45.後味悪いの、嫌だからね。
さて、お出掛けだ!と玄関から外に出る。雨が上がって薄く朝焼けっぽい空だ。
「おはようございます。申し訳ございませんが、ご出立の前に少しお時間を頂きたいのですが」
♪チャラリラリ~~ッ!ルゥさんが現れた!
「おはよう。寒いのにわざわざ外で待ってたの?」
絶対逃がさないぞ!って感じだね。アーリエルさんはまだお眠かな。
「これを共に持っていってもらえればと思いまして」
とルゥさんは琥珀色の石が嵌まった金色の指環を差し出す。
「これは私と話が出来る道具です。聖都や他の地方でもわからないこと、困ったことなどで、少しでも私共の知識がお役に立てたら幸いです」
指環、ねぇ。なんとまあ色気の無いこと。要は監視用アイテムだな、GPS機能が付いてる。動向が気になるのはお互い様、だから。
「ありがとう。私も気掛かりではあったから、早速使わせてもらうよ」
私はその指環を掴んで、反対の手でルゥさんが差し出してた手首を掴んで笑顔で応えた。
「頑張って良いモノ造るからね」
ルゥさんがギョッとした顔をしたのもちょっと後退りしたのも背後の面々がザワッとしたのも気にしないで、かつてルゥさんに注ぎ込んだ力を吸い取っていく。
「一体、何を…」
と硬直して弱々しく溢すルゥさんを無視して、指環に力を注ぎ込み変化させていく。
そうして出来上がったのがこちら!
目は細いけどルゥさんにどことなく似た風貌の、銀縁眼鏡をかけて黒のスーツをビシッと着こなした短い黒髪の優男。
「この住居の家令」
はぁっ?と周りから驚きの声が重なって聞こえる。
「まだまだ足りない」
と立て続けにメイド3人を造る。顔はなんとなくルゥさん似の少し幼い感じで色味はそれぞれ濃紺、濃灰、濃紫。
「3人で足りるかな」
とルゥさんの手首を離して家令に確認する。
「はい。ご配慮いただき感謝いたします」
家令、メイド計4人、息ピッタリにお辞儀をする。
「こ、これは、どういう…」
ルゥさんが茫然と呟く。
「心配だったから。ルゥさんと捕虜で家事出来るかなって」
「確かに。だからといって聖獣達を置いては行けないからな」
ガンダロフと聖獣達も同意したように頷いている。
「……ご配慮、感謝します……」
ルゥさんはまだ衝撃から立ち直れないのか、手首を擦りながら気が抜けたように言った。
「名前は私が付けても良い?」
と訊くとルゥさんは、はい、と小さな声で返した。
「では!」
家令は『ユキチ』、メイドは『ウメコ』『イチヨウ』『シキブ』と名付ける。
『ユキチは剣ちゃんの指示に従うように』
と密命を授けてから
「家の中のことをしっかり管理して、ルゥさんとアーリエルさんが心安らかに暮らしていけるようお世話して欲しい」
とお願いした。
「「「「畏まりました、ますたー」」」」
あ、ここでも『ますたー』呼びなんだ。
「……素晴らしい…やはり私など足元にも及ばない……」
ルゥさん、ブツブツ言ってるけど、そろそろ現実に戻ってもらおうか。
「ルゥさん」
彼に呼び掛けると、向き合ってしっかりと目を合わせる。
「身の回りのことは彼等に任せて、ルゥさんはアーリエルさんが日々を楽しく穏やかに過ごせるように、出来る限り傍にいて欲しい」
「はい。ありがとうございます」
ニッコリと心が読めない笑顔、条件反射的な対応だ。まだ動揺してる?私は少し困り顔で進言する。
「わかっているとは思うけどね、アーリエルさん、いつ儚くなってもおかしくない状態だから。本人に自覚があるかはわからないけど」
ルゥさんの笑みが引っ込む。
「魔神とか聖女とか関係無く、アーリエルさんはルゥさんのことを求めている。だから、それに応えて欲しい」
だから、私達には関わるな。
「聖都の様子はユキチに伝えておくから、そこからアーリエルさんにどう話すかはルゥさんが決めて」
尤も私は『聖樹』のことしか手を出さないと思うけどね。ルゥさんは伏し目がちに、はい、と返す。も少し念を押しとくか。
「ルゥさんもアーリエルさんも、ずっと離れ離れでやっと逢えたんだし、俗世から離れてまったり過ごしても、誰も文句言わないし私が言わせない。ここで落ち着いて暮らしていて欲しいんだ。私の勝手な願いだけど、『幸せ』を実感して欲しいから」
「幸せ……」
ルゥさんは私の言葉を反芻しているのか、ボソリと呟く。
「私とガンダロフは、この世界で『幸せ』に過ごすことを望まれたから、全力で、って訳ではないけど程々に頑張ろうって感じで生きていく。独りではなく私の手の届く範囲で、みんなで幸せでいたい」
本音としてはガンダロフ以外どうでも良いんだけど、後味悪いの、嫌だからね。私の知らない所で知らない人がどうなってても興味無い。
「そうだな……幸せ…私の幸せは、アーリィの笑顔だ」
ルゥさんは顔を上げて
「ありがとうございます。目が覚めたようなすっきりした気分です」
と言った。
「それは良かった」
ひとまず落ち着いたかな。
「では、俺達はそろそろ出発する。ルゥさん達もお元気で」
ガンダロフが出立を促す。
「アーリエルさんによろしく。じゃあ」
と踵を返すと、ガンダロフと聖獣達と共に大きな木の所に転移した。
「素早いな」
ガンダロフが少し呆れたように言った。急に景色が変わったから具合悪くしたかなって心配したけど、大丈夫そうだ。
「まだいろいろ構われるの、なんか嫌だったから」
言いっ放しで逃げちゃった。
「しかし出立前から力の使いすぎでは?」
彼の眉間にしわが寄る。
「力自体はルゥさんに与えた分を使ったからそれを制御したくらいだよ。彼の力を削ぐのにも丁度良かったし、彼等の監視も出来る」
『格の違いを見せ付けるのにも役立ったと思うよ。それに力を持たせたまま放置したら、何しでかすかわからないし』
「あぁ、そんな雰囲気はあったな。ただ、企みを考える前にロトが潰していっている感じがしたが」
「これで大人しくしててくれるかな」
私とガンダロフはお互いを見合って苦笑した。
聖獣達は元の小さな姿になって、私に麒麟、青龍、玄武、ガンダロフに朱雀、白虎がそれぞれのマントの内ポケットに待機という名の休憩をしてもらう。
小人さんに大きな木と繋げた扉の具合を確かめさせて、さて漸く出発だ!
「また来るね!」
大きな木に挨拶して、ガンダロフと手を繋いで真上に飛んだら、大きな木が豆粒大になったくらいで一旦止まる。
風が、早く!早く!来て来て!と急かすように強く吹き始める。ガンダロフと離されないように、腕を絡ませ指を絡ませて手を繋ぐ。彼の手が熱くて湿っぽいのは、緊張してるからかな。
「あちらの方から呼ばれてるような気がする」
指差したのは地図上では真ん中辺り、南の方角。
「では、行こう」
ガンダロフの掛け声に
「うん」
と応えて南に向かって飛び始めた。
雨上がりのすっきり爽やかな空、一日の始まりを知らせるような太陽を左に見て真っ直ぐに進んでいく。海が朝日を浴びてキラキラと眩しい。
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