46.♪や~まを飛~び~
雨上がりのすっきり爽やかな空、一日の始まりを知らせるような太陽を左に見て真っ直ぐに進んでいく。海が朝日を浴びてキラキラと眩しい。
気持ちの良い空中散歩、とはいかない。
「相変わらず辛気臭くて鬱陶しい」
空気が、重い。
「あまり先の方まで見通せないな。『聖樹』の辺りは靄が濃くて様子がわからない」
ガンダロフも浮かれた雰囲気は全く無さそう。
「そういえば、家令のユキチやメイド達は、剣や聖獣達とはどんな関係になるんだ?」
関係…ねぇ…。
「勢いで造ったから、剣ちゃんに丸投げ状態だった。ごめんね、剣ちゃん」
『大丈夫、ますたーグッジョブ!』
褒められた。嬉しくて頬が緩む。
『序列、命令系統としては、トップが主とますたー、その下に剣、そのまた下が麒麟とユキチ、麒麟の下に聖獣達、ユキチの下にメイド達。ユキチ達はもう家の中で細々とお仕事してる』
「さすがはロトの眷属、優秀だな」
ガンダロフは感心しているけど
「たぶん剣ちゃんの教育とか指示が適切なんだよ。私は造っただけで後は任せっぱなしだもの」
「そうか、それもあるが……」
ガンダロフはうんうんと頷いた。けど、何か引っ掛かったようで考え込むように黙り込んだ。
「どうしたの?」
と訊くと
「ん?あぁ、彼等はルゥさん達に仕えている訳ではないのだな、と」
その彼の言葉を剣ちゃんが受ける。
『ユキチ達はルゥさん達のお世話をするだけ。主は主だよ』
「うん、ユキチ達の主はガンダロフだよ。言うなればあの住居はルゥさん達の隔離施設みたいなものだし」
と私が言うと、彼はびっくりした顔で私をまじまじと見た。
「隔離施設?」
「うん。強制収容ではないけど、出来れば出回らないで欲しい」
鬱陶しいから。
「それは…アーリエルさんの容態も関係しているのだな。やはり長くはないのか」
ガンダロフの眉が心配そうに下がる。優しいな。でもね。
「さあ?今は元気一杯って感じだから、調子は良いよ」
「……は?」
鳩が豆鉄砲を喰らったような顔って、こんな顔?キョトンとしてかわいい。
「依り代さんの世界では116歳なんてもの凄いご長寿だからね。何時ぽっくり逝くかわからないでしょ?尤もこの世界の平均寿命なんて知らないから実はアーリエルさん若い部類だったりして」
「じゃあ…いや、嘘吐いた訳ではないのだろうが、だが…あの雰囲気では実はアーリエルさんの健康状態は重篤なのかと誤解するのでは?」
「誤解だろうとなんだろうと、ルゥさんがアーリエルさんをずっと構い倒して仲睦まじくしてもらえればそれで良し!」
私がグッと親指を立てて良い笑顔を向けると、ガンダロフは項垂れて繋いでいない方の手で目を覆い、はったりかぁ…と洩らす。
♪や~まを飛~び~……
「大きな集落みたいなものは見当たらないね」
島か大陸かわからないけど、ここって初めの認識より大きいのかな?
「『聖樹』は『聖都』にあるのだろう?『聖都』というからにはそれなりに大きな街ではないかと思うのだが」
森とか草原とか川とか湖とか海とか……自然物しか見当たらない。いや、たま~に村かな?って小さな集落はあるのだけど、細やかすぎてあっという間に視界から消える。
「方角はこちらで合っているはずだけど」
だって風が勢い付けて運んでくれている気がする。
「目的地、つまり『聖樹』の場所はあの靄が濃くなっている辺りだろう?」
飛び始めた時には薄い雲がちらほら浮かんでいたのが進むにつれて雲が厚く多くなり、進行方向のどんよりと暗く曇っている所がおそらく聖樹の真上辺りかな?見てるだけで気が重くなる。
「景色見ててもなんか楽しくないから、速度を上げようか?」
何に遭遇するか判らないし不意打ちはご遠慮願いたいからステルスモードで飛んでるけど、私達の邪魔をするようなモノにぶち当たったとしても負ける気はしないし。
「行った先で疲れていたら本末転倒だ。それに心情的にひっそりと慎重に近付きたい」
ガンダロフが繋いだ手をギュッと握り直す。彼が抑えててくれなかったら、何の考えも無しにドッカーンとやっちゃうんだろうなぁ、私。
「うん、わかった」
でもね、景色見飽きたし、なんかつまんない。気持ちがもやっているのはおそらく目的地であろう場所が靄っているのと関係はあるんだろうけど。
彼は、はぁ~っと息を吐いて
「小人、確認なのだが」
と剣の鞘に括り付けた木の札を軽く叩いて小人さんを呼び出す。
『へいっ、何でがしょ?』
相変わらず変な口調で応えて彼の胸元に移動する。
「まずは真ん中の大きな木の状態を知りたい。意思の疎通の可否に関わらずロトが力を与えることにはなるだろうが、小人の方で真ん中の大きな木がどのような状況にあるのか、わかるのであれば早めに教えて欲しい」
『承知いたしやした!では』
と手を翳しておそらく『聖樹』のある方向を眺めて、むぅ~~~…と唸る。
『…もやもやしとりますなぁ』
「「それは見れば判る」」
私とガンダロフ、突っ込むのも息ピッタリ。と次の瞬間、胸の中にざわざわざわと何かが伝わってくる。
……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……
「ロト」
ガンダロフに呼び掛けられて、茫然としていたことに気付く。
「なんかずっと『嫌だ』って言ってる」
「あぁ、俺も不快なものを感じた」
ガンダロフが顔を顰める。
『真ん中のはわっちの呼び掛けに応える余裕が無いようで…』
と、小人さんがオロオロして報告する。
「前言撤回、先を急ごう」
「うん、了解」
小人さんはそのままガンダロフのコートの内ポケットに入って、私達は飛行速度を上げた。
『聖都』に近付く毎に辺りは段々と暗くなって、心の中のもやもやが増していく。もうお日様はかなり高い位置にあるけど、雲が厚い。
あ、外壁とその後ろに多くの建物、大きな街っぽい感じ。
「ねぇ、あの茶色の塊、大きな木じゃない?」
都市部の中の小さな山かな?って思ってたけど、初め目に着いた緑色が徐々に色褪せていって今はすっかり枯れ葉色。胸の中のざわざわが重く拡がる。
「小人、呼び掛けに応答はあるか?」
小人さんは再び、むぅ~~~…と唸って交信を試みる。
外壁を越えてあと1分もせずに大きな木の端の枝まで到着する。街並みは暗く静かで生き物の気配が薄い。
『もの凄く嫌がって、どうにも』
と小人さんが言ったところで
もう駄目ーーーっ!無理ーーーっ!
絶叫が痛みと共に胸に突き刺さる。
「ロト!大丈夫か?」
ガンダロフが胸を押さえてる。彼も痛みを感じたのかな、顔色が良くない。
「悲痛な叫び、文字通り痛い。でも、大丈夫」
私も同じように胸を押さえてた。びっくりして速度が落ちたしちょっと涙目で視界が呆けたけど、すぐに頭を振りかぶって立て直し真ん中の大きな木の元へ急ぐ。真夏の施工したばかりのアスファルト舗装のようなぐえっとくる臭いが漂う。
「ガンダロフは具合悪くなってない?小人さんは?」
「俺は大丈夫だ。小人は今の叫びを真面に喰らったのか気絶している」
「そっか、しょうがないね、痛かったから」
真ん中の大きな木は本当に大きくて、幹の太さは小さなお城位はあるんじゃないかってほどなのだけど、今はもう干からびてビキビキビキと亀裂が走りまくっていた。
そしてその無数の亀裂から黒い靄が染み出して上へ上へと昇って分厚い雲のようになってる。
「木の中が燻されているみたい」
石油系の何かを不完全燃焼させたらこんな気持ち悪い臭いになるのかな、ダイオキシンとか大量発生させてそう。毒や臭いでやられないようにと私達全員に結界を張る。ガンダロフが聖獣達をコートから出して背中に貼り付く感じでそれぞれ待機させる。
「剣ちゃん、聖獣達、ガンダロフを護ってて」
「待て、ロト。一人で行くな」
繋いだままの手をガンダロフが握り締める。
「うん、一緒にいる。だから」
彼の不安げに揺れる瞳を真っ直ぐに見返し
「とばっちり食わないように、ね?」
と私も彼の手を握り返す。
「じゃ、行くよ!」
読了、ありがとうございます。
<(_ _)>
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