32.燦然と輝いて
軸を持ってクルッ、クルッと回して表面を観察する。文字は無い。爽やかな青い香りが辺りに拡がっていく。齧ってみようかな、と思ったら、葉っぱは光りながら粒になって私の胸元に吸い込まれた。
『長らくお待ちしておりました、創造主のお力を持つ貴方様を。この度は大層美味な波動を頂きましたこと、大変喜ばしく思っておりますれば、また今後ともお付き合いの程宜しくお願い申し上げます。』
頭の中、というよりは胸を中心に、身体全体に言葉が響く。
「…お礼?」
なんか、細かいところはよくわからなかったからもう一度聞きたいのだけど、と思ったらまた言葉が響いた。
『ずぅーっと待ってたんだよっ、創造主のお力を持つ君を。この前はものすごぉく美味しい波動を与えてくれて、本当に嬉しかったの!これからもよろしくねっ!』
えっ?!萌え?!前後のあまりの違いに固まっていると、
「何か衝撃的なことでも言われたのか?」
と、ガンダロフが心配して声を掛ける。私は首をふるるっと振って
「ううん、内容は、端的に言えば『待ってた、ありがとう、よろしく』なんだけどね。最初に聴いた声と口調が、あぁ、分身体さんに似てたのかな。で、ちょっとお堅い言葉が耳慣れなくてもう一度聞きたいって思ったら今度はかわいい女の子の声と口調で、あまりの違いにびっくりしたの」
分かり易くはなったし内容は変わってない、はず。でも声と口調が変わるだけで印象がこうも全く違うとは。
「そうか。受け取る側の能力などによっても、意味は同じでも印象が違うのかもな」
「ちなみにガンダロフはどんな感じだったの?」
萌え声の女の子口調だったら、ちょっと、なんか、嫌だ。
「ん~。はっきり声として聞こえた訳では無いな。『来てくれてありがとう これからもよろしく』。なんとなくそう言っているのかと伝わってきた、という感じだ」
「そっか~。じゃあそのうち一緒に行こうね」
「あぁ、馬達のように木陰で昼寝をするのも気持ち良さそうだ」
窓の外に目を向ける。陽の光が少し橙色っぽい。もうすぐ夕方、晩御飯を考えなきゃって思ってしまう。でも。
「今日はもう遅いから、また今度だな」
ガンダロフは大きな手で私の後頭部をゆっくりと撫でる。気持ち良い。このまま寝たい。でも。
「ガンダロフ、お願いがあるのだけど」
彼は手の動きを止めずに
「俺に出来ることならば何だってやるぞ」
と頼もしいお言葉。では、お言葉に甘えまして
「私が寝付くまで、一緒にいて。寝てしまった後は自由にしてて欲しい、というか、ちゃんとご飯食べてね」
すると、ガンダロフは
「お腹は、空いていないか?何か食べてからの方が良いか?」
と聞いてきた。私は首をふるると振って、後頭部を撫でるガンダロフの手を取り口元に持ってくる。ん、食べたい。でも、それはひとまず置いといて。
「あと、ガンダロフの背中を見せて欲しい」
ガンダロフは少し驚いたように目を見開く。
「アーリエルさんの背中には紋様が刻み込まれていた。あれ、凄く痛々しいのだけど、ただ取り払うだけでは良くない気がする。もしガンダロフに同じような紋様があったとして、それが何かガンダロフに痛い思いをさせてたらとか考えたら」
そんなの許せない。そう続ける前に掴んでいた私の手ごと、彼の手が私の口を優しく塞ぐ。彼は私を安心させるように柔らかな表情で
「大丈夫。紋様はあると言われたが、背中の何処にあるかわからないほどの存在感の無さだ。ラクーシルとかいう白修道服も、それを狙っていたようだがなかなか見つけられなかったし、見つけても利用するのは難しそうだった」
ガンダロフは握られていない方の手で私の頬を撫でて
「心配掛けて済まなかった。夢の中で分身体に忠告されていたのを、伝えていなかった」
と眉尻を下げた。そういえば朝、起きた時に随分ぼんやりしてたっけ。
「ううん、無事だったから、いい。それより、分身体さんの忠告って、紋様だけ?」
頬に添えられた彼の大きな手の暖かさを堪能しつつ問い掛ける。
「それと、『ロトを疲れさせるな』」
私?
「疲れていると判断力・思考能力が著しく低下するから、と」
「だからお昼寝?」
「そういうことだ」
「でも、紋様のことが気になる」
気になって眠れないかも。とまでは言わないけど。
ガンダロフは、はぁ~、と息を吐くと
「そうか、そうだな。では、昼寝前に。あとは?」
「う~ん…うん、私の方はそれだけ。ガンダロフは、分身体さんに言われたのって他には無い?」
「あぁ、『人間共に気を付けろ。やられたらやり返せ』というのは、今となっては、まぁ、事後だな」
そうだね。みんな無事で良かった。
ベッドでガンダロフの背中を見せてもらう。私もすぐに眠れるように寝間着に着替えて、ガンダロフはシャツを脱いで待機。…うわぁ見事なシックスパック…。
「ベッドの上でうつ伏せに寝そべった方が良いか?」
甘い花の香りがふんわりと漂う中、ガンダロフの顔が赤い。私も負けずに頬のみならず、身体全体が火照ってきた。いや、私が照れてどうする!
「ううん、ベッドに腰掛けて」
いつでも逃げられるように。今の私は、興奮したら自分でも何するかわからない。剣ちゃんに念を送る。ガンダロフを護ってね。って。剣ちゃんは、承知。ってこそっと返してきた。
大きくて広い背中、肩甲骨と僧帽筋が織り成すなだらかな曲面に見蕩れる間も無く、その丁度真ん中にそれは燦然と白く輝いていた。あ、少し赤みが刺しているのか、ほんのり桜色。缶コーヒーくらいの大きさの歪みの無い円周に、単純そうに見えるけど複雑な模様が整然と印されていて
「うわぁ~、凄ぉ~い、きれ~い」
と、思わず感嘆してしまった。
「アーリエルさんの物とは全く違うのだけど?」
どういうこと?
「そんなに違うのか?というか、直ぐに見つけられたのか?」
当然だけど見ることが出来ないガンダロフが焦れったそうに訊いてくる。
「うん。光り輝いてる。全くの別物。かなりびっくり。3歳児のお絵かきと建築家の製図くらい違う」
「そんなに違うのか……」
言葉だけの説明で納得してもらえたの、何気に嬉しい。
「触、っ、ても、良い?」
いや、『駄目』って言われても何かと理由付けて触るけど。肉体美というものにドキドキしているのか、それがガンダロフだからなのか…他の人には興味無いから、彼だから、だね。
「あぁ、どの辺にあるのか示してもらうと有難い」
「うん。この辺り」
と指で円周をゆっくり反時計回りになぞる。暖かい。ガンダロフの身体が一瞬小さく震えて、ぅんっ、と小さく声が漏れる。かわいい。甘い香りが濃くなって、柑橘系の酸っぱい香りが仄かに混じってきた。紋様はキラキラと光って桜というよりは桃色に近い色合い。美味しそう。私の身体の奥の方の、いつもは忘れている熱い何かがグラグラと湧き出して、身体中を駆け巡って、火照りが酷くなる。熱い。
「ロト?」
ガンダロフに呼びかけられるまで紋様の円周を指で何度もなぞって、というよりは撫でて、それでも納まらずに紋様に口づけて彼を抱き締めた。
「ガンダロフ……大好き……」
欲しい。……何が?身体中を駆け巡る熱い何かは向かう先を求めて私の中をぐるぐる駆け回るのに、私はそれを何処に向けたら良いのか……どうしたら良いのかわからない。
しばらくガンダロフを抱き締めていたら、少し熱が治まってきた。けど、その間彼は……悶えてた?身体を小刻みに揺らしながら、時折喘いでて。気付けば、私の右手は彼のお臍の辺りを撫で撫でしていて、それを抑える為か逃がさない為か彼の右手が添えられて一緒に撫で撫で。えーっと、どうすれば良い?
読了、ありがとうございます。
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