今度は逆。
「では俺が右側、ロトは左側で。あまり無理はしないように」
「うん。じゃあ、せーので引くよ」
取っ手に手を掛けて、せーのっ!
ズズズズーー…。苦も無く開いた。まさかと思うけど、早く出てけ!とか思われてたりする?
また上り階段がある。扉を元通りに閉めて、上がっていく。踊り場で折り返して、二回目に上がり始めてから大体歩道橋位の高さで今度は外側に観音開きの扉。もう甲冑?の小山は見たくないな。耳を澄ませても何の手応えも感じられないので、せーのっ!で開ける。
風に頬を撫でられたような気がした。
「此処は今までの所と様子が違う」
「外が近い感じ?」
壁も床も天井も扉も石造りでも整えられた雰囲気でだったのが、ゴツゴツした荒さが目立つ。そしてお婆ちゃん家のお風呂で嗅いだ臭いが微かに漂う。そういえば今までは仄かに甘く気温も暖かくも涼しくもなかったなとここに来て気付く。少し肌寒いかも。
衣服と甲冑?の小山が4つ、暖かそうなマントも一緒だけど拾って使う気にはなれない。私はしっかり着てるから良いけど、ガンダロフは上着無しじゃ寒いよね。という訳でブワワッ、軽くて暖かいマントを2着ご用意しました!
「はい、どうぞ」
驚いて固まってたガンダロフに手渡す。
「…あぁ、ありがとう。その」
「着方がわからない?あ、上着も欲しいよね」
「いや、そうじゃなくて」
ポンッ。軍服っぽいジャケット出ました!
「マントにフード付いてるから帽子は要らないかな」
はぁ~…。ガンダロフは困ったような途方に暮れたような顔で息を吐いた。
「……デザイン、気に入らない?」
「そういうことじゃない、ただ」
「じゃ風邪引く前に着て」
言葉を遮って服を着させる。
渋々といった感じだったけど、さすが軍人さん、歴戦の猛者って風格が漂う。思わず小声で
「うわぁ~似合う~かっこいい~」
って呟いたら聞こえていたらしい。耳が真っ赤。
私もマントを装着!くるっと回って着心地を確かめる。軽くてふわふわで暖かい。と、ガンダロフと目が合う。彼もマントを装着。おぉ~貫禄あるなぁ。
「お揃いだね」
って言ったら顔が真っ赤になって、口元を手で覆って背けてしまった。あ、私だと着せられている感、ハンパない?
「先ずは扉を閉めようか」
二人でズズズズーー…っと閉める。さっきも思ったけど、見た目より軽いなぁ。実は石膏ボードだったりしない?
「ロト。魔法のことだけど、使う時はせめて一言欲しいし、出来れば相談して欲しい」
「うん、わかった、気を付ける。いきなり飛んだのはやっぱり失礼だったよね。ごめんなさい」
ホントにわかってんのか、コイツ。とか思われてそう。
「……善処します」
はあぁぁ~~。ガンダロフ、本日何度目の溜息?幸せ逃げまくりだ。
「……不安なんだ。また倒れるんじゃないかとか……」
「面倒だったらその辺にほっぽいても別に」
「良い訳無いだろ俺のかわいい人が誰かに持って行かれるとか考えたくもない」
彼はふぅっ、と息を吐く。
「済まない。これは俺の…気持ちの問題で、君を煩わせるようなことではないな……」
……時を経る毎に訊きたいことが増えていく。斜面を下る雪玉のように。何はともあれ、彼は面倒見の良い人なんだ。たぶん。
「……不安な思いをさせてごめんなさい」
「っ!ロトが謝ることではないんだ!俺の方こそ、ごめん……」
「理由がわからないから納得はし辛いけどね。今度から気を付ける」
謝り合戦に突入しそうなので、この辺で打ち止め!
いかにも洞窟っぽい所を扉の前から道なりに進む。幅は5~6m、高さ2.5~3m、やや上っているような。薄暗いから剣ちゃん大活躍!自分達の足音と息遣いしか聞こえない、静かな空間。
どの位歩いた?緩やかな坂道を、ちょっと曲がってしばらく歩いてまたちょっと曲がってしばらく歩いて……を何回か繰り返す。たまに服の小山が2つ組で置いてある。いや、遺っているというのが正しいのかもしれないけどね、その辺考えたくないなぁ…。
「静かだね。何にもないし出てこないし」
相変わらず臭いがお婆ちゃん家のお風呂。
「真っ直ぐではないが、一本道で迷いようが無いな」
曲がって50m程先の広く明るくなった所にベースキャンプ?その後ろに今まであったものと同じような扉が見える。大きめのテントが2つ、小さめのが3つ、端っこに設営されてる。そして所々に衣服と甲冑?の小山達。
「少し休憩するか?」
「うん。丁度良く椅子とテーブルあるし。美味しい水飲んで一息ついたら、出発しよう。魔法、使うよ。美味しい水飲もう!」
大事なことは二回言う。
「あぁ……仕方がないか」
ガンダロフは暗い顔。疲れたよね、身体的にも精神的にも。水、その辺探せばあると思うけど、なんとなく触りたくない。ポポンッと出したガラスのコップ2つに、たぷんっと水を入れてテーブルに置く。
「はい、どうぞ」
ありがとう、とガンダロフは椅子に腰掛けた。私も座って水を飲む。
美味し~~!魔法ってホントに便利。これがゲームとかだったら全MPとか呪文毎の消費MPとかの表示があるから分かり易いのだけど、苦も無くポンポン出来ちゃうって、やっぱり現実味が無いなぁ。ガンダロフにはどう思われてるんだろう。
「……ガンダロフは、私が怖い?」
「へ?いや、そんなこと思いもしなかった」
「そっか。私はガンダロフのことたまに少し怖いけどね」
彼はちょっと傷ついた表情を浮かべる。でもね。
「初めましてからそう大した話もしてないような気がしたのだけど、私としては20分も経っていないような気がしたのだけど、気が付いたらお膝抱っこで抱えられてたの。何気に恐怖体験だった」
あぁ~~、と彼は複雑な顔。
「今はガンダロフが優しいお兄さんだってわかってるのだけど」
食べられるんじゃないかと、怖くて顔を上げられなかった。っていうのは言わない方が良さそう。
「だから、さっさと外に出て落ち着いていろいろ訊きたい」
「あぁ、同意だな」
さて、出発しよう。
ベースキャンプを無視する形で扉の前へ進む。今度は外開き。ガンダロフとよいしょと押して開ける。
と、隙間からブワワワァ~~っと少し強めに六一○ハッ○の臭い!うわぁ~コリャダメだ。
「ロト!一旦閉めるぞ!」
臭いだけなら豆絞り手拭いの鉢巻きに法被着たおっさん達が『はビバのんのん♪』って踊っていそうな。ってことは近くに温泉ある?
ゴホッゴホゴホッ…
ガンダロフは先程の臭いを吸い込んだからか咽せて辛そう。
『身体に入り込んだ毒が消えますように』と祈りながら背中を擦る。ヒューヒューと苦しそうな息が穏やかになっていく。
「あぁ、大分楽になった。ありがとう」
「どういたしまして。でも、困ったね。先に進めない」
最初に居た広間からこの辺りまでは何らかの浄化装置が施されていたのかもしれない。けれどここから先は期待できないってことかな。もしくは毒ガス系トラップ?
「せめてこの扉の向こう側がどうなっているのかがわかれば良いのだが……」
「たぶんわかるよ。意識を飛ばせば見える」
ガンダロフはギョッと驚愕して
「だ、駄目だ!そんな危ないこと、させられない!」
「危ないかどうかはともかく、此処にずっと居る訳にはいかない。どうするか決めるためにも正確な情報が欲しい」
私は彼の目を見据えて言う。淡々と。
彼が何を恐れているのか何に怯えているのかは……私の中の何か、だよねぇ。今までの反応から推測されるのは。私が怪物になるとか?だから彼は私が意識を失うようなことを忌避しているのかもしれない。よし、此処を出て自由になったら、愉快痛快なことでもしてやるか!
読了、ありがとうございます
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本日は3話投稿します。
これは3/3話です。
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