35.100点満点中
寝起きドッキリ喰らったみたいな顔で、ガンダロフが固まってる。すっかり目は覚めたかな?
「離れがたいし、いろいろ訊きたいのだけど、まずは朝ごはんの用意をしなきゃだね」
彼は真っ赤な顔で「あ、あぁ」と目を瞬かせた。
※※※※※
♪あ~さ焼け~の~……
「「おはようございます!」」
ガンダロフと二人、厨房の方から外に出たら、朱雀と玄武が人型で厩舎の清掃をやってた。
「おはよう、お疲れ様」
「無事にお目覚めになってなによりです」
と朱雀。外周には異常は無く、馬さん達も大きな木の方へ移動したと言う。
「今日は雨が降るかもしれないね。恵みの雨だ」
機会があれば馬さん達にも伝えてね、と言い残して、建物から少し離れて、マジックバッグの検分再開!
「もう、怪しいところは無さそう」
マジックバッグの開けた口から手を突っ込んで、怪しい気配を探っていく。が、それらしい感じは全く無い。
「で、美味しそうなのがいっぱい!」
「…厨房で出した方が良くないか?」
収納物リストには食材の他に幾つかのセットがあって、朝食、ランチ、豪華ディナーとか、調理・盛り付け済みで出せば即食べられる状態で収納されていた。
「今日の朝ご飯はこれにしようよ。ルゥさんとアーリエルさんの分もあるし、この世界の食事がどんな物か、すっごく興味ある!」
毒味を兼ねて、まずは捕虜二人に朝食セット①と②を1つずつ食べてもらう。天幕に行き、目の前でバッグの口を開けて出来たてほやほや湯気が出てる物を並べるのを、声も無く口をポカンと開けて目で追う捕虜二人。①と②は目玉焼きかオムレツか、ベーコンかウィンナーかの違いで、後はロールパンとサラダとコンソメスープは同じだ。
「どうぞ、召し上がれ」
捕虜二人はお互い顔を見合わせて、「なんだこの待遇の良さは?毒味って、あれは上司のバッグだよな。なんで口開いてんの?魔神だからなんでもありなのか?」とか目だけで会話してそう。
「さっさと食べろ。せっかくの温かい料理が冷めるぞ」
とガンダロフが勧めると、ひぃっ!と慄いて食べ始めた。……食べる前にお祈りとかしないんだ、神に仕える身なのに。あぁ、でも宗教といっても様々だよね。
見張り役の白虎に後は宜しく!と言って天幕を後にする。
さて、私達も朝ごはんにしよう。どれにしようかな?ルゥさんとアーリエルさんの分は彼らの部屋まで青龍に持っていってもらい、私とガンダロフは食堂でそれぞれ朝食セット①②を選んで、というかお互い食べ比べをしてみた。ホテルロビー横の喫茶店の朝食セットみたいな、まぁ、プロの手のものだね。塩気が強くて味がくどいけど、美味しいのだと思う。
「でも、昨日ガンダロフが作ったスープ、食べてみたかったなぁ」
「君の作ったものに比べたら、何かが足りないような。何と言えば良いか、予想通りの味というか」
「聖獣達には大好評だったんでしょ?」
聖獣達は私達がマジックバッグの朝食セットを食べると話していた時に
「では昨晩のスープの残りは我々が頂きます!」
と直ぐさま五人で分けて食べてしまった。
「きっと美味しかったんだよね」
「俺としては君と同じ材料で同じように作ったはずなのに、やはり何かが足りない気がして」
「……経験、かな?」
単純に依り代さんの主婦としてのキャリアが役立っているんだと思う。
体格差があるのだからと、私とガンダロフで1:3に分けて完食。それでなくともこの世界に来てからの食事は薄味だったから、これは美味しいのだけど味付けが濃くて、二人して水をたくさん飲んで誤魔化した感じがした。
今日の予定としては、情報収集と分析、今後の方針を決める、と大まかに確認していたところで思い出した。
「そういえば……」
※※※※※
「なんだ、あれは……。いや、聞いた通りだが」
ガンダロフの呆れた声が響く教会の地下、台座の上に鎮座ましますのは白いカード。洗練された赤い猫の図形と黒い文字がとてもお洒落な感じ。でも
「50点」
「は?」
「文面がキャッツカードにそぐわない」
「文面?『前担当者の残滓の捕獲、感謝する。監理者分身体』とあるが」
「読めるの?」
「元いた国の言葉で書いてある」
「私が遠見で見た時は漢字で堅苦しく書いてあって」
と言っている傍から文面が変化する。
『前担当者の残滓、確かに頂きました。捕獲、感謝いたします。監理者分身体』
うん、これなら100点満点中95点だな。-5点はこれが予告状ではないから。字体まで味気ない明朝体から、かわいらしい丸文字に変わってて……正直、引きますが。私が黙りこくったのをガンダロフは訝しげに見て
「かんじ?」
と呟く。
「文面が変化した。内容は同じだけど」
「昨日の葉の手紙と似た感じだな」
ガンダロフは自身の顎に手をやって、不思議そうにカードを見た。知的な横顔にしばし見蕩れてから
「この世界の神秘に触れる事を洩らされたくなかったのかも。これに関しては何か出来る訳では無いから、ルゥさん達にも報告してこの件はお終いかな」
これはこのまま記念に残しておこう。ちなみに剣ちゃんはボールとカードがすり替わった瞬間に気付いたけど分身体さんの仕業と直ぐに判った為、私達の休息を優先したんだそうな。
※※※※※
ルゥさんとアーリエルさんの部屋へ訪問する。お二人はソファで寛いでいたのかな?立ち上がって軽く朝の挨拶等を交わして二人並んで対面のソファに座る。
「具合はいかが?大分顔色が良くなりましたね」
青龍が入れてくれたお茶を飲みながら身体の調子を覗う。
アーリエルさんは
「はい。おかげさまであれから朝まで久しぶりにぐっすりと眠れました。こんなにすっきりと目覚めたのはルゥと離れてからは初めてです。本当にありがとうございました」
と喜色満面の笑みで答えた。聖女の微笑み、尊し。長年の憂いが晴れて肌艶も良くなって、一晩で随分と健やかになったかも。
「私だけではなく彼女にまでその慈愛に満ちたお力を使っていただき、この、感謝の念を、どうお伝えしたら良いか……本当に、ありがとうございます」
ルゥさんの焦げ茶色の瞳が潤んでる。そんなルゥさんを労るようにアーリエルさんは彼の膝の上に置かれていた手に自身の手を重ねた。ずっと離れ離れで辛かっただろうな。
「私としてはこの世界の情報を得る対価として使ったつもりだから」
「はい。私共でわかることであれば、何なりとお答えいたします」
ルゥさんはにっこりと笑顔で応じた。『何なりと』か。
「では初めに、ルゥさんとアーリエルさんが力を得た時の事をお話していただいても、よろしいでしょうか?」
何だろう、お二人とも顔がほんのり赤くなったの、何故?無意識に変な事言ったかな?とガンダロフの方を見ると彼も何故だかよくわからないって感じでこっちを見て、それからお二人に
「お二方が魔神と聖女になった経緯を聞いて、自分達とどのような相違があるかを調べたいのです」
と補足してくれた。
「相違、ですか……では…はい。私が『魔神』としての力を得た時の事をお話しいたします…」
とルゥさんは静かに語り始めた。
「私は、元はルドラ・ダイザーというダイザー王国の第二王子でした。王座に興味は無かっ」
「ちょっと待ってください。申し訳ないのだけど」
私がルゥさんの言葉を遮ると、ルゥさんは少し不満げに顔を顰めて口を噤んだ。
「ルゥさんが教会の偉い人で殺されて力を与えられて所謂魔神になった、ってことですよね」
独断と偏見に満ちた勝手な憶測だけどね。
「私が知りたいのは、お二人がどのような状態、状況で力を得たか、ということです」
言外に「ルゥさんの過去は興味無い」と伝わるように表情を変えず淡々と言葉を連ねる。目の端でガンダロフが頭に手をやって、はぁ~と小さく溜息を吐いたのが見えた。
でもルゥさんは「なんで知ってるの?」と驚きの表情をほんのわずかだけれど浮かべて
「そうですか…失礼いたしました」
と否定しなかったから、そういうことにしておく。
読了、ありがとうございます。
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現在、諸事情により夜更かしが出来ません。楽しみにしていただいている貴重な方々には大変申し訳なく思っております。更新の頻度は低くなりますが、完結まで気長に書いていきますのでお付き合いの程宜しくお願い申し上げます。




